一、ハズレスキルは使いよう……って俺はクビ!? 二
「私も」
ナリがユマに同調した。
「はい、どうぞ~。報酬をちょうだいしたら温泉ですか? ご馳走ですか?」
タイコとバチをしまい、にこにこしながらリュックを降ろした。きちんと仕わけされた中身をカチの分から順にとりだす。
ユマもナリも若い女性だが、タンのことをただの道具程度にしか考えてない。人間とみなしてないので私物をあずけることに抵抗はなかった。むろん、タンがよけいなことをすれば考えられる限りの報復が待っている。そこは、タンもよくわきまえていた。
今、タンが言葉を失っているのはよけいなことをしたのがバレたからではない。最初からそんなことはしていない。
「カチ……?」
荷物は全員にいきわたったはずなのに、カチはまだタンに右手の平をつきだしていた。
「金。だせよ」
「え……?」
荷物のなかには各自の所持金もはいっている。
「お前に払ってきた分だよ、この役たたず!」
「ひいっ!」
殴られたのではないが、タンは首を縮めた。
役たたずという自覚は、というより自虐はあった。さらには、唯一の理解者だと思っていたカチから面とむかって口にされるのは屈辱以外の何物でもない。
「おべんちゃらしか能のないクソガキが! さっきも俺達が生きるか死ぬかで戦ってたのに安全な場所から眺めてただけだろうが!」
「で、でも、最初から荷物持ちでいいしみんなを明るく力づけてほしいって……」
タンの言葉に嘘はない。そもそも荷物持ちは信頼できる人間でないとつとまらない。
「真に受けすぎだろ、バカ! 少しは剣の練習くらいしとけ!」
「ご、ごめん、ごめんよ……」
ぺこぺこ頭をさげるタンをかばうのはもちろん、カチをたしなめもとめもしないユマとナリ。
「で、お前はここで追放だ。お前が役たたずなのははっきりしたから、罰金としてお前に払った金も没収する。まあ、そのボロダイコだけはお情けで残してやるよ」
「そ、そんな……いくらなんでもぐわぁっ!」
カチの拳がタンの頬にめりこんだ。
「おい、時間がもったいないんだ。さっさとしろよ」
両手を地面につけてへたりこんだタンを、カチと二人の仲間……いや、『元』仲間が冷ややかに見おろした。
「わ、わかった。わかったよ」
どうにか上半身をおこし、タンは財布からなけなしの全財産をだした。
「ふんっ。荷物持ちのくせにけっこう貯めこんでやがったな。おっと、リュックもだ」
「こ、これまでなくしたら……」
日々の食事を少しでも豊かにするのもタンの役目だった。リュックには煮炊き用の道具や簡単な罠の材料がある。
「もう一発殴られたいのか!」
「ひいっ。渡すから、渡すから……」
あわてて外したリュックを、カチはひったくるようにとりあげた。
「いきましょ」
ユマが軽く右手を自らの目の前で振った。なにもなかった空間に、青白く光る魔法円が現れる。
「お前はついてくるなよ。もっとも、最初から俺達以外は使えないけどな」
しっかり釘を刺してから、カチは魔法円に触れた。たちまち姿が消える。ユマ、ナリと続いてから魔法円はあっけなく消えた。