三、追放したからにはウッハウハ……のはずが!? (ざまぁその一) 四
掃きだめに鶴……ならぬ美少年だった。つるつるの脛がむきだしになった半ズボンと小ぶりな靴はいずれも鮮やかな青色で、緑色の半袖シャツには縦にひだかざりがついている。丸みのある顔に愛らしい唇と大きな藍色の瞳は一目でいつまでも覚えられそうだ。栗色の柔らかい髪はまっすぐ耳元をおおっている。そしてなにより、この暑さでも汗一つかいてなかった。
「冒険者のカチとユマ。そっちの死体はナリ。元老院の衛兵を殺害して逃亡中、と。あーいやいや、最初から知ってることだけど、僕の力をわかりやすく把握してもらえるかなって思ったから。おい、ご飯はちょっと待て」
クモは二匹とも脇に退いた。
「このままなら、二人はクモに食べられて死ぬね。僕の退屈しのぎにつきあってくれたら一人は助けてあげるよ。ほらっ、口が動かせるようになっただろ?」
「このクソガキ、なめるな! さっさと……」
カチはさっそく罵声をとばした。
「退屈しのぎってなに?」
ユマは糸口を探すのに必死だ。
美少年は少し歩いて、ユマの頭をぐりぐり踏みつけた。
「そっちの筋肉バカみたいに罵声をとばす人間のほうが面白いんだよ。つまらない質問をしたからおしおき」
ユマの顔は帽子ごと泥まみれになった。悲鳴もあげられないまま、ユマはひたすら耐えた。
「さてと、ルールの説明。二人で殺しあって。生き残ったほうはたすけてあげる。制限時間はたがいの身体が溶けるまで」
足をユマからどけて美少年が目配せすると、クモはそれぞれカチとユマの左足首に噛みついた。いまさらなんの痛みもないが、ただのハッタリでないのは明らかだ。
「鏡でみてご覧よ」
美少年がどこからともなくだした、大ぶりの手鏡には煙をたててどろどろになっていく二人の足がはっきりと映っていた。肉体だけが溶けているのだから、衣服や鎧はそのままなのがよけいに不気味だった。クモはマヒさせた相手に消化液をおくりこみ、溶かしながらすすっていく。つまり二種類の毒を使う。
「じゃ、がんばって」
がんばってといわれても、二人とも口以外は指一本動けない。手をのばしたらふれる距離なのに、まさか眺めるだけで死ぬはずもない。
「ああクソッ! 殺すならひと思いにやれよ!」
「うんうん、いいねいいね」
カチの罵声を、美少年はにこにこしながら受け入れた。
ユマは、口から自分の足に唾を吐いた。もっとも、せいぜいへその辺りまでしか届かない。暑さのあまり頭がおかしくなったのか。
「おいユマ、なにやってんだ」
「うるさい」
ユマはにべもなかった。えんえんと唾を吐き続けている。皮肉にも露出の多い服のおかげで、太ももにかかるようにはなった。
カチは、あごの力だけで自分の身体を引きずりはじめた。なみの筋力では不可能だが、鍛えただけの強さはある。ほんのわずかずつながらもユマに近づきつつある。にもかかわらず、まだユマは唾を吐く作業に執着していた。
「どっちみち、頭がおかしくなったんならもういいよな? 俺を裏切ったんだし」
ユマの喉元までやってきたカチは、大きく口を開いた。そのころには彼の下半身は消えうせ、一番下の肋骨がなくなりつつあるところだ。ズボンや脛あてはとうに脱落している。




