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103.ババアだろ!

 振り返ってみると、そこには首から鍵をぶらさげた一人の少年の姿があった。やけに肌を隠した服を身につけているため、少し暑そうに感じるが……ともあれそんなことは余計なお世話だろう。


「俺がカイルです。ええと、あなたは?」


 尋ねると、少年は慌てた様子で頭を下げる。


「僕はナイオスと言います。魔王国の貴族で……あ、ええと鬼人族です」


 そう言って、ナイオスは自分の額から生えている一本の角をこつんと叩く。


「ナイオスさんか。しかし……鬼人族をよく見る気がするな」


 なんて一人ごちると、ナイオスさんはくすりと笑う。


「そりゃ鬼人族が長の国ですからね。ほら、ダークハート様も角が生えているでしょう?」


「確かに……それなら納得がいきますね」


 ダークハートに関しては全く気にしていなかったのだが、それなら鬼人族が多い理由にも納得がいく。なるほど、そういう理由があったのか。


「あ、あの。僕、カイルさんのファンなんです。色々とすごい活躍をしたって聞いて、なんだか僕とは違って素敵だな……って思っていたんです」


「ははは。嬉しいことを言ってくれますね」


 しかしファンだなんて目の前で言われると、少し気恥ずかしいな。実際にこうして面と向かって応援しているだなんて言われたのは、なにげに初めてだから嬉しいのには変わりない。


「なんたって今回の和解に一番貢献した人物なのですから。珍しそうにしていますが、魔王国ではファン……とまでは行かないものの気になっている人は数多くいますよ」


「そうなんですね。少し恥ずかしいな……」


「謙虚なところも素敵です。あの……よけれななんですがカイルさんの冒険譚を聞かせてくれませんか? 僕、そういうのとはあまり縁のない人生だったので色々と聞いてみたいです」


「冒険譚……ですか。うーん、と言ってもなぁ」


 いざ冒険譚を聞かせてくれと言われたら、意外と悩んでしまう。色々あったからなぁ……一から話すとなると恐らくパーティなんて終わってしまうだろう。


「うーん……何か特に聞きたいこととかってありますか?」


「あ、すみません! それはそうですよね! 少し曖昧でした!」


 慌てた様子でナイオスさんは何度も頭を下げる。しかし彼は貴族にしてはとても丁寧な方だ。それに、見た感じかなり若そうに見える。青年と言うよりかは……少年に見えなくもない。まあ魔族の年齢と見た目が比例するとは限らないと聞いているし、そうでもないのかもしれないが。


「たとえば……そう、ヴォルガンとか。やはりカイルさんたちの冒険譚にとっては切っては切れない話でしょう」


「ヴォルガン……か」


 確かに彼との話は冒険譚を語る上で必ず通る話題だ。俺たちが勇者になるまでの物語は彼に終着すると言っても過言ではない。


 魔族にとっても気になるトピックであるのは理解できる。そりゃ魔王殺しを企んだ人物なのだから気にならないわけがないだろう。


「ヴォルガン……あいつには苦労させられました。ほんと馬鹿者だよ全く」


「馬鹿者……ですか。とはいえ、少しカイルさんの言い方からして、ただ馬鹿者だと突き放しているわけではないように思えますね」


 どうやら彼はかなり鋭いようだ。相手がどう受け取るか分からなかったから、あえて曖昧に話したのだがちゃんと突いてくる。


「まあ……悪人だって突き放すことはできないかもな。いや、悪人なんだけど……なんだか少しね」


「ふむ。興味深いですね。あの勇者がヴォルガンを悪人だと断言しないとは。もしそんなことを国王の前で言えば……」


「やめてくださいよ……下手すれば首が飛びますって」


 事実、このような話は国王様には言っていない。人によれば全てを報告すべきだという人間はもちろんいるだろうが……しかし俺はヴォルガンと約束事をしてしまった。彼を完全な悪人と言うには、俺は少し彼のことを知りすぎてしまった。


「でも……あなたがヴォルガンを全て否定しなくて僕は嬉しいです。ええ本当に」


 言いながら、ナイオスさんは首から下げている鍵をぎゅっと握る。


「僕も彼は心からの悪人ではないと思っています」


「……理由を聞いても?」


「ははは。そんな深い意味はないですよ。ほら、人は皆善人であるか、それとも悪人であるか、そんな話があるじゃないですか。僕はただ前者を信じている、それだけの話です」


「なるほど。そういう小難しいことはよく分からないのですが、彼に限って言えば、俺は善人だったんじゃないかと思っています。ただ、その方向が少し捻れてしまっただけで」


 ヴォルガンは……純粋な者だったのだと思う。間違いなく彼は努力をしていたし、己の正義を信じていた。そういうのもあって……俺はヴォルガンを絶対悪とは言い切れないでいる。


「彼は……ええ。カイルさんとは話が合いそうです。僕、あまり気が合う人がいなくて困っていたんですよ」


「ははは、ナイオスさんに限ってそんなことはないでしょう。これほど話せるんだから」


「いえ……カイルさんだからですよ。よければ僕のことはナイオスと呼んでください。敬語も必要ありません。あなたとは仲良くしたいと思いましたから」


 ナイオスさん……いや、ナイオスは俺に手を差し出してくる。


「ああ。俺もだ」


 俺もその握手に応じて、手を握った。考えてみれば……初めての魔族の友人かもしれない。ダークハートは……なんか違うんだよな。確かに親しいとは思っているが、こう友人とはまた違う気がするし。


「少し話はそれちゃったけど、ヴォルガンについてもっと――」


「カイル!! 妾やっと余裕ができたから会いに来たぞ!!」


「うおおお!?」


 突然背後から誰かに抱きつかれたので、慌てて振り返るとダークハートの姿があった。


「急に抱きついてくるなよ……」


 困りながらダークハートに言うと、彼女は不満そうに頬を膨らませる。


「当てているんじゃが」


「は? なにがだよ」


 一体こいつは何を言っているんだろう。当てているって言われても、別に体くらいしか当たってないしな。


「胸を当てているんじゃが!!」


「気持ち悪いな離れろ!」


「なんじゃお主!! 女の子が胸を当てているじゃぞ喜ぶじゃろうが普通!」


「お前ババアだろ!」


「はぁ!? ババアじゃないぞ五百七歳の美少女じゃ! 妾の権力を行使してお主を消し炭にしてやろうか!?」


 というか……なんでこんな大勢いる中でダークハートは抱きついてくるんだ……。もう周囲の人々はこっちに大注目だぞマジで。俺はあまりこういう風な形で目立ちたくないんだけどな……。


「おっと。お邪魔になりそうなので、僕はここで。また会おうね、カイルさん……いえ、カイル」


「ああ、また会おう! ってああもう! いい加減に離れろダークハート!」


 俺はナイオスに手を振った後、すぐにずっと抱きついてきているダークハートを引き剥がそうとする。クソ……こいつ力が強すぎる……やっぱ魔王ってだけあるなこれ……!


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