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怪医雫の六花堂  作者: 掟
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雫の優しさ

「少しは落ち着いたか?」

 優しいその声は、心を落ち着かせて安心させてくれる。

 リラックス効果のある癒しの音源のようで、いつまでも聞いていたくなるようだ。

 妖怪の声にも1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)が存在するのかどうかわからないが、この声にも含まれているのではないかと錯覚してしまう。

 「はい、心配をかけてすみません」

 雫の腕の中で溢れていた涙を止めて、申し訳なさそうに雪音が言葉を発する。

 泣き止むまで雫は雪音をずっと優しく抱擁していた。

 大切な何かを見つけて腕の中でそっと抱きしめるように。

 時折慣れたような手つきで背中を優しくポンポンとしてくれた。

 背中をポンポンとされると、人は母親のお腹の中にいた時の心臓の音を思い出すらしく落ち着き安心するらしい。

 それは子供でも大人でも同じようだ。

 幼子をあやすその行動は、自分が幼かった頃にもしてもらったことがありなんだか懐かしいようにも感じられた。

 「もう大丈夫です」

 そう言って少し照れたようなぎこちない笑顔を見せ、名残惜しいが腕の中から離れた。

 ずっと安心するその腕の中に居たい気もするが、段々申し訳なさと初対面で泣いてしまったという小恥ずかしさが溢れてきた。

 後者の気持ちの方が大きく、少し気まずくなりまともに雫の顔を見ることにためらいを感じた。

 「うむ、そうか。なら良い」

 そんな雪音の心境を知ってか、雫は相も変わらない爽やかな笑顔で答えた。

 「泣きたいときは泣いたほうが良いぞ。一人で泣きたくないなら我も共に涙を流そう。その時はまたうぬを抱きしめてやる。雪音なら我はいつでも大歓迎じゃ!」

 大仰に両手を広げて、いつでも抱きしめるしぐさを見せる。

 雫は我が子を抱きしめる母親のつもりでそのしぐさを見せたつもりなのだろうが、どちらかと言うと小さな子供が自分の母親を見つけて抱き着きに行くようなポーズのように思われる。

 ここでも内面の子供っぽさが表れているようだった。

 だが、そんなところも彼の魅力の一つなのだろう。

 どんなことがあっても全てを受け入れてくれる、そんな風に思わせてくれる。

 この人には自然と心を許してしまう、そんな存在だ。

 「別に泣きたくなくても良いぞ、嬉しい時でも何もない時でもぎゅっと抱きしめてやるぞ」

 ウキウキ、ワクワク、ルンルン……。そんな言葉が似合う無邪気な笑顔でなおも両手を広げている。

 少しでも笑ってもらおうと冗談のつもりで言っているのか、それとも素でそんなことを言っているのか。

 おそらくこの人の場合は後者の方だろうと雪音は思った。

 ――大福以外にも子供っぽくなる時があるんだな。

 そんなことを考えているとクスッと笑えて来た。

 「うむ!いい笑顔じゃのう」

 自分の子供っぽいところで笑われているとも露知らず、雫は雪音に笑顔が戻ったことにさぞ嬉しそうだ。

 「ほれ、泣いたらお腹がすいたじゃろ?」

 残っていた大福ののっていた皿を雪音に差し出し、雫も自分の食べかけの大福へと手を伸ばした。

 「ホッとさせてくれるからどんな時でも甘い物は良いぞ」

 そう言って子供の無邪気な笑顔でまた大福を食べ始めた。

 その姿はやはりかわいらしく、愛らしい。

 見ているだけでなんだか温かくほっこりとするようだ。

 ――本当は自分が一番食べたかったんだろうな。

 雫の食べる姿を見て、食べることを中断させて申し訳ない気持ちと自分に寄り添ってくれたことに感謝し、差し出された大福をそっと手に取った。

 「いただきます」

 雫をほほえましく見ながら、雪音も一緒に大福を食べ始めた。

 

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