星空と隣の彼女
プラネタリウム館の受付で高校生チケットを二枚買う。もちろんカップルシートで。
そのままの席へと向かった。
カップルシートはクッションが置いてあって三人分くらいの席の幅があるが、ベッドほどの大きさはなく、横になれる程度のものだった。
「思ったより大きいかも」
「カップルシートだから、このくらいじゃない?」
紅いシートに座りながら夏希が物珍しそうに言う。
一方、私は冷めた風な口ぶりだったためにちょっと勘違いさせてしまったらしい。
「もしかして一人席の方が良かった?」
「ち、ちがっ」
大人びているなんて言ったら聞こえはいいが、それはただの仮面だ。私が夏希といてドキドキしないわけがない。
これだから私は浮気を疑われるんだ……。
私は座った夏希の手を取った。
「いきなり!? あっ…‥」
大きな声がホール内に響く。まだ幸い開園まで時間があり人はいなかった。
「び、びっくりするじゃん」
「私だってドキドキしてるって伝えたくて……」
夏希がびっくりしたのは私がいきなり彼女の手を私の左胸に当てたことだ。きっと今彼女の手には私の高鳴りが伝わっていることだと思う。
「わ、わかったから…‥」
「よかった」
「もう、澪ってたびたびすごいことするよね」
「そうかしら」
「もう……」
夏希は目を泳がせながら話す。
そして私も夏希の横に座り、沈黙のひと時が訪れる。お互いに今のいつもとは違う状況にドキドキしていて、それが言葉を詰まらせた。
そうして迎えた開演時間。
私たちは星空が見やすいように寝転んだ。
「なんか不思議な感覚だね」
先に口を開いたのは意外にも私の方だった。
沈黙に耐えかねてというのもあったが、夏希とのデートの時間をひと時でも無駄にしたくないという思いが強かった。
「う、うん」
「緊張してるの?」
「えっ?」
「手がぎゅってなったから」
無意識か、私たちは胸に手を当てた時から手をつないだままだった。
明るくもなく、真っ暗でもないその空間に目が慣れてきたころ、夏希の顔が火照っているのに気が付く。
私も夏希がしたいことには察しがついているけれど、ちょっと意地悪になって、
「そんな顔じゃ、明るくなった時大変だよ」
そう耳元でささやく。そうすると彼女はさらに耳まで赤くして、身もだえしてる。
その反応にはさすがの私も気が乗らないなんてことはありえない。
「お、お願い……」
「ちゃんと言ってくれたら、いいよ」
「澪の、イジワル……」
「こういうのは嫌い?」
「……澪なら、いいかも」
「そう。なら、ちゃんと言って?」
星座の説明なんてどこへやらで、私たちは二人の世界に沈んでいく。
もう夏希も我慢できないようで、瞳がうるんできているのがわかる。首に当たる息にも熱を感じる。
「キ、キス、したい」
「言ってくれてありがとう。いっぱいしようね」
「う、うん」
夏希の返事を聞き終えて、私は彼女の柔らかい唇に自分の唇を重ねる。
「ん、ふ、んっ…‥あっ」
「まだまだ」
一度息をするために離すと名残惜しそうに声が漏れる夏希にキュンキュンくる。私の支配欲、征服欲がこんなに強かったのかと驚かされるほどに。
今度は少し、ディープにしていくと彼女から耐えられないとばかりに甘い声が出始める。外でこれはまずいと私は少々の焦りを感じる。
「声押さえられる?」
「む、むりかも」
ごくりっ。
溶けた声の彼女に生唾を飲み込む私。これを前に我慢を強いるのはちょっと無理かもしれないと思いつつも、控えめなキスへと変え、息を吸うタイミングに合わせ耳元でこういう。
「外でそんな表情しちゃダメでしょ」
「い、いや、でも……」
「帰ったら、お仕置きね」
「うえっ!?」
「ふふ、焦る夏希も可愛いよ」
「な、なにされるんだろうって思うとちょっと身の危険を……」
「いやなことはしないから、だから今はその気持ちをため込んでおいて、ね?」
そう言って私は軽くキスをした。夏希の気持ちを封印するかのように……。
それから少し経った頃、プラネタリウムの上映が終わった。
まだ昼過ぎ。今日のデートはまだまだこれからだけど、夏希がちょっとへばっている気がした。今度からプランを練る時は配慮が必要だと思った。
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