プレゼントと約束
デート当日帰宅後のこと。
時刻にして19時。ちょうど夕食時である。
私たちは共同スペースのリビングで今日買ってきたマグカップに紅茶を淹れ、一息ついていた。
私たちは帰路についたあの後、夕食のことを話しあい、途中でサンドウィッチ2個とサラダを買い、帰宅した。
「それじゃあ、食べよっか」
「うん」
私はサンドウィッチを食べ始め、夏希はサラダから手を付ける。
食事の仕方一つでも癖は出るもので、私は全体的に食べ進めるが、夏希は一つずつ平らげていく。
「おいしかったね」
「ボリュームがちょっと多かったかな」
「澪はもう少し食べた方がいいかもよ」
「そう?」
「なんか体調崩したら、すぐ倒れそう」
「そこまでじゃないでしょ…‥」
さてさて、宴もたけなわだけれど、私はところで、と話を切り出した。
「この手紙は、何!?」
「えっと、実は……」
ちょっと困惑した表情の夏希。これは知っていたということだね。こうなることを……。
手紙の裏には『猫野 信三』と差出人の名前があり、私宛。この状況を夏希以外に聞くほかないという感じだ。
手紙にはこう書いてあった。
「吉野澪様
突然のお手紙申し訳ない。
私は信三と言います。私はこの寮の責任者で運営者、そして、夏希の祖父になります。
夏希からあなたのことを聞き、差し出がましいようですが一度お会いしたく思っています。もしよろしければ、今度の週末にでも、夏希共々いらしていただければ幸いです。
PS 少々事情は把握しておりますので、何も隠すことはありません。
猫野信三
この内容から察するに、
「もしかしてバラした?」
「口が滑ったことは認めるよ。でも」
「う~~。ん~~~~。あ~~~~~~」
「み、澪?」
「しょうがないよ、行くしかない。予定よりだいぶ早い気がするけど、こういうのはきっとタイミングの問題だから。でも夏希にも協力してもらうから」
「あ、ありがとう。それで協力って?」
夏希がちょっと不安そうだ。
私は夏希に何かして欲しいわけじゃない。ただ手紙の通り一緒に行こうというだけだ。
それを伝えると夏希は安心したようで、一口紅茶を飲んだ。
「では改めて。はいこれ、プレゼント」
「ありがとう~。え?」
受け取ろうとした夏希によって持っていかれそうになるプレゼントから私は手を離さず、
「今すぐ、つけて見せてよ!」
「いいけど、何か企んでる?」
「そう見える?」
「澪の目がギラギラしてるように感じるよ…‥」
「はい、どうぞ」
私は催促するように夏希にプレゼントを渡した。
目的はあった、がそれだけではなくなった。
とりあえずこれを以て私は、キスを止める。とはいえ、完全にではない。押してダメなら引いてみろ、ではないけれど、あいさつ代わりに毎回するようでは価値が下がっていく気がした。そして、
「ねえ、夏希」
「なに?」
「私、これから一週間、キスを止めようと思うの」
「うえ!? なんで!? 私のこと嫌いになった? もしかしてくさい??」
「ブレスケアしているのは知っているし、そういうことじゃないよ。ただ、この手紙のPSにも書いてある通り、隠し事は無しで行こうと思うの。でも、最近挨拶のようにキスしていて、歯止めが効かなくなっているような気もするから、今日も外であんなになってたし。だから少し、期間を置こうと思って」
夏希は今日のことを思い出してか、顔が赤くなっている。
「それで、今日を以てそれを実行しようと思うんだけど、その前に、それ付けて私とキスしよ?」
「このままじゃダメなの?」
「やっぱり知らないか」
夏希は何のことという顔をしていた。だから私は、口紅を送るという行為について説明を手短にして、再度催促した。
夏希はだんだんと顔を赤らめ、最後にはわかったと頷いた。
包装紙をゆっくり外し、箱から口紅を取り出す。そして手の部分を回し、中から紅が顔を出す。それを大事そうに唇に塗り、馴染ませた夏希は、どうぞと言わんばかりに目を閉じた。
私は静かに夏希の横に移って、彼女を静かに倒した。
——ドキドキが止まらない。
「ふっ。くすぐったい……」
「じゃあ、するよ」
「んっ」
ほのかに香る花の匂いが鼻腔をくすぐり、唇の柔らかさとキスという甘美が脳を蕩けさせる。
そのまま、私と夏希は何度の唇を重ねた。
もう何も気にすることなどないかの如く、永い時間。そう、気づいたら21時を過ぎるくらいまで。
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