ショッピングと口紅
ショッピングモールへとやってきた。もちろんデートの続きだ。
今日の練ったプランはここまでなので、午後はここで思い切り時間を使えることになる。
「この服可愛いね。それにこっちは澪に似合いそうだよ」
夏希は近くの洋服店のマネキンに飾られた二体の洋服を指してそう言う。
可愛いと言った方の服も私に似合いそうといった服も秋口に着る服という感じで、可愛い方はフリルの装飾が付いた白い服と、膝上くらいまでのスカートで動きやすそうな組み合わせ。私に似合いそうな服はちょっと大人びて見えるワンピースという感じだと思った。
「これ着たら見惚れてくれる?」
「う~ん、海辺に立って麦わら帽子をかぶっていたら、見惚れちゃうかも」
「海か~。今度行こうか」
「もっと思いで作りたいもん、行こう!」
「それじゃ、他も見に行こうよ」
「あれ買わないの?」
「もっと見てからね」
「それもそうだね」
夏希と雑貨屋の前を通るとおもむろに、
「澪とお揃いの何かが欲しいな」
「ペアルックってこと?」
「そんな大それたことじゃないけど、あ、この猫のマグカップ可愛いよ」
「なら私はこっちの四葉のクローバーのマグカップ買うから、それでどう」
「いいね、今日の思い出の一品だね」
「大切にしようね」
そして私たちはレジにそのマグカップを持っていった。割れ物として少しばかり大仰に、厳重に包装され戻ってきたそのマグカップをバックに入れ、少し重く肩にかかる力に私は今日の思い出を感じる。
「ちょっと重かったね。あとにすればよかったかな」
「いい思い出」
「そっかな」
えへへと笑う夏希の細くなった目から目が離せない。どこか儚く見え、いつか失われるんじゃないかと不安を覚え、目に焼き付けておかないと、という気になる。
——彼女とこの先にそびえ立つ壁の前でも同じように笑っていられるか、私にはわからないから。
「ね、楽しい?」
「え?」
ふいに夏希にそんなことを聞かれた。
「なんか考え事が多い気がして」
「ちょっと、この時間が終わっていくのを寂しがっていただけだよ」
「大丈夫だよ。またデートすればいいんだから!」
そう彼女は明るく、どこまでも明るく言う。
彼女のそういうところが私はどこまでも好きだ。
「ねえ、夏希。口紅買いに行こっか」
「うん」
そう言って、私は彼女の手を引いて化粧品売り場へといった。
ずらりと多種多様な化粧品の並んだ、その一角で私たちは頭を抱えていた。
「ね、澪考え直して」
「いや、大丈夫だから」
「でも、それ」
私の手には一つの口紅が握られていた。
淡いピンク色でつけた唇が艶やかに見え、みずみずしく感じられると評判の一品だと、隣のモニターで宣伝している。
これは夏希に絶対に合う! そう私の直感がささやく。
「5000円もするって書いてあるよ」
「大丈夫」
「高いって。私そんなに高くなくていいから……」
「いや、私がこれがいいの」
「でも、でも私へのプレゼントなんでしょ」
「そうだよ。夏希に似合う一品なんて、お金以上の価値しか感じないよ!」
せっとくは無理と判断したのか、困惑顔の夏希は渋々頷いた。
「買いに行こう!」
「澪が積極的過ぎて、私は怖いよ」
「何か言った?」
「なんでも~」
「ならよし」
私は夏希のためならば、いや、夏希とのためならばどこまでも積極的になろうじゃないかと思う。
レジで表示された金額に夏希はまた、はわわとなっていたが、私は包装をお願いして表示された金額を払った。
リボンの付いたプレゼント用の包装を施された箱に入った口紅を受け取り、それを大切にバックにつめる。
「それじゃ、帰ろっか!」
「そうだね……。また何か澪にプレゼントされたらと思うと私も同意だよ」
「今日はこれだけだよ?」
「私がついうっかりってこともあるから……」
「気にしないで。私のためでもあるから」
そう言って私は笑って見せた。
それが何を意味していると思ったのか夏希は少し焦りつつ、『早く帰ろ』と言い始め、そのままの足取りで帰路についたのだった。
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