メイド喫茶の歴史をいま語ろう!
メイド喫茶編開始です
桜子さんを面接に連れていった結果、というか面接を行うまでもなく、サナさんはその場で合格を言い渡した。
「で、いくら面接で合格とは言え、夕方からいきなりお店っていいのでしょうか?」
「いいんじゃない?研修も込みってことで」
いまの時刻は15時。シフトには15時半から入ることになっているので、いまは待機中だ。あ、そうそう、桜子さんはこの瞬間から同僚というか、立ち位置的には部下になるので、俺からの口調は改めている。
「時間もあるし、簡単にメイド喫茶について説明するよ」
「あ、お願いします」
「どのあたりから説明するかな…歴史とかはそのうち話すとして、いまは秋葉原の現状とメイド喫茶で何をすべきかってあたりから話そうか」
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ざっくり言うと秋葉原には3タイプのメイド系店舗が存在する。
1つはメイド喫茶、もう1つがメイドバー、そして最後にそれらに分類できない数多のコンセプトもの。
メイド喫茶は、昔からある「店員にメイドのコスプレをさせた喫茶店」であり、ストロングスタイルとも言える。ゲームのコスプレイベントの喫茶店から始まり、2001年には秋葉原初のメイド喫茶『癒しのメイドさん』ができるようになる。
あ、ここ『マーマレード』もこの頃にできたかなりの老舗なんで、ストロングスタイルの店になるかな。
その後、2000年代半ばにテレビドラマにも取り上げられるようになり、その頃のイメージで「萌え萌え」だ「ご主人様お帰りなさいませ」だ、そういう文化が広く知られるようになる。
が、当時、秋葉原で通っていた連中からすると、メイド喫茶自体がかなり異色な存在だった中で「萌え萌え」だのする店舗はさらに異色を放っていたイロモノ中のイロモノだった。
「そ、そうなんですか?」
「そうそう。俺は中学生だったけど、異様を越えて、当時はそういうメイド喫茶にドン引きしてた。周りにいた普通のメイド喫茶が好きな連中もそうだっんじゃないかなぁ」
そのときに出来た『あっ、とおどろきカフェ』とか『ぱふすりーぶ』などはこういう萌え系メイド喫茶の代表格かな?もうちょいあとに出来た『ゆーめいど』が秋葉原以外の場所でも展開しまくって、店舗数的にはこの系統で1番多いかもね。
「『あっ、とおどろきカフェ』が最初のメイド喫茶だと思っていました…」
「何故かそういう誤解をしている人が多いよね…店舗側もそんなことは語っていないし…で、それと」
これは、3つ目のその他に分類されるメイド系店舗なんだけど、メイドリフレも実は歴史が古い。実は『あっ、とおどろきカフェ』の翌年2005年の頭に出来てる。
店の名前は…『メイドさんの足つぼ』だったかな?
下世話な話になるけど、メイド喫茶は客単価1000円からで、5000円にはなかなか届かない。ところがメイドリフレは3000円からで少し太めの客ならすぐに10000円になってしまう。
開業のハードルも喫茶よりかなり低い。だから『メイドさんの足つぼ』がウケたのをきっかけに2005~2009年くらいにはメイドリフレのお店が雨後のタケノコのように増えたんだけど、とある店舗でストーカーから女の子が襲われる事件が発生しちゃってね。
その後は急に店が減っていったよ。いま秋葉原でメイドリフレやってるのは数店舗しかないんじゃないかな?
まぁ、しかし『メイドさんの足つぼ』のオーナーは、先見の明があったんだろうね。こうなることを予想していたかのように、リフレの店は早めに畳む準備を始める。その傍ら、系列店として、これもたぶん初になるギャルソンカフェ『ホワイトローズ』を池袋にだすんだよ。
「ギャルソンカフェってなんですか?」
「男装の女の子が店員やってる店」
「ああーそういうお店ですか」
これが池袋の腐女子街化の先駆けの1つになるんだけど…これは余談だから忘れよう。そう、池袋と言えば『アーノルド魔法学園』も『あっ、とおどろきカフェ』や『メイドさんの足つぼ』とほぼ同時期の2005年に店を開いてるね。
これは最初に紹介したもう1つのパターン「メイドバー」の走りになった系列店舗だ。アーノルド魔法学園は、東京都内の繁華街に何店舗か…それ以外に大阪にまで出している。
とくに東京…いや日本最大の繁華街とも言える2008年に新宿で出した店舗は、いわゆるガールズバーのシステムを導入していて、客単価がメイドリフレすら軽く越えてくる。さらに店舗のメイドでアイドルユニットを組ませることで、付加価値を付けて、その子とガールズバーで話せることで満足度を上げる、というのはなかなかよい目の付け所だと思う。
いまの秋葉原ははっきり言って、メイドバーが主流だ。新宿でアーノルド魔法学園が導入していたシステムと同じような店が2010年頃には秋葉原で展開を始めている。
キレイな内装、瀟洒な雰囲気と、メイド服と、しっかり作り込まれた世界観、そして酒。身を持ち崩すオタクが続出するのもわかる。有名店だと『アリステイル・ティーパーティー』とか『プリンセスガーデン』あたりかな?
そこから、10年。徐々に増えていくメイドバーは完全に秋葉原では支配的主流になっている。喫茶系の老舗がいくつかなくなっているのも大きいかなぁ。
『マーマレード』も実は一回、前のオーナーが手を引いたことがあり、店舗を愛する当時のメイドと客が手を尽くして新しいオーナーを見つけてきて、ギリギリ潰れるのを回避したという歴史もある。
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「ということで、気づいたら歴史から語ってしまっていた。ごめん」
「あはは~いいんですよ~」
そういう桜子さんの表情は少し固かった。いや、つい流石に大量の情報に呆れさせてしまったか。
「要点を言うと、マーマレードはストロングスタイルのメイド喫茶で、それを変えるつもりも必要もない」
結局これが言いたかっただけなのに余計なことを話しすぎたな。
「でもいまの秋葉原は、メイドバーが主流なんですよね」
「もちろんそうだよ。メイドバーはイベントともなると1日で100万近い売り上げが上がることもある。でもメイドバーにも難点がある…」
「難点…ですか?」
「そう、人件費がネックになるんだ」
人件費がバカみたいにかかるのがメイドバー店舗のネックだ。人が来ない日があると赤字が一気に嵩んでいく。
「喫茶店タイプだと、20人の客に対してバックヤード1、店内2~3で足りる」
「普通の飲食店ならそうなりますよね」
「ところが、メイドバーは、メイドが客1人に割く時間がかなり長くなる…メイドがさっきと同じ人数だとすると客が半分でも厳しいかもしれない」
「なるほど…それだけ人件費がかかるんですね」
「それに、料理を運ぶ、注文を取るがメインなのと、それ以外が多い店が同じ給料ともいかないだろう…メイドバーは売り上げによってはバックを渡す必要もあるからな」
「あ、それはそうですね…」
「できる限り、システムを通常の料理店や喫茶店に近づけ、桜子さんのような目玉メイドさんの個人的なキャラクターで+付加価値をつけて、多めにお金を落としてもらう」
それだけではない。料理など提供するものの品質をかなり上げる必要もある。そこらへんに食べに行くよりマーマレードに食べに来た方がいいじゃん、と思わせなくてはいけない。それには、まだまだ課題は多いだろう。
「な…なるほど…プレッシャーですね」
「かもしれない。メイドバーの色恋営業を吹き飛ばすくらいの強い個性で、客をガッチリつかんでほしい…まぁ細かいマーケティングとか戦略とか計算はこっちで請け負うから」
少し固くなった桜子さんをお茶らけてほぐすために、満面の笑顔を作って、親指を立てる。
「桜子さんはいつも通りにしててくれれば、まったく問題ないから」
「あはは…がんばります」
「それと桜子さん」
「はい?」
あーそういえば、会ったときからこの話し方をしていたから、大事なことを言うのを忘れていた。
「お店でもちゃんとアイドルのときのキャラクターでよろしくね」
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