手ごろな物件
リビングに戻ってきたはいいが、本当に眠い。ここのところ、咲姫の手伝いをやりつつ、今まで通りの生活をしていたので、思った以上に疲れがたまっていたようだ。
夏希はというと、なんだかもじもじとこちらを窺っている。私も夏希のことは大好きだから、たとえ迫ってきたとしても悲鳴を上げたり、蹴飛ばしたり、怒ったりしないのに、彼女は変なところで消極的だ。
「夏希? とりあえず、私の意識のあるうちにベッド行こうか。もう寝ちゃいそうだから」
「う、うん」
私の部屋まで移動し、ベッドに腰かける。
「寝かせないっていうなら早くしないと……寝ちゃう……ぁも」
「キ、キスするから」
「う、ん」
目を瞑った。
結果から言うと私はこの時に、寝落ち、した。
朝目を覚ますと、太陽の光がカーテンの隙間から差し込みまぶしさを感じる。ふと横を見ると、膨らみがあり、視線を上げていくと夏希だと分かる。
服の乱れは特になく、あの後何があったのかを知る痕跡は残されていなかった。
「お、おはよう……」
「ん。…………う~~~ん」
夏希は大きく伸びをする。
なんとなく気になってあの後のことを聞いてみた。
「昨日、その後どうなったの」
「え、っと……何もできませんでした」
夏希は言いながらウルウルと目から涙を零した。
「ご、ごめん」
「いいって、澪が疲れていたのに無理させたから」
「今日は大丈夫だから、ね?」
私は咄嗟にそういった。
朝から慌てふためいてしまったが、この後の予定が詰まっているからもう起きなくてはと布団から出る。
「夏希も、水槽買いに行くんでしょ。朝ごはん食べて早く買いに行こう」
「そ、そうだった。うん。着替えてくる」
夏希が部屋から出ていったのを見送り、私はパジャマから着替え始めた。
着替え終わり、リビングに行くとまだ夏希の姿はなく、とりあえず紅茶が呑みたかった私が自分の分とそれから夏希の分を用意し、トーストをチンしてジャムを片手にテーブルで夏希が来るのを待った。
「おまたせ~」
普段着で登場した夏希はまだ眠そうに瞼を擦っていた。
「用意できてるよ」
「ありがとう」
黙々とトーストを食べ、十分もしないうちに朝食を済ませた二人は食べ終えた皿の片付けをして、すぐに出かける用意に取り掛かる。
二人が自室に戻ってしばらくして、同時に二つの扉が開いた。
私は普通に肩掛けのバッグで行くつもりだったが、夏希はリュックサック姿だった。
「なぜにリュック?」
「いろいろ入るから!」
確かに自転車で行くにしてもその方が助かりそうだと思った。
「じゃ、行こうか」
「うん」
私たちは勢いよく寮を飛び出し、そのままの勢いで自転車をこぎ出した。
ペットショップにやってきた。
犬、猫のフロアに比べればさほど大きくはないが、一応フィッシュも取り扱っているお店だ。
私たちはまず何が必要かわからないため、店員に話を伺った。
「あの、金魚を飼うには何が必要ですか?」
「それでしたら、水槽、金魚鉢などでもいいと思いますよ。それと、下に引く砂利や草、後水中に空気を送るポンプですかね。あとは日当たりがいいと藻の繁殖が早かったりするので、そう言ったものを食べてくれる生き物をセットで買っていくお客様などもいますよ」
「ありがとうございます」
ペットショップのハンサムなお兄さんに一通りの説明を受けた私たちは一つずつ言われたものを集めていった。
「水槽と金魚鉢どっちがいいかな」
「水槽の方がいろいろ飼えそうだし、無駄にならなさそう」
「夏希がそういうなら、水槽にしよう」
水槽の中でもそれほど大きくないものを選び、カートに入れた。
それから砂利を大きさ中で選び、水草を買いに魚が飼育されている方へと歩いて行く。
「寮は日当たりがいいから、藻を食べる生き物もやっぱりいるかな?」
そんな私の問いに夏希は、店員さんに任せてみようと答えた。
「あの、水草下さい」
「はい。このくらいで良いですか?」
女性の店員は三束ほどで良いか尋ねてくる。私はしっかりとはいと答えた。
「それと、藻を食べる生き物って」
「あ~。それでしたら、エビや貝がお薦めですよ。失礼ですが、日当たりのいい場所に置くと水温が上がりやすく藻の繫殖がしやすくなるので、一緒に入れておくに越したことはないですね。別途エサなどは必要ないので」
「そうなんだね」
「どのくらい必要なんですか?」
「そちらの水槽なら、五匹程度で良いと思いますよ」
「なら、五匹お願いします」
「ありがとうございます」
女性店員は頭を下げ、エビを五匹袋に入れてくれた。
私は水草とエビの会計を済ませた後、夏希とともに水槽や砂利の方の会計も済ませ、自転車に分担して物品を乗せていく。
私たちは行きよりも慎重になって寮への帰路についた。
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