幼馴染
八月手前の終業式と言えば、夏休み前最後の登校日になるわけで、自ずと話題は夏休みのことになりがちだ。
だから、ということではないだろうけれど、私もなんだか予定を聞かれる。教室のいたるところでその話題が上がっている。
「それで、澪はなんて答えたの?」
「遊ぶ予定はないって言ったけど」
「澪は相変わらずだね。もう少し人付き合いした方が身の回りが楽だよ~」
「そういう咲姫だって、予定ないでしょ」
「まあ、ないけど」
彼女は私の幼馴染の咲姫。大きなリボンのついた髪留めでポニーテールにセットしているのがある意味特徴で、スポーツ万能なだけにスタイルもいい。
私の話し相手が咲姫と夏希を入れ、他数人しかいないのを彼女は知っている。
「それで、今年もいいの?」
「まあ、夏希にお願いはしてみるよ」
「ありがとう~。澪がいないと助からないところなの。お願いします」
「聞くだけ聞いてみるから」
「バイト代はちゃんと出すから」
彼女は縋りつくような目でこちらを見てくる。彼女のこういうところを私は素直に尊敬している。
「澪~~? 帰ろ?」
「あ~、夏希。ちょっとお願いが……ほら」
私は咲姫を小突いた。
「夏希さん。ちょっと澪を貸してほしくて」
「エッチなことはダメだよ」
「あ~。う~~ん……エッチではないけど、いや、エッチか……まあ、大丈夫、夏希さんが心配しているようなことをするわけじゃないから。身体目当て、いや腕目当て、そんな感じ」
「どういうこと?」
「私が説明するとね、夏希。毎年なんだけど、この時期は彼女の手伝いをしてるんだよね。それで今年も頼まれていたってわけ。で、夏希が寂しがるから、今年はあの寮を使わせてもらえないかなって」
夏希はほんの少し考えてから、口を開いた。
「咲姫さん。澪に何もしないって約束ですよ」
「それじゃあ」
「滞在を許します。ですが、生活面はしっかり手伝ってもらいますよ」
「できる限りの努力はするよ」
「それと私と澪のことをこそこそ嗅ぎまわらないように」
そうして彼女は一度自宅に帰って持ち物を揃え、用意を整えたら電話をくれる手はずになった。
帰り道。
終業式だけだったこともあってまだ午前中。もしかしたら一番暑い時間の始まりのひと時かもしれない、そんな時間にもっと暑くなりそうなことを夏希は言い出した。
「咲姫さんって澪とどういう関係?」
「幼馴染だよ」
「じゃ、幼馴染には私とのこと話したんだ」
さてここで。親族に話してしまうのと、友達に話してしまうのでは、どちらがタブーであるか問題。
「ごめん」
「いいけど、あの時怒ったくせに」
「機嫌直して……私が悪かったから」
「私の言うこと何か一つ聞いてくれたらいいよ」
「わかった」
私は少し期待もした。
ただ、ここでは何も起きなかった。
「暑いし、速く帰ろ」
「そ、そうだね?」
「今度使ってあげるから」
にやりと笑う夏希がどことなく怖かった。幼馴染との関係を見て嫉妬でもしてくれたのだろうか……なら、少しうれしい。が、この後、その子が寮に来るんだけれど、何も起こらない、そんな世界があるのだろうか。
不安である。
そんなこんなで寮に着いた。今日はやけにセミの声がうるさい。
読んで下さりありがとうございます。
もしよければ、感想、ブクマ、評価などしていただけたら嬉しいです。




