水槽とお風呂
帰宅してまず、私はいったん浴室の桶に塩素の入っていない水をはり、金魚を移した。そして、自室で浴衣を着替え、夏希の浴衣も回収し、きちんと畳む。その際、夏希に
「またなの!?」
「夏希は着替えてていいよ」
「見られながらはちょっと……」
などのやり取りがあったが、夏希の名誉のため事細かには取り上げないことにする。
そして私はどこからともなく掃除で使うような深いバケツを持ってきた。
「着替え終わったよ」
と言いながら、私が何をしているのか覗き込んでくる。
「ビニールにペンで穴をあけているんだよ」
「何に使うの?」
「金魚が苦しくないように水の中に空気を送るための仕組みを作っているの」
「へえ~~」
私はビニールに少し大きめにいくつかの穴をあけたそれを大きめのカップを取り出してきて、それに被せ、しっかりとテープで留めた。
次に、先ほどコンビニで買ったスポンジの下にそれを合体させる。
そして、テープでまたしっかり留め、今度は一体となったその物体をバケツの下にテープで固定した。
「これであとは水を入れて次第に空気が出てれば、簡易ポンプの出来上がりだよ」
「こんなものまで作れるなんてすごいね!」
「ちゃんとできていると良いけど」
私は少しずつ水を入れていき、簡易ポンプが水圧で壊れないように気を付ける。
水を張り終わったところで、少し待っていると少しずつ気泡がスポンジから出てきた。成功の合図だった。
「大丈夫そうね」
「やったね。澪!」
私より喜んでいる夏希を見て私はポッと一息付けた。
「金魚を移しちゃお」
「うん」
私は桶を静かに傾け、バケツへと移す。
「元気でいてくれるかな」
「きっと。でも明日ちゃんと水槽とその他一式買いに行こうね」
「うん」
夏希は金魚の泳ぐ姿を見ながら、返事をする。
私は使ったものを片して、バケツを邪魔にならない位置まで静かに運んだ。
「今日は疲れたし、お風呂入って寝ようかな」
「まだ九時だよ!?」
「もう寝てもいい時間だと思うけど…………」
「む~。せっかく咲姫さん居ないのに」
言われてみれば、一週間程度だったけれど、なんだか久しぶりな感覚がした。
と言っても、疲れているのは事実なので、
「夏希が寝かさないでくれるの?」
「うぇ!?」
「そんな驚かなくても。そういうことじゃないの?」
「ち、違くないけど。言われると恥ずかしいじゃん。もう」
「とりあえず二人でお風呂入ろうか。夏希も早く汗流したいでしょ」
私の提案にどちらとも付かずだった夏希を引っ張ってお風呂場に直行した。しかし、まだ心の準備ができていないようで、夏希は服を脱ごうとしない。
仕方ないので、手伝ってあげることにする。
「い、いいって、澪~~~」
「暴れないで、延びちゃうから」
「だから~~」
化粧台に設置された鏡の前でそんなことをしているもんだから、余計に恥ずかしくなったのか、すっと夏希の抵抗する力が抜けた。
私は今だとばかりに上を脱がせた。
「澪は見られても恥ずかしくないの?」
「女同士だし平気でしょ」
「恋人同士なのに…‥」
そう言われるとしっかり見られたことはなく、なんだか私も恥ずかしくなりそうだ。
「た、確かに恋人同士だけど、さ。そんなじろじろ見るわけじゃないから、ね?」
「う~~、わかったけど。洗い合いっこはしないよ!」
「なぜバレた!?」
「顔に書いてあった!」
夏希は先にすべてを脱ぎ終え、お風呂場へと入ってしまう。
「開けるよ」
「いいよ」
私は扉を開け中に入った。
「そうだ。私が澪を洗うのはいいよ」
「え、うん、うれしいけど」
「それじゃ、洗ってあげる」
夏希はスポンジでくまなく、首から足の指先までしっかりと洗ってくれる。
「澪ってやっぱり少し大きい?」
「そ、そうかな」
「私は小さいから」
「これから大きくなるって」
なぜかいきなり胸の話になり少し焦ってしまうが難なく乗り越えた。
シャワーで石鹸を洗い流し、いったん私はバスタブに浸かる。
そして夏希がすべて洗い終わって私とポジションを交代した。
「澪は髪長いけど大変じゃないの?」
「慣れちゃったから大丈夫」
「そんなものなんだね」
「長くしたいの?」
「そういうわけじゃないけど。ちょっと興味はある」
夏希のロング姿を想像した私は、なんか姉妹みたいとそう思った。
それから洗顔をして、ちょっと二人で入るには狭いバスタブに浸かり、百数えてお風呂場を出る。
身体を拭いたら、さっと衣服を身に着け、化粧水などでしっかり顔をケアし、タオルでなるべく水気を切った髪をドライヤーで乾かす。夏希の髪もドライヤーで乾かし、二人ぽかぽかの状態でリビングに戻った。
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