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魔法使いと杖屋さん  作者: 安井優
第十三章 ドラゴン

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終幕

「ひとまず、安全な場所へ降りよう。そろそろ魔法警団も、到着しているはずだ」

 アスターがゆっくりとホウキを旋回(せんかい)させた。真下に、鎮火(ちんか)したばかりの海が見える。黒く(にご)って、深い、深い闇のようにも見えたが、不思議と怖さはなかった。


 終わったのだ……すべて。

 ようやく地上へ着いた頃には、アスターは肩で息をしていた。先に地上へ降りていたコルザとガーベラの足取りも重く、アイリス達はそっと抱きしめあった。


 アスターの姿を見つけた魔法警団の男が駆け寄り、アイリス達を見つめる。その顔には、悔しさと安堵が(にじ)んでいた。アスターは男の肩を軽くたたき、何かを話している。

「後処理は、よろしく頼む。俺は、疲れた……」

「はっ!」

 どうやら、後の始末はやってくれるらしい。いくら、ドラゴンを倒したとはいえ、あたりは流れたマグマや、落石で焼け野原だ。このままにはできない。


「ローレル」

 アスターは、興奮が冷めないのか、ぼんやりとした様子のローレルに声をかける。

「アスターさん……」

 震える声が、彼のそれまでの恐怖や、不安や、そして、安堵を表していた。


「アイリスを頼む。俺は、しばらくここに残って、仕事になりそうだからな」

 隣にいたアイリスは、思わず顔を上げてアスターを見た。

「えっ! 大丈夫です、私なら、一人でも帰れます!」

 強がって見せたが、どうやらお見通しらしい。アスターは軽く笑みを浮かべて、アイリスの頭を優しくなでた。


「アイリス、君は、ローレルをよろしく頼む」

「「えっ!?」」

 アイリスとローレルの驚いた声が重なる。

「二人で帰れ。二人でなら、帰る場所は、いくらでもあるだろう」

 アスターはふっと笑みを浮かべると、魔法警団の人たちのもとへと歩き出していた。


 コルザとガーベラも、一度は帰還(きかん)するようだ。だが、討伐師(とうばつし)として、魔法警団に報告する義務があるらしい。アスターも一緒に同席して、事実関係やら、報酬の確認やらをしなければならない、と肩をすくめた。

「元気でね。二人とも」

「また会おう!」

 コルザとガーベラは大きく手を振って、アイリス達を見送った。


 こうして、結局追い出されるように、二人は山岳(さんがく)地帯を出た。魔法警団の(はか)らいにより、アイリスの店までの馬車も出してもらった。馬車に揺られながら、二人はぼんやりとこの長い旅路に思いを寄せる。時折、ローレルが何かを言いたそうに顔を上げるが、アイリスを見ては、目を伏せた。


「……ローレル、ありがとう」

 ぽつりとアイリスが口を開く。ローレルがハッと目を見開いた。

「あなたのおかげで、私は生きてる……」

 アイリスは、美しいブルーの瞳に涙をためて、くしゃりと笑った。

「……僕だって……! アイリスさんのおかげで……」

 続く言葉は声にならず、ローレルは涙を流した。


 ずっと、一人で生きていければそれでいいと思っていた。一人なら誰かを傷つけることも、失望されることも、そして、誰かを失うこともない。それでいい。それでいいと思っていた。……でも。


「アイリスさんが、生きていてよかった……」

 ローレルの胸のつかえが、とれたような気がした。

 自らの命を救ってくれた恩人。ようやく、その恩を少しだけ返せたような気がした。

 ――これで、僕も胸を張って……魔法使いとして、生きていける。

 窓の外から、一筋の光が差しこんだ。


「ねぇ、アイリスさん。魔法使いに必要なものって、なんだと思いますか」

 店まで、あと少し。馬車がやや速度を落としたところで、ローレルが尋ねた。暇つぶしだろうか。それにしても不思議な質問だ、とアイリスは首をかしげる。

「なぞなぞ?」

「魔法学園の編入試験で聞かれたんです」

「どうして今その話なの?」

 ローレルが、なんとなく、と微笑むと、アイリスは少し考えて口を開く。


「……杖、かな」

 アイリスは、美しく微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 40/40 ・わぁーおめでとうございます。みんないい人でほんのりしました [気になる点] ローレルの筋肉量、岩みたいにゴツゴツ…はさすがにないか。 [一言] 杖ですね。杖はいいものです。…
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