龍の背なの小さな影
心に浮かんだ小さな童話
ただそれだけです
しみていただければさいわい。
両親が泣いている
微笑んでいる
悲しんでいる
喜んでいる
王様が優しい
王女様が優しい
将軍が優しい
綺麗な衣装
金糸銀糸白い絹
薄紅色の幅広の帯
キラキラ輝く美しい耳飾り
髪の毛は綺麗に編んで着飾る
珊瑚の簪
鼈甲の櫛
沢山の人々に囲まれ
両親と共に輿に担がれた
王宮を出ると人々が集まって静かに頭を下げる
前を白髭の神官様がゆっくりと先導する
鈴の音が響き、太鼓の音が鳴る。
美しい女官が八人、輿の前で優雅に踊る
そして城壁に向かう
城壁を出ると広大な大地が広がる
今までお城の外には出た事は無い
地平まで広がる緑の大地に目を奪われる
そして城門の前に
白い塔が表れた
ゆっくりとその塔を上がる
神官様と将軍様が私を先導する
父と母とはそこで別れた
夕方にはお家に帰って
美味しい夕飯が食べられるのだ
塔の上には
白い大理石の寝台が置かれていた
さあ、そこに寝なさい
頭は向こうに向けて
神官様が優しい声で語りかける
塔に昇る前に飲んだ美味しい飲み物が
ぽかぽかと、ほわほわと心を温める
うん
頷いて寝そべる
お日様のおかげで冷たいはずの大理石は
とても温かかった
おやすみ
ゆっくりとおやすみ
ポンポンとお腹を優しく叩いて
神官様が頭を撫でる
幼子よ、そなたは良き子だ
そして、賢い子だ。
我らを守っておくれ
我らを許しておくれ
さあ眠るのだ
良き子よ
天使様が導いてくれる
天の国に
神様の元に
いや!
叫ぶ!突然気が付いた
母様に会えないのはいや
父様に会えないのはいや
お友達に会えないのはいや
叫び飛び起きようとしたとき
躰が動かないのに気が付いた
叫びは小さなささやきでしか無いのに気が付いた
目がかすみぼんやりとしか見えないのに気が付いた
将軍とおぼしき影の横にもう一つ影が生まれていた
それは細長い光る物を持っていた
そしてそれは私の首に振り落とされた
贄が捧げられた
翌日
この王国は暴走した魔物に蹂躙され亡んだ
先頭で炎を吹きながら突き進む龍の上には
小さな影が微笑んで居たと
生き残った人々は言い伝えた