102.大変そうだな
「まあそれは置いておくとして。やっぱり国王様やルルーシャさんは忙しいのか?」
俺が二人に尋ねると、クソ医者が頷く。
「詳しくは知りませんが、恐らくかなり忙しいんじゃないんですかね?」
「やっぱりそうなのか。国王様らへんは大変そうだな」
「勇者であるカイルさんも忙しいのかと思っておりましたが……意外と暇人なんですね」
「うっせえ……と言いたいところだが、あんまりそこら辺は任されてないんだよな」
なんて言っていると、リエトン伯爵が間に入ってくる。
「しかし勇者の存在は魔族側でも気になるトピックではあるようだぞッッッ! カイルたちを探している魔族も見かけたッッッ!」
そうなのか。意外と俺たちにも興味を持ってくれてる人もいたのか。それは少し嬉しいかもしれない。
「恐らくこれから話しかけられるだろうッッッ! なんせまだパーティは始まっていないのだからなッッッ!」
そういえばダークハートが開会の挨拶をするのだったか。まだ彼女を見かけていないし、時間的にもパーティはこれからと言ったところ。そりゃ遠慮している魔族もいるにはいるだろうな。
多分だけど……開会前に上半身裸になって魔族たちに囲まれていたリエトン伯爵たちがおかしいんだ。
「時間的にそろそろ……」
俺は腕時計を見ながらぼやいていると、多くの人々が一つの方向を見始めた。俺たちも倣って見てみると、そこにはダークハートの姿があった。
『皆のもの! 聞こえておるか! この度はパーティに集まっていただき感謝申し上げるのじゃ!』
恐らく声を拡張する系の魔道具を使って音量を上げているのだろうが、わりと離れた俺たちのところまでダークハートの声が響いてくる。
しかし敬語混じりというか……だがこんなところがダークハートに従う者たちが多い理由にもなってくるのだろう。
「魔族と人間が和解し、今こうして集まっているのは奇跡と言っても過言ではない。これも全て三人の勇者によるもののおかげなのじゃ!」
そう言って、ダークハートはにやりと笑う。
「カイル、エリサ、ユイ! 皆も知っているじゃろうが、彼らは和解のきっかけとなった者たちじゃ!」
刹那、何かライトのようなものが俺たちに当てられる。え、何これ。こんなの知らないんですけど。
俺が動揺していると、各地から声が上がる。
「あれが勇者たちか!」
「気になっていたのよね……あとで話しかけないと……」
「お近づきになっていたいところだな」
と色々と声が聞こえてきた。ヤバい、めちゃくちゃ注目されている。途端に俺の緊張と恥ずかしさはマックスになり、この歳になってお腹が痛くなってきた。
「ふふふ! 注目されてるよ! いえい!」
「これが勇者……! すごいです……!」
「二人は平気そうだな……」
エリサたちはなんならかなり喜んでいる様子だった。俺と違って鋼の心臓を持っている様子である。正直そのメンタルをオッサンにも分けてほしい。俺はダメかもしれない。
「さて……彼ら勇者たちに感謝し、今この場に集まれたことを喜ぼうではないか!」
ダークハートは近くのテーブルに置かれていたグラスを手に持ち、空に掲げる。それと同時ぐらいに、近くを通った使用人からグラスを手渡された。
「乾杯なのじゃ!」
ダークハートの声と共に、各々歓声を上げる。ともあれパーティは開催と相成ったらしい。俺はグラスに注がれたお酒に口を付け、ふうと息を吐く。
「これ……めっちゃ人が来そうだな……」
パーティ会場に集まってからずっと空いていたが、多分ここからが本番だ。
俺が話しかけられなかった原因として、パーティが始まっていなかったというのもあると思うが、恐らく大部分が俺の顔を知らなかったというのが大きいだろう。
しかし先程のライトで顔はもうモロバレしている。
まあここは一つ人間と魔族の交流のために一肌脱ぐとしよう。服は脱がないけどね。
「わわぁ!? カイル! ヤバい!」
「人が……人が……!」
ふと振り返ってみると、数多くの魔族がエリサたちに集まっていた。ええと……エルフに獣人に小人……かな。もう大注目と言った様子である。
とはいえ……俺もだいぶ種族も理解してきた。交流が始まる前、それこそ俺がヴォルガンを倒す前までは魔族の種類なんて誰も理解していなかった。魔族は魔族。それで終わりだった。
そう考えてみると、大きく世界は変わったなと思える。
……大変そうだな二人とも。俺も助けてあげたいところではあるのだが……さすがにあれほどの人数に囲まれると息切れしてしまいそうだ。
ここは申し訳ないが、エリサたちに任せることにしよう。
「あの、カイルさんですか?」