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魔法使いと杖屋さん  作者: 安井優
第十章 アイリスの旅路

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ガーベラとコルザ

「どうしたの?」

 アイリスの声に、隣で今日の魔物についてガーベラと話していたコルザが反応する。


「アイリスが、この先の山岳(さんがく)地帯へ向かおうとしているらしい」

「山岳地帯に?」

 二人もアスターの言葉に聞き捨てならない、と眉をピクリと動かす。

「悪いことは言わないから、やめておいたほうがいいよ。俺たちみたいな討伐師(とうばつし)ならともかく、山岳地帯の手前にある村なんか、魔物でほとんど壊滅(かいめつ)状態だ」

「今はどうかしらないけど……あの山一帯にいた魔物が村の方へ流れ込んだの」

「それって……」

 コルザとガーベラの言葉にアイリスは思わず口をつぐんだ。二人も、あえて何が、とは言わないが、アイリスと同じようなことを考えている素振りだった。


「とにかく、ローレルがそんな危険なところにいるとも思えないし……。アイリス、君は戻ったほうがいい。ローレルなら、俺たち魔法警団も探しているところだ」

「でも……!」

 アスターに食い下がると、コルザとガーベラは顔を見合わせた。コルザが口を開く。

「アイリスちゃんは、そのローレルってやつを探してるのかい?」

「はい。返さなくちゃいけないものがあって」

 アイリスが杖を見やると、二人も珍しそうにその杖を見つめる。


「へぇ……。こんな杖、見たことないわ。とっても素敵」

「ローレルの、大切な杖なんです」

「そう……。それで、アイリスちゃんはローレルを……」

「はい。でも……皆さんの言う通りですね、ローレルがいるかもわからないのに……」

 アイリスは唇をかみしめ、うつむいた。悔しいが、これ以上は確かに危険なようだ。魔物一匹で疲れてしまうような素人の杖屋が足を踏み込んでいい領域ではない。


「ねぇ、それってどんな人?」

「そうだな、俺たちならこの奥の村にも行ったし、もしかしたらわかるかも。見覚えがなけりゃ、この辺にはいないってことだしさ!」

 遠回しではあるが、諦めろ、ということだ。コルザの言葉に、アイリスも仕方なくうなずく。

 そうだ。ここへ来たのだって、自らが無関係な点と点を、無理やりにつなげたに過ぎない。


「ローレルは、グレーがかった髪に、エメラルドグリーンの瞳で……」

 ゆっくりと言葉を(つむ)ぐアイリスに、二人が顔を見合わせた。


 アイリスがそれを見逃すわけがない。

「何か、心当たりがあるんですか?!」

「えっ! いや、その……あるような~……ないような~……」

「おい、コルザ。どういうことだ」

 アイリスだけでなく、アスターも視線を泳がせたコルザへと身を乗り出す。


「ちょ、ちょっと。落ち着いて」

 もはやコルザの胸ぐらをつかみかからんとするアスターをガーベラが止め、アスターはようやく席につく。コルザは困ったような表情を浮かべ、ガーベラをちらりと見やった。

「コルザ。あなたが言い出したのよ。だいたい、あんなへたくそな演技でだまされるわけがないでしょう」

 ガーベラはぴしゃりと一喝(いっかつ)する。どうやら、ローレルに見覚えがあるらしかった。コルザはしばらく視線をさまよわせた後、深いため息をついた。


「……だって、まさか思わないだろ。どんな偶然が起こったらこうなる」

 じとっとガーベラを見つめるコルザだが、その視線はガーベラに一蹴(いっしゅう)される。

「コルザ。なんでもいい、知ってることがあるなら教えてくれ」

 アスターのせかすような声に、コルザはようやく諦めたのか「わかったよ!」と声を上げた。


「俺とガーベラが、その子を見たのは、もう半年ほど前だ。ちょうどこの先にある村を魔物討伐(とうばつ)で訪れた時。ボロボロの男の子だった。てっきり最初は、魔物にやられた村の生き残りだと思ったんだが……」

「私たちが目を離した隙に、いなくなってた。多分……山岳(さんがく)地帯の方へ行ったんだと思う。足跡が残ってたから」

 コルザが言いよどんだ先をガーベラが補足する。

「それで、追いかけようかと思ったんだけど、あの時は魔物の量もすごくて……仕事をしてたら、それどころじゃなくなった。まさか、あの子一人とは思わなかったし、それにちらっと見かけただけの子を追いかけて身を(ほろ)ぼせるほど、私たちは優しくなかった」

 ガーベラがちらりとアイリスを見やる。皮肉ではなく、どちらかといえば後悔にも似たような、哀愁(あいしゅう)のにじむ視線だった。


「なぜそれを言わない!」

 声を上げたのはアスターだ。アイリスがその声にビクリと肩を揺らすと、コルザとガーベラはそろって声を上げた。

「「アスターは、聞いてこなかった!」」

 二人の勢いに負けたアスターはやや体を後退させ、すまない、と小さく謝る。


「……それで、どうするの?」

「聞いたからには、行く、よなぁ……」

 ガーベラとコルザに視線を向けられたアイリスは、もちろん、とうなずいた。

「危険だぞ?」

 アスターの声は低く、その視線は(するど)い。

「でも……ローレルに、この杖を返さなければならない気がするんです」

 アイリスが顔を上げてきっぱりと言うと、三人は顔を見合わせた。


「よし、決まりだな」

「えぇ」

「俺たちも、山岳地帯へ行こう」

 アイリスは三人を見やる。

「でも、危険なんじゃ……」


「だからこそ、よ! そうと決まれば、明日からさっそく向かいましょ」

 パチン、とガーベラが麗しくウィンクを投げかける。コルザも、そして、アスターも、アイリスを見つめてふっと笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 31/31 ・動きましたね。来週が山場ですね、物理的に。 [気になる点] シャロンのツンが強すぎて、アスターがツンデレだと誤認してしまうという事態に!! [一言] 視線が鋭い……好きです…
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