10.え……?
「まさかリエトン様が依頼を頼んだお方だったなんて……だから強いわけだ」
「本当に助かりましたよ……正直、死ぬかと思いました」
「いやいや、あれは仕方ないですよ。でも兵士二人でオークの大群を相手していたなんて、ここの方たちはよく訓練されているんですね」
俺がそう言うと、兵士二人は顔を見合わせて笑う。
「そりゃ、リエトン伯爵のしごきを乗り越えたらこうなりますよ」
「なぁ」
「へぇ。そんなすごい方なんですね」
この二人は笑ってはいるが、相当な訓練を積んでいるはずだ。
少なくとも、一人一人Bランク程度の実力はあるのではないだろうか。
冒険者ギルドで考えると、最大手レベルの技量である。
「よければリエトン伯爵邸まで案内しますよ。ワームは夜中に活性化しますし、何より現状はリエトン伯爵が封じ込めています。ただ、倒すことはできていないようですが」
「ありがたいですけど、今なんて? 伯爵自らって言いました……?」
「ねね。ワームの平均個体ランクってAくらいだよね?」
「それを単独で防いでいるってヤバくないですか?」
「それが本当ならヤバい。確かに貴族は魔法に長けているけど、それでもすごい」
戦慄していると、二人の兵士が笑い始めた。
「外部の人は口を揃えて信じられないと言います。でも、これが本当なんですよ」
「会ったら分かります。ささ、付いてきてください」
「分かりました」
本当に信じられないが、とりあえず付いていくことにしよう。
基本的に依頼主には会わなくても構わないが、相手は貴族様なんだ。
挨拶はしておいた方がいいだろう。
「緊張するね……!」
「貴族様と会うなんて初めてです……!」
「緊張しすぎて、変なことしないようにな」
「「は、はーい」」
返事がいいから問題ないだろう。
それに、これほど兵士に慕われているとなると少し下手なことをしても『君、処刑』とはならないと思うし。
一体どんな人なのだろうか。
楽しみだなぁ。
◆
「こちらが伯爵邸でございます」
「おおっ。さすがは伯爵邸、立派だなぁ」
「でかっ! ギルドみたいな大きさしてるよ!」
「これが……家?」
「あまり驚きすぎるなよ……ほら、笑われてる」
二人の肩を叩いて、兵士を一瞥してみると、クスクスと笑われていた。
それを見てか、二人は顔を真っ赤にして俺の後ろに隠れる。
いや、待て。余計恥ずかしいぞそれ。
「それじゃあ私たちはここまでです。これ以降は使用人さんが案内してくれるので」
「頑張ってくださいー」
言って、兵士たちは門の方へと歩いていく。
代わりに、一人のメイドさんがこちらにペコリと一礼した。
「それでは、続きは私の方がご案内致します」
「メイドさんだ……!」
「可愛いですね……!」
やっぱり女の子にとってメイドは憧れだよな。
俺は少し歳を食いすぎて、じっと見てたらあれだからあまり見ないけど。
長い廊下を歩いていると、あちらこちらに絵画が並んでいる。
貴族様の趣味は高そうだ。
「こちらでございます。リエトン様、カイル様たちがいらっしゃいました」
メイドさんがノックをして扉を開ける。
さて、どんな方なのだろうか――
「ふんッッッ! 君がカイルかッッッ! 筋肉の調子はいかがかねッッッ!」
「え……?」
そこには、上半身裸のムキムキマッチョがいた。