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109.B&L

「といったところで、私はこの辺りで失礼いたしますぅ。ちょっとバタバタしておりますゆえ~」


「実際大変そうですしね。何かあればいつでも言ってください。俺も協力しますよ」


「あ、私も! 私も頑張るよ!」


「任せてください!」


「あらあら~ありがとうございますぅ」


 俺の背中からひょっこりと顔を出して、二人がルルーシャさんに手を振っている。さすがに俺は手を振るだなんてフランクなことは恐ろしくてできないが、軽く会釈をしておいた。


 ルルーシャさんが去って行くのを見届けた後、俺は扉を閉めようとする。


 だが――。


「よしッッッ! 聖女は去ったなッッッ! まだ扉を閉めるのは早いぞッッッ!」


「なっ!?」


 突然扉を何者かに力強く引っ張られたかと思えば、隙間から筋肉質な手が見えた。大人しく逆方向に引っ張られるのに従うと、リエトン伯爵が満面の笑みで立っていた。一応服は着ているようではあるが、パツパツのためほぼ意味をなしていない。


「うわっ! 筋肉だ!」


「筋肉が来ましたっ!」


 もうエリサたちの物言いは散々である。めちゃくちゃ失礼なのだが、リエトン伯爵は気にしていない様子で筋肉をぴくぴくと動かしている。もうわざとだろ。


「……その言い方からして、ルルーシャさんが帰るのを待っていたんですか?」


「ああッッッ! 少し彼女がいると不味いことをカイルに提案しようとしているからなッッッ!」


「ええ……」


 ルルーシャさんがいたら不味いことって……この人は一体何を考えているのだろうか。かなり俺に期待している様子ではあるが、あまりにも変なことは断ることになってしまう。


 とはいえ、リエトン伯爵に限っておかしなことを提案してきたりはしないだろう。


 いや……でもルルーシャさんにバレたら不味いことの時点でお察し案件か……。


「カイルよッッッ! お主も気になってはいないだろうかッッッ!」


 リエトン伯爵は腕をまくり、筋肉を披露しながら問うてくる。気になっている……こと? 別に気になっていることなんてないが……強いて言えばダークハートが心配ではあるけれど。そりゃ人間側のリエトン伯爵も気にしそうではあるが、だけど俺のところまで来て聞いてくるとは思えないしな。


「ちなみに聞いても?」


「ふッッッ! お前も焦らすなッッッ!」


 そう言って、俺の肩をぐっと握ってきた。圧倒的筋肉からなる握力はなかなかのもので、俺の肩が悲鳴を上げている。もしも俺が一般人だった場合、もうこの場で膝をついていたことだろう。


「魔界の魔物は人間界の魔物とどう違うのかッッッ! どれほど強いのかッッッ!」


 肩を握っている手の力が更に強くなるのを感じる。もう骨がミシミシと言い始め、さすがに痛くなってきた。どうやら俺の体は圧力には弱いらしい。


「魔界の魔物ですか? まあ確かに気にはなりますが……」


 俺が唸ると、エリサが俺の背中から顔を出す。


「確かにルルーシャさんがいると色々と言われそうな案件だね~」


 その言葉に呼応するかのように、ユイも背中から顔を出す。もう普通に話したらどうだろうかと指摘しようかとも思ったが、なんか小動物みたいで面白いから放置することにしよう。


「だからルルーシャさんがいなくなるのを持っていたんですね! ですが……バレたら殺されますよ? 武闘派聖女ですし」


 本当に武闘派聖女なのかは疑わしいが、ともあれ国王様に近い聖女に色々と言われるのは貴族であるリエトン伯爵も避けたいところだろう。


「……彼女は恐ろしい。武闘派聖女の異名は私も恐れているのだ……」


 あ、武闘派聖女って本当だったんだ。


 というかあからさまにリエトン伯爵はテンションが下がるなぁ。分かりやすくていいのだが、少し笑ってしまいそうになる。


「しかし武闘派聖女の名を前にしてもッッッ! 私は魔界の魔物、その強さが気になるッッッ! そこでだッッッ!」


 リエトン伯爵は歯を見せてサムズアップする。


「共に魔物狩りをしようではないかッッッ! 人間界VS魔界――異界対決ッッッ! どちらが勝つのか我々で試そうではないかッッッ!」


 万が一バレた時のことを考えると恐ろしい部分はあるが……しかし気になるのは確かだ。魔界でも当たり前のように魔物は出ると聞いている。その魔物が人間界のものとどう違うのか……想像するとワクワクしてしまう。


「分かりました。その話、俺も乗りましょう」


「さすがだカイルッッッ! 私は君を信用していたぞッッッ!」


 そう言って、リエトン伯爵が俺の腕を握ってくる。ちらりと奥にいるエリサたちを見て。


「君たちも来るかねッッッ!? 私としてはカイルと二人っきりになりたいところなのだがッッッ!」


 なにそれ気持ち悪いこと言わないでよ。俺としては……前回筋肉に挟まれながら死にそうになったから、可能であれば彼女たちも連れて行って欲しい。


「もちろん私たちも行くよ! 勘違いしないで欲しいところだけど、カイルは私たちのものだからね!」


「ですよ! リエトン伯爵なんかには渡しません!」


 頼もしいが、ユイに限って言えば「なんか」って言ったぞ今。これが多分リエトン伯爵じゃなかったら首が飛んでいたからな? 後で注意しておかないとな。


「意中の相手を落とすにはやはりライバルは必要だからなッッッ! よしッッッ! ならば君たちも着いてこいッッッ!」


「その言い方……辞めて欲しいなぁ……」


 俺は別にリエトン伯爵には興味ない。だから……その……意中の相手なんて言われると……なんかゾクゾクするから勘弁して欲しい。生憎とオッサンには興味ないんだ。


「よしッッッ! カイルは私が運ぶから君たち二人は全力で着いてこいッッッ!」


「ああ……はい」


 もう慣れた俺は、自らリエトン伯爵の胸筋に密着した。うん、今日もすごく筋肉で暑苦しい。


「おお……少しキュンとしたぞカイル……」


「きゃーBLだぁ……!」


「B&L――ボーイズラブ展開……! 腹が立つのは確かですがドキドキします……!」


「やめろよ死にたくなるだろ」


 リエトン伯爵も照れるなよマジで。吐きそうになって来たよ本当に。


「はははッッッ! 冗談に決まっているだろうッッッ! それでは運ぶぞッッッ!」


 そう言って、リエトン伯爵は俺を担ぐ。なんだか安心するなぁ……この感じ。リエトン伯爵と言えばこの移動方法だからなぁ。


 こうして、俺は魔物がいるであろう首都郊外へ向かうことになった。


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