二、夢をみたあと砦の襲撃、助かったと思いきやこっちから!? 四
いや。カチの冒険に同行してからこのかた、タンは自分に尊厳なるものがあるとは思ってもいなかった。はなはだ逆説的に、カチが究極にタンの存在意義を愚弄したことで『回復』に至ろうとしていた。
「さぁね。ただ、生きのびてあいつらの悪事をさらさなきゃいけないだろ?」
「ああ……ああ」
半ばは自分に言い聞かせるように、タンはうなずいた。
「囮作戦、よろしくな。お休み」
アツは木にもたれたまま目を閉じた。
「見張りは私がやる。タンさんも眠って」
リズが声をかけてくれた。
「ありがたい。じゃあ遠慮なく」
カチへの怒りがふつふつと湧きあがる一方、砦から命からがら脱出できた安堵感もある。そして、数時間したら次の大仕事が控えている。複雑な気持ちを抱えつつ、無理にでも休まねばならなかった。
「おーい、起きなよ。そろそろ出発だ」
アツに体をゆすられ、タンはうめきながら目を覚ました。夜になっていて、アツの顔も目鼻だちがどうにかわかるくらいになっている。
「適当に近づいたら両手を縛るけど、かんべんしてくれよな」
「ああ」
アツの台詞はとうに予期していたことだし、当然の演出だ。
ベザ村に近づくと、焦げくささが少しずつ濃くなってきた。それ自体が村の運命を示していた。月夜にあがる煙がうっすらと目についたとき、アツは軽く右手を掲げて一同の足を止めた。タンとニーは、手早く両手を背中側で縛られた。それから再び歩きはじめる。
見張り塔は原型を保ってはいた。石かなにかを積んでこしらえたからだろう。しかし、塔そのものから煙がとぎれることなく昇り続けている。武具や食糧もたくわえてあったのだろうが、村人達がたてこもったりしないよう念入りに火をかけられたのはまちがいない。奇襲されてまっさきに狙われたのだろう。塔を焼くことによって抵抗する意欲を失わせるという、精神的な攻撃も兼ねている。
反面、意外なほど他の家や倉庫は無事だった。焼かれてしまったものもあるようだが、かすかに窓から灯りの漏れている建物もある。ただの山賊なら、やりたい放題に放火しただろう。砦のゴブリンではないが、相当な慎重さがいる。
「おおーい!」
いきなりアツが大声をだして手をふった。村の出入口で、松明かなにかが円を描くように回った。少しして、目の前の地面に矢が刺さる。わざわざ火矢にしてあった。これは動くなという警告である。
タン達が待っていると、馬に乗った誰かが村から近づきすぐに目の前までやってきた。
「お前達は誰だ?」
馬の脚が止まると同時に、手綱を握ったまま馬上から聞いてきた。よく見ると二人乗っている。馬は貴重だし、一人よりは思いもよらない出来事に対応しやすい。とはいえ、武具も防具も砦のゴブリンと大して変わらなかった。
「流れ者だよ。ちょうど、村から逃げてきたって連中を捕まえたんでそっちの親分に取り入りたいんだ」
流れるようにアツはでたらめを述べた。
「少し待て。変な真似はするなよ」
うしろに乗っていた方の山賊が馬から降りると同時に、尋ねた方は馬を戻して去った。しばらくしてまた現れる。
「よし、ついてこい」
馬上の山賊が命じ、先頭をつとめた。




