宿題
昼食を済ませた私たちは午後の予定を考えていた。
正直今日はもう何かをする気にはなれない。
「夏休みの宿題でもする?」
「ええ!?」
「だって夏希は後に残しちゃうタイプでしょ」
「ま、まあ、やらないっていうか終わらないっていうか…‥」
私たちのこの寮生活はまだ仮ものだ。私もさることながら、夏希の成績いかんでは解散もあり得る。
浮気を疑われた私だ。
離れ離れになれば、結果は想像にたやすい。
「夏希の成績のお手伝いは私にも見返りあるから、遠慮せず協力を頼んでよ」
「こういう時の澪って、積極的だよね」
そうだろうか。私としては何ら変わらないつもりなのだけれど。
お茶の入ったコップが汗をかくように、手つかずになってはいけない。
「じゃあ、私にできるご褒美を上げよう」
「ご褒美!」
ぴょんと耳が生えたように見えるほど飛びつく夏希に、気圧されながらも私は、
「宿題を終わらせるごとに夏希の言うこと一回聞いてあげるよ」
「やる!!」
「即答か」
「俄然やる気ができてきたよ」
燃えた目をする夏希は立ち上がり、宿題を取ってくると去っていった。
私も後を追うように自室から宿題を持ってきた。
少し待ち、どっさりとあれやこれやの教科を持ってきた夏希は、
「数学が一番苦手だから、澪に教えてもらう!」
「それ以外もあるように見えるけど」
「飽きたら他のやるの」
「じゃあ、とりあえず問題解いてみようか」
最初から教えてもあまり意味がないので、問題を解かせてつまずいたら重点的に教える方針にして、それまでは私も自分の方を進める。
夏希は最初のうちは静かに取り組んでいたが、徐々に唸りだし、ついには爆発するかのように、
「わかんない!」
と叫んだ。
問題を見せてもらい、私は解説をし始める。
うんうんと聞いていた夏希は、私が言う解き方を参考に計算をしていき無事答えにたどり着く。
「澪は数学もできるのね」
「数学は答えが決まっているから好きなのよ。さっぱりするっていうか、もやもやしないっていうか、他の教科と違って単純明快で好きなの」
「私は国語とかの方が好き。物語を読むってすごく楽しいから」
感受性豊かな夏希らしかった。
「それじゃ、続きやろうか」
「うん」
それからまた何度か似たような状況を繰り返し、夕方を迎えたころ夕食の準備をしなければと、片付けを始める。夏希はおよそ半分ほどの数学の宿題をやり遂げた。
私が教えていたとしても苦手教科にこれほど打ち込んだのは大きな成果だった。
これから成績を上げることもできるかもしれない。
「澪? 何か企んでる?」
「え、どうして?」
「そんな顔に見えたよ」
「夏希の成績を上げたいなって思っていただけ。変なことは考えていないよ」
「お世話になります」
深々とお辞儀して見せた夏希。私はちょっと気まずくなりつつ、
「私もきっと夏希に頼るところあると思うからよろしくね」
「もちろんだよ」
私に頼られるのがうれしかったのか、満面の笑みになった夏希はキラキラと目を輝かせ
「力になるよ。澪の傍にいるよ」
「あ、ありがとう」
ちょっと違う方向で頼られると思っているらしかった。
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