訪問と対面
デートから一週間後の今日。
天気予報でうだるような熱さになると言われていた通り、朝から肺が灰になるような猛暑となっていた。
私は夏希とともに彼女の実家へと向かっている。
「ここからどのくらいなの。よければすぐについて欲しいんだけど……」
「澪は暑いのが苦手だもんね。もう少し耐性あってもいいと思うんだけどな」
「焼けるのはムリ~~」
「ちょっと焼けてる方が健康色っていうから大丈夫だよ」
「すぐ赤くなっていたくなるからイヤ!」
もちろん日焼け止めも塗ったし、帽子もかぶって、とはいえ猛暑なので通気性の良い服を選んだ。
夏希は一般的なTシャツとショートパンツという動きやすい格好だ。
私としてはスカートも似合うと思うんだけど……。
「歩いて二十分くらいだから、頑張って」
「そんなに!?」
「学校と大差ないでしょ。行くよ、澪」
「夏希のスパルタ~~」
「もう、そんなこと言ってないで、速く歩いた方が早く付くよ」
それはその通りなのだが…‥。暑いのは嫌いだ。それにやはり緊張というか、いざとなると足がすくむ。
そのため夏希の強引さには非常に助かっていた。
「もうすぐだよ、というかこの壁の向こうがそうだよ」
そう言われた、石垣の壁が陽炎の向こうまで続いていた。率直になんて広い日本庭なのだろうと思った。
門の前まで来た。
私は一息つきたかったけど、夏希がすたすたと門をくぐってしまう。私も慌てて後を追った。
「ただいま~~」
夏希が戸を開ける。
すぐに夏希のお婆さんらしき人が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。夏希に、そちらは」
「初めまして、吉野澪です」
「あら、あなたが。そう…‥。さあ、上がって頂戴」
「お邪魔します」
私は靴をしっかり整えて、お婆さんの後を追う。
そのまま、私たちは居間に案内され、そこには和装に身を包んだお爺さんが待っていた。
長いテーブルを挟んだ、その先にいるお爺さんに私は挨拶をした。
「挨拶が遅くなりました。吉野澪と言います」
「君が、夏希の言っていた。聞いていた通りの人物だね」
「え?」
私は夏希の方を見たけれど、夏希はちょうどお婆さんからお茶を受け取っていて、話を聞いていなかった。
私はお爺さんへと向き直った。
「そうだ。庭園を案内しよう」
「庭園はお爺ちゃんの自慢なんだよ」
「そうなんだ。それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
「ついてきなさい」
そうして私はお爺さんと外に出た。
日本庭園の半ばまで行くまでにバラや桜、それにこの季節ならではのひまわりを紹介された。
夏だというのに、緑に囲まれているおかげか、思った以上に涼しく感じる。
「どうかな。何か気に入ったかな」
「桜は一度見てみたいですね。満開の時はきれいだろうから」
「バラではないんだね。いや、失敬。君は賢いとあの子から聞いていたから、てっきりね」
「花言葉、ですか」
「そうだよ。やっぱり知っているんだね」
「お爺さんが思っていることは私にもわかります。けれど、私も少しはロマンチックにいたいじゃないですか」
そう言った私の表情を見て、お爺さんは手を顔に当てた。
「いや、これは参った。そうだね。確かにそうだ。あの日、あの家を貸して欲しいと訪ねてきたのも夏希だった。私はてっきり君が、いや澪さんが夏希を貰いに来るイメージしかしていなかったが、そう言えばそうだった。澪さんが送られる方の立場だったんだね」
「できれば、そう、ありたいと願っています」
「うん。私も歳を取ったが、人の数だけの人生がある、澪さんが悔いのない道を選びなさい」
「はい!」
私はそうして、庭園を出た。
結局、お爺さんが何を言いたかったのかと言えば、きっと夏希のことを心配しただけだったのだろう。けれど、それはむしろ逆で、手を引いていたのは夏希の方だと悟り、私に助言をしてくれたのだ。
私はそうして、今回のちょっとした騒動に幕を引いた。
そうそう、奥にあった盆栽はお婆さんの力作ということだった。この家は二人揃ってかなりの腕前のようで、できれば夏希にも少しはその和の心を受け継いでいて欲しいものだと影ながら私は思う。
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