原稿 前編
カレーを食べ終えた私は、咲姫の今しがた書き終えた原稿を読み始めた。
オオカミ少女、ミユはある日、森の中で傷だらけの状態で倒れている首輪を嵌めた少女と出会う。よく見ると足にも枷の痕があり、どうやら奴隷が使い物にならなくなって捨てられてしまったような感じに見えた。
かわいそうにと思いつつもオオカミ少女は埋葬してあげようと奴隷少女の傍らに座り込み担ごうと手を取った。オオカミ少女の髪がかすかに揺れる程度の息遣い。まだ奴隷少女には息があった。
オオカミ少女は奴隷少女を居城に連れ帰り、手当てをすることにした。
奴隷少女が目を覚ますとひどくおびえた様子。それも仕方がない。奴隷少女が生きてきた環境が底辺だとするならば、今目の当たりにしているのは、オオカミ少女の住む世界はオオカミ族の中でも上位になるから。
しかし、私を見て怯えているのはいただけない。そうオオカミ少女のミユは思った。
「私は族長の娘のミユよ。あなた名は」
「あ、ありません……」
「ないのね」
静かに、でも聞こえるくらいの小声で奴隷少女は言った。
名がないのは不便だ。
「まあいいわ。とりあえずついてきなさい」
「え…‥」
奴隷少女は下を向いたまま、何も言わずついてきた。力はわからずとも背丈だけで言えば彼女の方が大きい。ミユは襖を開けた。
「お父様。この子を飼うわ!」
「ミユよ。見たところ拾ってきた人間の少女だろう。そんな子を飼えるわけがないだろう。いつも言っておろう。彼の者らとは関わるなと」
「お父様。私が責任をもって躾けるから、いいでしょ」
「ミユ。族長として何かあってからではお前を庇えないのだ。その覚悟はあるのか」
「私は…………ええ、ありますとも。私は絶対に一人前になるのだから」
「わかった。してみなさい」
「はい」
オオカミ少女のミユは奴隷少女を連れ、部屋を出た。そして元の部屋へと戻ってくる。
「あなたのことは、ミカンと呼ぶわ。私の一番好きな果物の名からとったの。喜びなさい」
「はぇ……」
「ミカン、これからあなたは私のメイドになるの」
「わ、わたしは奴隷ですから、それは……できません」
彼女、ミカンはおもむろに口を開いたかというとそんなことを言う。その手は震えていた。
「残念ですけれど、奴隷は好きじゃないの。ああ、心配しなくとも私は自分のメイドにひどいことをしたりしません。ですが、契約がまだでしたね。どうします。今ならまだ奴隷でいられますわよ」
「え、ん……ぅ……」
「答えられませんか。まあ、それはそうよね。ミカンが何を心配しているかわかりませんが、私がすべて教えてあげるから大丈夫よ。あなたが今すべきことは頷くこと。できますね?」
ミカンは静かに頷いた。
「それでは汚い格好のままでは困りますし、お風呂に入って、それから契約の議を行いましょう」
「は、い」
ミカンはミユの後に続く。
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