浴衣
あくる日。
空が黄金色に輝く頃、遠くから風に乗って太鼓の音が聞こえる。
今日は寮から少し歩いたところに位置する公園で盆踊りがあるのだ。
「澪~、着方わかんない~」
「ちょっと待ってて」
私は自分の浴衣を姿見で確認し、髪留めをつけて夏希の所へ向かう。
夏希の部屋に入ると、帯が緩み、前がほつれた彼女の姿が目に入る。
「一回脱ごうか……」
私はフリーズを回避し、お祭りになっている夏希を一度元の状態に回帰させるべく、彼女に指示を飛ばす。
脱ぎ終えた夏希はなぜかさらしを巻いていた。
「なぜさらし?」
「かっこいいでしょ!」
「いや、普通に下着着てよ…‥。待ってるから」
「かっこいいのに……」
さみしそうな顔を見せたが、もし外ではだけたら大変だから、私は鬼になったつもりでダメと一喝した。
「澪ってなんでもできるの?」
「浴衣はお父さんがお祭り大好きだったから着られるようになっただけだよ」
「それでも澪はすごいよ」
下着だけを身に着けた夏希の唐突な質問に素直に答えた私。答えを聞いた彼女は少し落ち込んだように見え、私もその感覚に覚えがあった。
私も咲姫に同じような感覚を覚えたことがある。咲姫にはやりたいことが明確にあって私にはそれがない。
引け目を感じると言い換えてもいいかもしれない。
夏希もきっとそんな感じだと思うから、だから私は。
「私も夏希をすごいって思うことはたくさんあるよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ。だって私が今ここに居るのも夏希のおかげででしょ。ちょっと無鉄砲なところとか、猪突猛進な一直線な所とか、そういう私には真似できないところが、夏希の凄いところ」
「まっすぐに言われるとむずがゆい」
着付けの手を一旦止めて、夏希の眼をまっすぐに見て私の思うことを言い終えると、顔を赤らめ夏希は手で口元を抑えながらそっぽを向く。
「澪のそういうところずるいと思う」
「そういうところ?」
「なんでもない」
帯をぎゅっと締め、終りと肩を叩く。
夏希はなんでもないと強く言ってすたすた歩いて行ってしまう。
「待ってよ~」
浴衣だと走れないので、早足で夏希の後を追った。
「そうそう、澪の髪飾り似合っていると思う」
「うれしい。ちょっと私には派手かと思っていたから」
玄関口でそう言われて、私は笑顔を浮かべた。
「む~~」
「何膨れているのよ」
「なんでもない」
どうやらご期待に沿えなかったようで、怒らせてしまったらしい。女心と秋の空なんて言うけれど、女の私にもわからないことは多い。
「夏希。ね? 手つないでいこうよ!」
「え、ん~。いいけど」
「よかった」
玄関の鍵を閉めて、巾着袋に鍵をしまう。そして空いた手を夏希の手と合わせた。
さあ、出発だ!
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