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魔法使いと杖屋さん  作者: 安井優
第十一章 アイリスは、最果ての村に

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最果ての村

 空中戦は二人に任せ、アイリスとアスターは炎に羽を焼かれて墜落(ついらく)した一匹に狙いを定める。

 もはや、杖の材料になるかどうかなど、気にしている暇はない。少しでも隙を見せれば、自分の命はない。


「時間を稼ぐ。アイリスは瞳を狙え」

 アスターはそう言い残すと、魔物へと突っ込んでいった。

「スラッシュ!」

 アスターの杖から放たれた魔法が、魔物の体に小さな傷をつけていく。初級魔法だというのに、その威力は段違いだ。魔物の不規則な動きを軽やかに回避。アスターは続けざまに次の魔法を放つ。

 アイリスもうかうかしてはいられない。動く魔物の瞳に杖先の照準(しょうじゅん)を合わせる。

 怒号(どごう)。砂煙。集中をかかれてはいけない。


 アスターの攻撃に身を(もだ)えさせた魔物の瞳が、カッと赤く見開かれる。アイリスはその瞬間を見逃さなかった。ギリギリまでその瞳に焦点を合わせ――

「我が身に宿りし、聖なる命の根源よ。今、光を束ね、我の前に示せ! ペネトレート!」


 キィンッ

 耳をつんざくような高音が鳴り響き、一閃(いっせん)。矢が風を切り裂くよう。アイリスの杖の先から放たれた魔法が、魔物の瞳を(つらぬ)く。


「天より降り注ぎ、我が(かて)となれ。眠りし者を目覚めさせよ! トーレンシャル!」

 間髪開けず、アスターの詠唱(えいしょう)が続く。直後、あたりの空気がブワリと膨張(ぼうちょう)し、アスターの魔法は、一斉に魔物へと降り注いだ。


 轟音(ごうおん)とともに、土埃が濛々(もうもう)と立ち込める。

 アイリスは小さく呪文をつぶやき、軽く杖でそれらを追い払った。(かすみ)の奥にアスターが見える。

 直後、ズンッと地面に揺れを感じ、アスターの数メートル先の煙が晴れた。どうやら、コルザとガーベラも魔物を倒したらしい。


「あら、アスターそんなところにいたの」

「ぺしゃんこにするところだったな」

 涼し気な顔で二人がほほ笑むと、アスターは引きつった笑みを浮かべた。

「勘弁してくれ」


 コルザとガーベラ(いわ)く、近頃の魔物騒ぎと同じような理由で、活発化したものだろう、とのことだった。大型の魔物は、他の小さな魔物たちに比べて外部の魔力の影響を受けにくいらしい。だが、それも連日、何かから影響を受け続け、耐えきれなくなったのではないか、とコルザは言った。

「本来の活動時間よりも、ずいぶんと早いお目覚めだったからね」

 コルザはそう付け加えると、魔物たちの(とむら)いを簡単に済ませ、「最果ての村へ急ごう」と前を向いた。


 アイリス達が最果ての村へとたどり着いたのは、日も沈み、あたりが闇に染まったころだった。明かりもなく、薄闇の中に、家だったものがかすかに見える。


「これが……最果ての村……」

 まるで混碧(こんぺき)が通り過ぎた後のようだった。崩壊した建物。荒れた土地。踏み荒らされた地面はいびつな凹凸をいくつも作り上げていた。


倒壊(とうかい)の少ない家で休もう」

 コルザは奥に見える、半分ほど屋根のなくなった家を指す。魔物との戦闘で少なからず疲労がたまっている。杖の鑑定以外に中級魔法など滅多に使わないアイリスは特に。アスターも、やはり魔物討伐(とうばつ)には慣れないのか、どこか安堵したような表情を浮かべた。


「ローレルって子が、ここに戻ってきてくれていたら、と思ったけど……。どうやら、そんなことはないみたいね」

 辺りを見回していたガーベラが口を開く。

 アイリスが見た限りでも、最近人がこの村を訪れたような形跡はなかった。すべてが、時を止め、そのまま風化してしまったように見える。今までの場所とは比べ物にならない。


「ローレル……」

 アイリスは目の前に迫る山々を見つめる。

 ところどころには岩肌が見え、緑豊かな山、というよりは自然の厳しい岩山という方がしっくりくる。武骨で、荒く削りだされたような地面。人を寄せ付けまいとそびえる(みね)。頂上にはうっすらと雲がかかっており、もはや、人が簡単に足を踏み入れてよい場所とは思えなかった。

 ドラゴンの噂が立つのも、無理はない。

 ある意味、畏怖(いふ)の対象として、神聖視されるべき存在だった。

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