弔い
ローレルが一晩以上歩き続けて、ようやく抜けた森を、アスターは大きなホウキでひとっ飛びした。
「落ちないようにしっかりつかまっておけよ」
何事かと思っていたが、まさかこれほどとは。
ローレルはたたきつけられるような風圧を体に感じながら必死でアスターにしがみつく。ホウキに乗るのは初めてだが、これほどまでに乗り心地が悪いとは思わなかった。本来、一人乗り用なので、当たり前といえば当たり前なのだが。
柄の部分にしか座れないので心もとないうえ、体を支えるために変な筋肉を使っている気がする。周りの景色でも楽しみたいところだが、目を開ければ、瞳が風で乾燥してしまうので、それすらも許されない。
「こんなことなら、二人乗りにすればよかったな」
アスターが軽く笑う。笑いごとではない、とローレルは口にしたかったが、残念ながらそんな余裕はなかった。
「もうすぐで村だ。そろそろ降下していくから、足元には気を付けろ」
アスターの声が聞こえ、ローレルはやや足を持ち上げる。周りが見えないので注意のしようもないのだが、これくらいはしておいたほうがいいだろう。
ホウキに乗る前に、離着陸の耳抜きについてはアスターがキャンディーをくれたので問題はなかったが、着陸寸前のふわりとした浮遊感には、内臓がひっくり返ってしまったかと思った。
地面に足をつけたローレルは、懐かしい土の感触と、目の前に広がる荒廃した大地に目を見張った。やはり、故郷の村は跡形もなく、瓦礫や倒壊した建物がただそこに残っていただけだった。人も、魔物も、魔法警団によって弔われたのか、その姿はない。ただ、血痕はそこらかしこに残っていた。
「……両親のもとへ行くか」
アスターはバツの悪そうな顔をする。やはり、連れてくるべきではなかったか。呆然と立ち尽くすローレルの肩にそっと手を置く。
「……はい」
ローレルはぎゅっと杖を握る力を強め、変わり果てた村の様子を目に焼き付けるように、ただじっと見つめた。
先ほどまで泣いていた少年の姿はそこにはなく、何かを決意したような強い光を瞳に宿す、大人の顔つきになったローレルがいた。
「お父さん、お母さん……」
ほかの村人と一緒にまとめて建てられた墓標の前で、ローレルは跪く。そっと杖を置き、両親が眠る大地に祈りをささげた。
「どうか……どうか、大地の揺りかごで、永遠に、安らかに」
大人が口にするような祈祷の言葉を紡ぎ、ぎゅっと口を堅く結ぶ。杖を握り、立ち上がる。
ローレルは決して涙を見せなかった。何かに怒りをぶつけるような様子も見せず、さらには、自らの両親や村を壊滅させた魔物にまで手を合わせた。
「ローレル……」
「僕は、もっと強くならなければ……。もう、何も失わないように……。この手で、守りたいものを、守れるように」
アスターを見つめるローレルの瞳は、ゴウゴウと燃えているように見えた。エメラルドグリーンに灯る光は、力に覚えのあるアスターでさえも飲み込んでしまいそうな、ゾッとするほどのエネルギーを秘めていた。
「あぁ、そうだ……。そうだな、ローレル。君はもっと、強く……強くなるんだ」




