112.私たちのファン……!
「しかし蔓で形成されたゴーレムなんて聞いたことがないッッッ! これも魔界特有のものだろうなッッッ!」
「でしょうね。岩石で形成されたゴーレムなら衝撃を与えれば破壊できたでしょうが……蔓のせいで吸収されちゃいましたし」
「うむ……カイルと共闘する際はいつも打撃が魔物に効かない……格好が付かなくてしょぼんだ……」
「確かに……」
以前も物理耐性を持った特殊なオーガのせいで、彼の攻撃は無効化されていた。なんだか少し不憫に思えてくるな。
「まあまあ! でも魔界の魔物も分かったし、いい運動にもなったしよかったじゃん!」
エリサがリエトン伯爵の背中を叩きながらケラケラと笑う。いや、お前本当に肝が据わっているな。相手は一応貴族であり、俺たちよりも立場上では格上だ。あんなことをしたら普通の貴族だと斬首刑確定だぞ。
「しょぼん……筋肉も泣いている……」
「元気出してください! 筋肉さんがんばれがんばれ!」
「うわぁ……」
思わず引き気味になってしまう。なんたってしゃがみ込んだリエトン伯爵の頭をユイが撫でているのだ。筋肉ムキムキマッチョマンが華奢な少女に励まされている光景はまさ奇異といっても過言ではない。
俺にはできないことだが……まあ仲は良さそうで何よりではあるが。
「筋肉さん元気出てきた?」
「もっとなでなでしてあげましょうか?」
「ああ……だがッッッ! かなり元気が出てきたぞッッッ!」
テンションが限界まで落ちていたリエトン伯爵であったが、女の子たちからの励ましが効いたのか、ムキムキの筋肉がピクピクと動かしながら立ち上がった。完全復活である。やはり女の子のよしよしが効くのは誰でもそうらしい。
「魔界の魔物も理解できたッッッ! 満足だッッッ!」
「それはよかったです」
リエトン伯爵の知的好奇心はどうやら満たされたようだ。まあ魔界の魔物独特の能力を見られたのだから満足してくれないと困る。
「帰るとするかッッッ! 帰り際に魔物が出たら狩る程度にしようッッッ!」
そう言いながらリエトン伯爵が踵を返す――だが、途中で固まった。むむむと唸り、目を細めている。俺も彼が見ている方向を向くと、一人の少年の姿が見えた。
「さすがだねカイル。君を見かけたから追いかけてみれば、強力な魔物を討伐しているところを見られるなんてラッキーだったよ」
「ナイオスじゃないか!」
俺が駆け寄ると、ナイオスはくすりと笑う。まさか彼ともう一度出会えるだなんて思っていなかった。パーティで友人になったとは言え、彼も貴族の身だ。忙しいだろうし、きっとその場限りだろうなと思っていたのだが。
「この人は誰?」
「カイルさんの知り合いですか?」
二人が不思議そうに小首を傾げる。それもそうか。彼女たちはナイオスと話していた時にいなかったもんな。俺が伝えようとすると、俺よりも先にリエトンが口を開いた。
「ナイオスくんッッッ! パーティでは世話になったッッッ!」
「あれ? リエトン伯爵は知っているんですか?」
俺が疑問を呈すると、リエトン伯爵はこくりと頷く。
「ああッッッ! 私の筋肉を絶賛してくれてなッッッ! もう彼は友人だよッッッ!」
ははぁ……どうやらナイオスはパーティでリエトン伯爵とも出会っていたようだ。しかしパーティで隠れ気味になっていた俺とは違って、彼は色々な人と話していたんだな。かなり若いのに尊敬してしまう。
「私たちの質問の答えがまだだよ!」
「カイルさんと親しいようですがどなたですか!」
何故か怒り気味の二人。そこまで怒る要素があっただろうかと思うが、しかし彼女たちの質問を見逃してしまったのは確かだ。そこは申し訳ないことをした。
「彼はナイオスって言う魔界の貴族なんだ。どうやら俺のファンらしい」
「エリサさん、ユイさん、初めまして。もちろんお二人のご活躍も聞いております。しっかりお二人のファンでもありますよ」
ナイオスは丁寧な所作でエリサたちに一礼する。二人はそれを見て、驚きと喜び半々の表情を浮かべた。
「私たちのファン……!」
「ふぁ、ファンなんて存在していたのですね……!」
二人はお互いの手を合わせてキラキラと目を輝かせている。そりゃファンだなんて言われたら嬉しいに決まっている。俺たちは勇者を目指して活動していたし、少なくとも誰かの心に残るような活躍をしたいと思っていた。
そして、今のように面と向かってファンだなんて言われたら興奮しないわけがないだろう。
「ナイオス! よろしくね! 私たちに何でも聞いてよ!」
「ファンのためならばなんだってします! こう見えてわたしたち、ファンサはどこの有名人よりも丁寧だと自負しております!」
先程までぷんぷんしていた二人であったが、ナイオスの対応を見てすぐにころっと手のひらを返してしまったようだ。しかし俺としても彼とは仲良くしてもらいたいから嬉しいところである。
「ところで……なんだけれど。カイルたちはまだ時間はあるかな?」
「時間……?」
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