七、美少年の願いごとにつきあうのもいいかげんにやめたい。でもそうしないと解決にならない。 五
死体は音もなく消え、舞台に幕が降りた。と思ったら廃下水道にもどってきた。
「皆さま、スタンプラリーは楽しまれていますか?」
ユマがまっさきに聞いてきた。ニマは、ここで再会してからずっと下半身が消えてなくなっているし、そもそも本人かどうかもあやふやな状態だ。もっとも、そうでなければどなりつけていたかもしれない。
「クソうぜぇな。さっさと次に進めろよ」
アツはタンほど自制心が豊かでなかった。
「はい。引きつづき、スタンプラリーを……」
「まってください!」
いつになく、ニーが鋭くとめた。
「はい」
ユマの笑いは、それこそできがよすぎてかえって気持ち悪い人形や仮面のようだ。
「スタンプラリーって……『廃棄』をテーマにしてるんですか?」
ニーの質問は、タンも他の仲間も気づけそうで気づけない着眼だった。
「はい、おっしゃるとおりです。テーマに気づかれると、よりいっそう当ラリーをお楽しみいただけます」
下半身のない、美女のなれのはてがにこっと笑った。
「どうしてそんなテーマを……」
「次はトンネルでございます」
なおも食いさがるニーを無視して、廃下水道からニマの案内どおりに周囲が変化した。
廃下水道も、広い意味ではトンネルのようなものといえなくはないだろう。もちろん、建築物としてまっとうな技術や質材が用いられている。
しかし、タン達が今いるそれはまっとうなどという代物ではなかった。支柱一本たってない。壁面もでこぼこで、素人の手掘りなのがすぐわかる。そのくせ明かりはふんだんにあった。ランタンも松明もないのに天井が輝いている。廃下水道と同じように。
「ねえ、香水かなにかの香りがしない?」
ウロがまっさきに気づいた。
「そういえば……」
ニーも同じ結論になったようだ。タンにはよくわからなかった。
「バラ系ね。単純だけど王道の香りだわ」
「香水にくわしいんだな」
何気なくタンはいった。
「そうよ! 男どもを手玉にとる基本中の基本よ! まず香水って使えばいいものじゃないのよ! 量はもちろんタイミングもあれば状況もあるんだからね! そもそも香水一ビンつくるのに職人さんはふだんから気が遠くなるような気づかいをしていてたとえば嗅覚を保つために」
「こほん」
「こほん」
リズとニーが同時にせきばらいした。
「そのとおりだ。よくわかっていらっしゃる」
どこからともなく現れた男がウロに味方した。
「うわぁっ!?」
タン達はそろって仰天した。
新たに一同が目にした男は、泥まみれ汗まみれですりきれた作業衣をみにつけていた。肩にはツルハシを担いでいる。もう中年にさしかかろうとする年代のようだが、全身から様々な香水の香りをにじませていた。異臭や悪臭ではないが、手足の線の細さといい拳の薄さといい頭からつま先まで肉体労働と縁が薄そうに思える。
「あんた達か、ラグ様がよこした応援というのは?」
男の……香りにちなんで香水男としておくが……問いかけは支離滅裂だった。ただし、無視できない固有名詞がまざっていた。
「いや、俺達は……」
説明しようとしたタンの言葉が、がさがさと響いてきた足音に中断された。
「まずいっ! こっちだ!」
「え? え?」
なにがなんだかさっぱりわからない。にもかかわらず、タン達は直接ひっぱられたのでもないのに香水男につられてトンネルの奥へ進んだ。息がきれるまで走り、ようやく終点にたどりついた。足音はしなくなったものの、一本道だからいずれまたやってくる。
「あんた達、道具は?」
「さっきからなんの話だよ」
アツは自分の両腕を組んだ。
「石鹸だ!」
当然至極といわんばかりに、かつはこの一言ですべて伝わるはずだといわんばかりに香水男はさけんだ。
「……」
目が点になるというのを、タンはアツの表情から生まれて初めて目のあたりにした。
「あのう……失礼ですが、あなたからは香水の香りがします。石鹸とは微妙にちがうのでは……」
慎重に、ニーは探りをいれた。
「当然だ。私は香水師なのだから。ラグ様からなにも聞いてないのか?」
ここで、香水男は晴れて香水師に昇格した。正気かどうかはともかく嘘ではないのだろう。




