一、ハズレスキルは使いよう……って俺はクビ!? 一
昼なお暗い晩春の森の中。
首をはねられたうえに傷口を焼かれたトロールが、こん棒をしっかり握ったまま倒れた。前のめりにそうなったせいで背中がむきだしになっている。ブスブスと焦げ臭い煙が全身からのぼっていた。
「任務完了だぜ」
荒く息を継ぎながら、リーダーのカチが宣言する。そこから十数歩はなれた茂みで、タンは称賛のまなざしを送っていた。
タンはカチと幼なじみで、タンの方が二つ年下の二十歳になる。二人とも背がそれなりに高い男性で、筋肉の引きしまり具合もいい。にもかかわらず、カチはタン以外の仲間もふくめてぐいぐいひっぱっていく人間だった。タンは彼の真反対だ。使いこまれた長剣を軽くふって、トロールの血を飛ばすカチの姿はタンの理想そのものだった。決して届かないという意味でも。
「報酬……はずんでもらわなきゃ」
ユマは、つば広の青い帽子に手をやってへりを整えた。帽子のてっぺんはとがっており、魔女だとすぐわかる。
タンは、実のところユマももう一人の仲間も苦手だった。世代は全員で同じながら、二人ともカチを頼りにする一方でタンを露骨に無視する。実力がないからと自覚はあっても気分のいいものではない。
「なんにしても、誰も死ななくてよかったです」
もう一人の仲間……ナリがサイコロ型の聖印を両手でそっとかかげた。彼女は大人しい尼僧で回復役としての腕もいい。ただし、誰に対してもなんの意見も持たなかった。むしろ意図的に当たり障りのない発言ばかりしている。
若い男女の四人組だが、恋愛や痴情のもつれはない。少なくともタンにとってはない。タンが自分の立場を気にしすぎるくらい気をつかっていたからだ。いや、タンは明らかにお荷物扱いだった。彼が荷物持ちという立場でかろうじて仲間にいれてもらっているのは皮肉としかいいようがない。
以前、ナリが野営中の不寝番で居眠りをしていたことがある。そこを運悪く山賊に襲撃されかけたが、筋肉痛に耐えられなくなったタンがたまたま目を覚ましたおかげでぎりぎり間に合った。あとでとがめられた彼女はタンが不寝番を代わってくれたから寝ていたとでたらめを述べ、カチは一方的にタンを有罪にして次の日の朝食をぬきにした。ユマはナリの肩を抱く一方でタンをにらみつけただけだった。
「おめでとうございます~! よっ! 英雄! 勇者! 救世主~!」
しげみからでてきたタンが、右手に持つ小さな柄つきタイコを左手に持つバチでドコドコ叩いた。タイコとバチ。冒険のたびにカチから支払われるわずかな日当や衣類を別とすれば、彼にとってほとんど私物らしい私物はその二つだけだ。
一同が生まれ育った国ではどこでも、十五歳になれば手近な神殿で特技授与の儀がおこなわれる。カチは剣技をえた。タンはというと、美辞麗句とやらいう代物だった。とにかく相手をホメたたえる。
正確にはそれだけではなかった。特技の象徴が祭壇のうえに湧いてくる。神々からの贈り物だ。カチは短剣をえた。タンはタイコとバチである。槍だの斧だのを期待していただけに、ひどくがっかりした。そんなタンをしきりに慰めてくれたのはカチだった。もう五年も前の話だ。
「じゃあ、帰るか」
タンを無視してカチは二人の女性達に告げた。
「荷物」
ユマが、カチに顔をむけたままタンに右手をつきだした。