一、ハズレスキルは使いよう……って俺はクビ!? 四
大げさにタイコを叩き、くねくね舞ってみせた。美辞麗句も命がけだ。
「けっ、頭がトンチンカンになってるみてぇだな。目障りだ、失せろ!」
鎧を脱いだ男がわめいた。そんな程度は、カチ達から受けてきた仕うちからすれば万分の一にもならない。
「ほらほら~、いらいらするとせっかくのお楽しみがだめになってしまいますよ~」
満面の笑みを浮かべつつ、必死になってタンは身振り手振りを激しくした。
そのとき、タンの手にあるタイコが白く輝いた。表面に、かすかだが翼を広げたクジャクのような姿が浮かびあがる。ゴロツキも女性も……いや誰よりもタンが目をみはった……が、すぐ消えた。彼の心に、なにかが弾けた。ファンファーレが鳴ったのでも、半透明の枠に数字や字幕が表示されたのでもない。にもかかわらず、かつての冴えない雑用係とは生まれ変わったといえるほど激しい変化がもたらされたのを自覚した。一言で表現するなら、お世辞で相手の心を動かす力をえた。
さておき、転んですりむいた女性の両手の平から血がでている。タンが空気をかき回し、ゴロツキどもが大声をだしたせいで血のにおいが少しずつ広がっていく。ふつうの森ならともかく、ここは怪物のうろつくところだ。
「かまやしねぇ、こいつからブッ殺……」
三人目のゴロツキが剣に手をかけたとき、額から矢がつきでた。目をむいたままバタッと倒れる。
「て、敵だ!」
「クソッ、散らば……」
慌てるゴロツキどもへ次々と矢が射られ、剣を抜く間もなく死んでいった。
「動くな、人間ども」
耳障りなきーきー声で、かろうじてわかる言葉が届けられた。タンも女性も小指一本動かせないままでいると、音もなくそこかしこの木の間からゴブリンが現れた。少なくとも十数人、全員が弓矢と短剣で武装していた。鎧はなくぼろぼろな衣服を身につけているのも同じ。
ゴブリンは、ふだんは小柄で大した力もなければ頭も悪い雑魚敵だ。にもかかわらず、何人かはゴロツキの死体を漁り何人かは見張りにたつなど一糸乱れぬ統率ぶりだった。弓矢も粗末だが全て同じような造りをしている。
「お前達、誰か仲間はいるか?」
まとめ役とおぼしき弓矢を背負ったゴブリンが、抜き身の短剣をちらつかせた。
「い、いやいない」
タンとしては事実を答えるしかなかった。タイコが気にはなるもののそれどころではない。
「私もです」
女性も同じようだ。
さっきはゴロツキから彼女を救うのに必死で余裕がなかったものの、今はまた状況が違う。少し観察すると、動きやすい恰好をしているとはいえとてもこんな場所を出入りする人間とは思えない。小枝や葉っぱまみれの長い黒髪は、きちんと整えれば美しいのだろうが本来ならまとめて結っておくのが当たり前だ。つんととがった鼻先とすっきりしたあごは冷たそうに思えるが美しくもあった。長いまつ毛もきちんと切りそろえられている。小ぶりな唇と細い黒目がまた知的な印象を強めていた。ほっそりしてはいるが胸は大きめで、年はタンと同じくらいだろう。
「どんな理由でここにいた?」
「仲間から追いだされた」
「山賊に追われていました」
追う、という言葉がなんとなく似通っていて危うく失笑するところだった。
「どこからきた?」
「サレシカ市」
正確には、サレシカ市の冒険者組合で依頼を受けてきた。事務的な手続きはすべてタンが処理した。
「ベザ村です」
彼女がいうベザ村こそ、まさにタンが目指していた村だった。ベザ村からこの森と、さらに山を一つはさんで南へいけばサレシカ市になる。直線距離でならそれなりに近い。
「こい」
まとめ役……と、決めつけるのもなんだが……は短剣を振って漠然と方向を示した。その頃には、ゴロツキどもの死体は身ぐるみはがれたうえに担がれていた。死体までなにかに利用するのだろうが知りたくもない。




