戻る日常
杖屋に戻ったアイリスとローレルは、それから丸一日ぐっすりと眠り続けた。
翌日は、魔法警団による事情聴取を受け、まさかの報酬を送られ、ずっしりとしたお金の重みで、あれが現実であったことを思い知らされた。
世間体もある手前、ローレルのことは公にはできない、と魔法警団の男は言ったが、ローレルとしてもそれでよかった。むしろ、ドラゴンを静めるほどの力を持つものがいたと知れたら、どんな騒ぎになるかわからない。ありがたく影の武勲を頂戴し、アイリスとローレルはこのことは互いに、墓までもっていこう、と心に強く決意した。
その後もしばらくは、体力が戻ったように見えて、そうでもなく、一日か二日ほど、お互いに熱を出したり、ぼんやりと家事をしていたら一日が終わってしまったり、というような腑抜けた状態であった。
二人がなんとか人間らしく生活を送れるようになったのは、二週間が過ぎたころだった。
ようやくいつも通りに開店準備をし、杖屋の扉を開けた。
開店と同時に飛び込んできたのは、シャロンの伝書鳩で、目にもとまらぬ速さでアイリスのおでこに直撃する。
「いったぁ……」
アイリスは思わずその伝書鳩を睨みつけた。ローレルも、伝書鳩がシャロンのものだと分かると、苦笑いを浮かべた。
『一体お前はどこをほっつき歩いているんだ! もうあんな少年のことなど放っておけ! 顔を見せろ!』
まったく、なんとも傍若無人な男である。だが、アイリスは今まで、このような、シャロンにとって何の得にもならない手紙を受け取ったことはなく、思わず首を傾げた。
「何これ」
何か裏があるのではないか。顔をしかめて、疑ってしまう。じっと伝書鳩を見つめるも、それはキュルリと愛らしい瞳を向けるばかりで、黙ったままだ。
「もしかしたら、シャロンさんは、アイリスさんが心配だったのかもしれません」
放っておけ、と言われた張本人、ローレルはクスクスと微笑む。ローレルの編入試験の時も、言葉遣いは決して良くはなかったものの、緊張するな、という激励をくれていたような気がする。あの時はローレルもまだ幼かったので、ありえない、と思ってしまったが……。それとも、やはり、ローレルの買い被りすぎだろうか。
「えぇ?! 私が?! どうして!」
目を丸くするアイリスに、ローレルは首を横に振る。どうして、と聞かれてもその理由はわからない。ただ――わかっても教えたくない。なぜか、そんな気持ちがローレルの心の隅に巣くっていた。
「シャロンさんのところへ行ったほうがいいですよね……多分……」
とは言ったものの、ローレルだって行かなくていいならあまり行きたくはない。なんとなく、げんなりとしてしまうのは仕方のないことだった。
だが、魔法学園に入学するまでの間、少しとはいえ面倒を見てもらった相手である。何も言わずにいなくなったのはローレルであり、今更遅いかもしれないが、謝罪は必要だろう、とも思うのだ。
「とってもイヤなんだけど……」
アイリスはローレル以上にげんなりとして見せる。すると、アイリスの手の中におさまっていた伝書鳩が、突如アイリスの指を軽く噛んだので、アイリスはますます顔をしかめた。




