19歳
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「なぁ俊、今から暇だろ?」
「ん?うん。暇だけど」
講義が終わって夕方の橙色が教室を染めている。
大学生になって初めての夏。
小学校から仲の良い幼馴染みの佳祐が「じゃあ2人で飲みにいこうぜ」と言ってきた。
どうも安くて美味い店を人から教えてもらったとかで。
「ん。別にいいよ」
確か今日は亮太もバイト仲間と飲み会って言ってたし。
帰っても一人だから、俺は佳祐と飲みに行くことにした。
亮太と付き合い始めてから2年近くが経とうとしてる。
俺たちは別々の大学に進学したんだけど、2人でルームシェアをしてるから、まあ同棲のようなもので、一緒にいられる時間はそんなに減ってない。
帰りが遅くなる日とかはちゃんと報告しあって。正直まだ不安は全くないと言えば嘘になるけど、せれ以上に俺は亮太といることに安心と幸せを感じるようになってた。
「うまい!」
駅の近くにできた広くて綺麗な店内。どうも関西では有名らしい大手の学生居酒屋らしく、この辺りにできたのはこの店が最初なんだとか。
「ちょっ!俊!このホッケまじ美味いって!」
そして目の前の佳祐のテンションはマックス。
ホッケに感動してる…。
「佳祐ー。あんま飲みすぎんなよー。」
俺は生中をチビチビと飲みながら苦笑する。
この調子だと酒も飲みすぎて潰れるだろな…
「だーかーらー飲みすぎんなっつったのに!」
「えへへー世界が回るわ俊ちゃーん♪」
完璧に出来上がってしまった佳祐に肩をかしつつタクシーを拾う。
タクシーの運ちゃんが酔っ払いを見た瞬間明らかに嫌そうな顔をしたけど、無理矢理佳祐を押し込んで佳祐の住所を伝えてから俺はタクシーから離れた。
小さくなっていくタクシーを見送りながら、俺も帰路につく。駅の近くのアパートを借りてるからここからそう遠くはなかった。
「あれ」
鍵が開いてる…。
ドアを開けて中に入ると、リビングは明かりが付いていて。
「亮太?帰ってるの?」
靴を脱いでリビングへ向かうと、ソファに座ってる亮太がいて。
なんだか、いつもと違う気がした。
「りょ、亮太?今日、飲み会、早かっ」
「途中で抜けてきた。」
静かな亮太の声。
だけど、何故かそれにビクリとなる。
「俊こそ、遅かったね」
「え?あ、ごめ、佳祐と…」
ダンッ!
テーブルを叩く音。
大きなそれは、本当にいつもの亮太と違ってて…
「れ、連絡しなくて、ごめんなさ」
「ねえ俊。」
今まで背を向けていた亮太がこちらを向く。
その目は、いつもの優しい目じゃなくて。
「別れよっか」
え…?
今、なん、て…
「りょ…」
「風呂入ってくる」
俺の横を通り過ぎていく。
俺を見ては、いない。
リビングに一人ぽつんと残されて。
「あ…え…?」
何か、ごちゃごちゃする。
頭の中、俺…。
―別れよっか―
あ、そっか。
そうなんだ。
俺に向けられなかった亮太の視線。
やっと理解できてきた。
俺は、
いらなくなったんだ。
シャワーの音が聞こえる。
その音が妙におれを落ち着かせて。
リビングを出る。
風呂場への扉の前に立って、
「今までありがと」
小さく呟いた声は、多分亮太には聞こえていないだろうけど。
俺は部屋を出ていったんだ。