114.手合わせ
新章開幕です!
ナイオスの着いていくまま、俺たちは森の中を歩いていた。どうやら彼が住む家は森の奥にあるらしく、細々と一人で暮らしているらしい。
彼曰く領地を持たない貴族だから特別裕福なわけではないが、気楽にやれているらしい。
「ここら辺は魔物が出ないんだな」
森の中を歩きながら、俺はそんなことを呟く。自分が先程までいた場所はポイズンファングもいたし、ゴーレムもいたくらいには賑やかな場所だった。けれど、今いる場所はかなり静かに思える。
「この辺りは魔物が嫌う植物が生えていてね。滅多なことがない限りは入ってこないんだ」
「なるほどな。万が一入ってきた場合はどうしているんだ?」
「僕が倒しているよ。こう見えて魔法は得意なんだ」
先程戦闘して分かったが、魔界の魔物は人間界のものより強い。それを一人で対処しているってなると、尊敬してしまう。まあ彼は魔界に住んでいる上に、貴族としての魔法の経験があるからどうにかなっているのだろう。
「もうすぐ見えてくるよ……ほら、あれだ」
「おお~良い感じの邸宅って感じだな」
少し木々が開けてきた先に、ナイオスの家があった。木造製の落ち着いた外観をしている。庭には白い花が咲いており、恐らくペットなのだろうが猫がのんびりと歩いていた。
「私のファンなのに私よりもいい家に住んでる……!」
「この敗北感はなんでしょうか……!」
「ははは。まあナイオスは貴族だからな。一般庶民の俺たちと比較しちゃダメだろ」
謎の敗北感に苛まれている二人をなだめながら、俺はぐっと背を伸ばす。平和な森の中ということもあって、なんだか落ち着くな。空気も美味しいし、老後はこんな場所に住んでみたいものだ。
「部屋にあがったらお茶でも用意するよ。あ、でもその前に頼みたいことがあるんだ」
突然ナイオスがぐっと顔を寄せてきて、にこりと笑う。頼みたいことってなんだろうか。俺ができることだなんてたかが知れている部分もあるし、あまり望みは叶えられないと思うが。
「僕と手合わせして欲しいんだ。一度、自分の体でカイルの実力を試してみたくてね」
「手合わせか。もちろん構わない。俺も俺でしばらく対人戦は久しくしていなかったから、少しワクワクする」
俺がそのような依頼を受けなかったのもあるが、対人戦なんて滅多なことがない限りはしない。それこそ直近で言えば魔族との戦闘くらいだ。
「ふふふ! うちのカイルに挑もうだなんて、恐れ知らずだねファンくんは!」
「カイルさんのステータスが壊れていることを知らないんですか! 最強なんですよカイルさんは!」
もう『ファンくん』とか言う意味の分からない名前になってるし、そもそも俺のことを二人は上げすぎである。一応魔族との戦闘も乗り越え、ある程度は強い自信もあるが相性問題だって出てくるだろう。ナイオスの持つ能力次第では敗北の可能性だってある。
「それじゃあやろうか。家の庭は広いから戦闘するには申し分ないし、もちろん友人である僕だからって遠慮はする必要ないよ」
言いながらナイオスは歩く。俺より数歩先に進み、くるりと踵を返してこちらに向いた。
「さぁ……やろうか。本当に君と戦えるだなんて光栄だよ」
彼は首からぶら下げている鍵を握りしめ、鋭い視線でこちらを睨めつけた。
いい目をしている。戦闘にはある程度慣れている者の目だ。ならば……俺も遠慮はしていられないな。
「全力で行こうぜ! エリサ、合図を頼む!」
「もちろんだよ!」
エリサはぐっと拳を固め、そして思い切り天に突き上げた。
「――始め!」
「カイルさん頑張ってください!」
彼女たちの声を合図に、俺たちの戦闘が始まった。