十、最後の復活 五
テーブルごしに彼女とむかいあい、書類を読んだりなにかを書きこんでいるのは一様に緑色のローブを着た男達だった。彼らの中央にいるのがゼボ議長だった。
「このくらいでいいかな?」
ラグの問いかけとともに幻はなくなった。
「じゃあ、整理するね。ニーは孤児だった。農民にひろわれて、十歳で不死鳥を呼びだす力があるのをみとめられた。地元の神官は、彼女を出世の手ずるにしようと手近な街……サレシカ市とは無関係だけど……の大聖堂までつれていった。そこで十五歳までさまざまな訓練をほどこし、いざ不死鳥を呼びだそうという段になって失敗した。怒りにまかせて彼女を虐待した神官を殺し、脱走した。十七歳で、サレシカ市元老院の主催する無差別職員登用試験に合格した」
「全部そのとおりです」
淡々とニーはみとめた。
「だからなんだ。俺達に仲間割れでもやらせようっていうのか?」
「タン、僕がそんなくだらないお遊びに興味をもたないことくらいわかるよね?」
「なら、それとタイコがどうかかわるんだ」
「せっかちだなぁ。これから説明するんじゃないか」
タンのいらだちを、ラグはにこやかにあしらった。
「ちょっとおさらい。世界のどこでも、不死鳥のいる街は外敵に倒されなくなる。でも不死鳥の力がおよぶ範囲には限界があって、拡張できない。ここまではいいよね? 不死鳥は世界に一羽しかいないし子孫繁栄もしない。そんなことをしたら世界がいずれ不死鳥で埋めつくされるから。で、ごくごくまれに不死鳥をよびだせる巫女がこの世に生まれる」
ニーもまた巫女のひとりだとすると、どうして失敗したのかはやはり気にせざるをえなかった。
「でもね。巫女は自分の命と引きかえでないと不死鳥をよびだせないんだ。巫女は自分自身のすべてを不死鳥にささげ、不死鳥は生きても死んでもない状態でよびだされた場所にいすわる。新しい巫女が儀式をおこなったら、不死鳥はそっちへ移転する。そのくりかえしだよ」
「俺は、ニーが生きていてくれてよかったぜ。不死鳥なんぞと交換なんてたまったもんじゃない」
完全なるタンの本音だった。
「そうだね。君のタイコがあれば、巫女であろうとなかろうと、いっさい危険なく自由に不死鳥をよんで操れるんだよ。不死鳥の力がおよぶ範囲もずっと広くなる。そうだね、サレシカ市どころか国一つがまるごと保護できるくらいにはなるかな」
「なに!?」
タイコが不死鳥の力を帯びているのは多少なりとも想像していた。しかし、そんなのは飛躍しすぎだろう。
「君にタイコが渡ったのが、どういうなりゆきかまでは知らない。僕は不死鳥の羽根からうまれた存在で、このままだと廃下水道からでられないんだ。タイコは不死鳥の分身みたいなものだから、それをもっていれば僕は自由になる」
「タイコをお前がほしがるのはともかく、ニーはどのみち無関係だってことじゃないか」
「タイコが完全なものになるには、不死鳥の巫女の命がいる。ニーも知っていたんだよね? タイコが誰かの手にわたって、力がはっきり調べられたら自分が狙われるのはわかりきってる」
「そうです。知っていました」
「ニー……」
タンにとって、同じ初耳でも衝撃が桁違いだ。
「タンさんに山賊から助けてもらったとき、すぐにそれとわかりました」
「なら渡す筋合いはこれっぽっちもないだろ?」
たまりかねてアツが聞いた。
「じゃあサレシカ市は人口破綻で滅亡。ご愁傷様。それはそれでいいよ、僕としては」
あくまで不死鳥は外敵を防ぐだけで、内側の問題までは解決してくれない。
「不死鳥そのものはどこにいるのよ」
ウロが、至極もっともな疑問をしめした。
「ずっとここにいる。ほらっ」
それまで部屋を包んでいた黒紫色の光が、部分的ながらもすーっと幕を開くように消えさった。




