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111.ゴーレムの討伐

 己の頬を叩き、気合いを入れる。相手の能力はもう分かった。ならばその対策をしつつ攻めるだけだ。


 しかし対策と言っても、そこまで難しいことではない。内容としては『魔法を使う余裕を与えない』だけである。動きを見た感じ、魔法を使うにもある程度時間が必要な様子である。


 ならば隙を与えなければこちらのものだ。


 俺はナイフを取り出す――物としては解体する用のものだが、これくらいでも今はいい。ナイフを投げ、一体の魔物の首に直撃させる。もちろん首への一撃は生き物にとって致命的なものだ。魔物は苦しそうに息を吸い込もうとするが、しかし吸えば吸うほど入ってくるのは血液である。


 苦しんでいる魔物に距離を詰め、乗りかかる形で刺さっているナイフに思い切り力を込める。深々と刺さったナイフを引き抜き、動揺しているもう一体の魔物へ投げる。


 魔物は混乱している中で、どうにかナイフを避けるが――それはあくまで陽動である。ナイフに注視しているポイズンファングに向かって、渾身のパンチを繰り出した。


 相手の骨が軋むのを感じながら、トドメの一撃を食らわす。


「ふぅ……疲れた」


 木に刺さったナイフを回収した後、リエトン伯爵たちの方を見てみる。ちょうど三人もポイズンファングの討伐に成功した頃合いだったようだ。


「はははッッッ! 魔界の魔物は魔法を使うかッッッ! はははははッッッ!」


 リエトン伯爵は興奮のあまり大爆笑してしまっていた。もう笑いが止まらないといった様子である。ここまで愉快な感じになっているのは初めて見た。


「うげぇ……魔法を使うとか聞いてないよぉ……大変だったぁ……」


「驚きですね……こんなのが日常的にいるって考えると怖いものがあります……」


 エリサとユイはお手本のような反応をしていた。俺としてはこっちの方が安心感がある。


 ともあれ、相手の体感としてはAランク程度だっただろうか。ユイが言っているように、こんな魔物が日常的に現れると考えると魔界は恐ろしい場所だ。


 いや、でも魔族たちはそれに順応しているということは、わりと彼らたちにとってはどうってこともないのかもしれない。魔族の技術力からしてもありえることだ。


「ダメだッッッ! 実に愉快な魔物だったもので笑いが止まらないッッッ! はははッッッ」


「まあ、納得いただけたようで俺も嬉しいです。それじゃあルルーシャさんに感づかれる前に早く帰りましょう――っ!」


 踵を返そうとしていた体を、咄嗟に止める。


「リエトン伯爵……」


 俺が尋ねると、彼はにやりと笑いながらもどこか緊張した面持ちを浮かべた。


「ああ……何かが来ているな……!」


「え? なになに?」


「お二人は一体何を感じているんですか……?」


 エリサたちは何も感じ取っていないらしい。まだまだ修行が足りないな……と思いつつも、実際問題こういう気配を感知するというものは経験が物を言う。


 若い彼女たちが反応できないのも無理はない。


 けれど……このピリついた感じ……これは大物だな。


「……こいつは」


 地響きと共に、巨大な体躯が木の陰から見える。これは……ゴーレムだろうか。


 けれど一般的にゴーレムは岩で形成されているのだが……こいつは蔓……だろうか。数多の蔓が重なり合い、それが巨大な体躯となっている。


「でかいなッッッ! 三メートルくらいはあるんじゃないかッッッ!」


 相変わらずリエトン伯爵は楽しそうではあるが、額からは汗が滲んでいた。さすがにここまでの魔物が出るとは思っていなかったのだろう。


 だが……何度も言っているがここは首都から近い森だ。こんな場所にこのような魔物が出てくるなんて――一体魔界はどうなっているんだ。


「わわわ……! これ……すごいね……!」


「ヤバいんじゃないですかこれ!?」


 二人はもう大慌てといった感じである。まあ当然の反応と言ったところだろうか。俺だって少し慌てているんだ。


「しかしッッッ! 私は興奮しているッッッ! 筋肉が疼く……疼くぞぉぉぉッッッ!!」


「ちょ!? リエトン伯爵!?」


 大物を前にして興奮してしまったのか、リエトン伯爵が真っ直ぐゴーレムに向かって走っていく。おいおい……普通何も考えずに突っ込むか……?


「ふんッッッ!」


 リエトン伯爵は地面を蹴り、大きく飛躍する。そして――巨大なゴーレムに向かって大きく腕を引き――拳を放った。到底人間が放ったとは思えない勢いだ。普通の魔物なら、一発でノックダウンしているだろう。


 だが――。


「なッッッ!?」


 リエトン伯爵の一撃は蔓の体を前にして衝撃が吸収され、攻撃が全てとは言わないものの、ほぼ無効化されていた。


 ヤバい――次はゴーレムの番だ。


「エリサ! ユイ!」


「分かってるよ! 《火炎爆裂》ッ!」


「準備はできています! 《光一閃》」


 ゴーレムが攻撃をリエトン伯爵に与える前に――俺たちで援護する。エリサとユイはヴォルガン討伐後も修行は欠かさなかったため、あの時よりも高威力の魔法を繊細な動きで放った。


 リエトン伯爵が一度距離を離すと同時に、二人の魔法と矢が着弾する。衝撃によって土煙が上がり、視界が塞がる……これで決まってくれれば楽なのだが……。


「ありがとうッッッ! 助かったぞッッッ!」


「ふふん! 褒めても何も出ないわよ!」


「これくらい任せてください!」


 二人が嬉しそうに鼻を鳴らす――しかしまだ油断はできない様子らしい。


「ははは……まだ息があるようだぜ……」


 土煙が晴れると、そこには一部欠損しているものの、まだギリギリ立っているゴーレムの姿があった。かなりの威力だったと思うのだが、どうやらまだ足りなかったようである。


「う、嘘!?」


「マジですか!?」


 エリサたちが驚愕を呈する。ただ、まだ絶望するには早い。というか、俺としては希望の活路を見いだしたところだ。


 よく見てみれば、先程の攻撃で一番魔物に効いたのはエリサの《火炎爆裂》だったようだ。蔓は燃え、焦げて穴を開けている。恐らく炎がよく効いたのだろう。


 なら……俺が取れる選択視は一つだけだ。


「さっきのより更に高威力の魔法をぶつければ――!」


 俺は手のひらを相手に向け、精神を集中させる。俺だって以前と比べ、かなり成長したと自負している。もちろん苦手だった魔法だって、多少は上手くなっている自覚がある。そんな今なら――高威力な炎の魔法だって余裕だ!


「《ファイガ》ッ!」


 《ファイア》の上位魔法――《ファイガ》だ。


 赤い火花が散り――手のひらで火球となってゴーレムに放たれる。同時に轟音が響き、ゴーレムの体を燃やした。


 相手は自分の体が燃えるのを防ぐこともできずに、そのまま灰となって消滅する。


 どうにか討伐は完了したようだ。


「すごいぞカイルッッッ! 以前見た魔法よりも更に威力を上げたなッッッ!」


「うーん! やっぱりカイルの魔法は普通のより何十倍も威力が高いね! なんか悔しいなー!」


「でもでも! おかげで助かっちゃいましたね!」


 三人が駆け寄より、俺を囲ってわいわいと騒いでいる。ここまで褒められると少し照れてしまうな……!


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