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魔法使いと杖屋さん  作者: 安井優
第十四章 魔法使いは杖を

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魔法使いと杖屋さん

「僕は、ずっと、魔法がうまく使えなくて……。混碧(こんぺき)で、すべてを失って……。魔法学園でもうまくやれずに、もう、魔法を使うことをあきらめようと思っていました。死のうかとも思ったんですけど、それだけは、しちゃだめだと思って。だから、一人でひっそり、生きていこうって思ってたんです」


 風が吹き、ローレルの髪が揺れる。

「でも、僕……アイリスさんたちを守れて、嬉しかった。誰か一人でもいい。僕はやっぱり、僕の魔法で、困っている人たちを救いたいと思ったんです」


 強くなりたい。そう言ったあの日の少年は、立派な魔法使いとして生まれ変わっていた。

 アイリスの瞳に、強い志を持つ青年の姿が映る。


「だけど、僕はすぐに杖を壊してしまうでしょう? だから、アイリスさんの力を貸して欲しいんです。もちろん、今度はちゃんとお金を払います!」

 ローレルは慌てたように付け加えて、ひと呼吸おくと、だから、と切り出した。

「僕と一緒に、旅をしてくれませんか?」


 輝くエメラルドグリーン。アイリスはそこに、希望を見る。


「……ほんと」

 アイリスはぽつりと言葉をこぼす。

「え?」

「ほんと、最高! ローレル、あなた、きっとこの国一番の……いいえ、世界で一番の魔法使いになるわ。最強の魔法使いが使う杖を、私が作って売るなんて、考えてもみなかった」


「最強の魔法使いになれるかは、わかりませんが……」

 ローレルが少し困ったように頭をかくと、アイリスの瞳がローレルを(とら)えた。

「絶対に、なれるよ! ローレルなら」


 輝くオーシャンブルー。ローレルはそこに、未来を見る。


 アイリスがニコリと微笑む。ふわりと柔らかな髪が揺れ、その美しい一瞬がローレルの瞳に焼き付いた。


 ――何があっても、僕が絶対にアイリスさんを守ります。

 決意のような、覚悟のような。


 呟いた言葉がアイリスに届くことはなく、アイリスは「何か言った?」と首をかしげたが、ローレルは首を軽く横に振って、なんでもないです、と答えた。

 二人は、止めた足を再び踏み出す。

 はじまりの場所――二人の出会った杖屋へ。


 ◇◇◇


 こうして、二人の旅が幕を開ける。

 杖を作り、その杖を売り、困っている人を助けるため世界中を奔走(ほんそう)し、時にはやり過ぎて怒られ、杖を壊し、また杖を作り……。


 魔法警団として国を守るアスターのもとにも、王都で杖を売るシャロンのもとにも、そして、魔物を討伐(とうばつ)しているコルザとガーベラのもとにも。

 いつしかその噂が耳に入る。


『杖を壊す魔法使いと杖屋のちょっと変な二人組がいるらしい。

 でも、その二人に頼めば、どんなことでも絶対に助けてくれるんだって』


 今日もどこかで、一人の魔法使いが、杖をふるう。

 今日もどこかで、一人の魔法使いが、杖を作る。

 ――今日もどこかで、二人の魔法使いは、誰かの笑顔のために、杖を握る。

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[良い点] 43/44 ・いえーい! [気になる点] そして次回が最終回! [一言] 髪が揺れてる
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