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次の日、目の下に隈ができた僕と徹、元気一杯の大空は、三人で首なし騎士と黒マント髑髏の元へと向かった。
筋肉痛か何かで体中が痛い……そんなに運動したっけかなあ? 大空も徹も痛いって言ってるんだけど、なんなんだろ? まさか神様が僕たちの体を作り変えるのを失敗したわけじゃないよね?
一抹の不安を抱きつつも、すぐに大木の根元に辿りつき、僕は首なし騎士と黒ローブ髑髏に声をかける。
「おはようございます」
『よく来た。昨夜の光景を見ても逃げ出さないとは、なかなか肝が据わっているようだね』
『ふははははは! 鍛えがいがありそうではないか!』
黒ローブ骸骨はからからと嗤いながら、首なし騎士は大きく笑い声を上げて、それぞれ嬉しそうに話した。
そんな二人に対して、大空は元気良く挨拶し、徹はびくびくとしながらもなんとか声を絞り出す。
「ちゃーす!」
「お、おはよう、ご、ございます」
『おはよう、童たち。まずは名乗ろうか。私はアレックス、ドロウブラスト王国の魔術師団長だったものだよ』
黒ローブ髑髏のアレックスさんは、挨拶を終えた大空と徹に向けて頷くと、柔らかい口調で自己紹介をした。
一方、首なし騎士のヴィンセントさんは右半身を前に出して両足を広げ、腰を落とす。それから、腰に差している剣をチンと鳴らした。
『ほう……。儂はヴィンセント、セントレア帝国が誇る大将軍、黒鉄騎士団の団長だ』
ヴィンセントさんは、何故か満足そうに大空の方に視線を向け、名乗りを上げた。
今、ヴィンセントさんが何かしたような? それに、二人はこんなに仲良しなのに敵同士だったってこと?
『国はもうなくなっているだろうがね。では、童らの名と天稟を教えてくれるかい?』
僕が不思議に思っていると、アレックスさんは一瞬悲しそうな雰囲気になりつつも、すぐに柔らかい口調に戻り、僕たちにも名乗るように促した。
「僕は優太です。巫師です。よろしくお願いします」
アレックスさんの周りの黒いきらきらが喜んでるのはなんなんだろ?
僕が簡単な挨拶をすると、大空はヴィンセントさんにきらきらした目を向け、興奮したようすで話し出す。
「俺は大空! 武辺者ってやつらしい! おっさん、今のすっげえな!」
『ふははははは! ヒロタカよ、気に入ったぞ!』
ヴィンセントさんは大きな声で笑いながら右手を大空に差し出した。大空はそれに応じ、二人がぐっと力を込めて握手をし始める中、今度は徹が何回か深呼吸をして気合を入れ、アレックスさんに丁寧な口調で挨拶をする。
「俺は徹、魔法家です。……ところで、魔力の圧を弱めていただけないでしょうか」
『ふふふ、すまないね、トール。しかし、三人とも面白い天稟を授かったものだね』
徹は引きつった顔で全身に力を漲らせ、アレックスさんは余裕そうな様子で微笑んでいるように感じる。
ん? 四人のやり取りの意味がさっぱり分かんないんだけど……やっぱり何かやってたってこと? まあ、いっか。そんなことより話を進めないとね。
「ええと……それで、僕たちはどうすれば良いのでしょうか?」
僕が核心を話すように問いかけると、大空とヴィンセントさんは握手を止めてこちらに向き直る。どうやら大空が負けたようで、右手をぷらぷらさせていた。
また、徹とアレックスさんもこちらに体を向ける。なぜか徹は顔を青くし、げっそりと生気を失った顔になっていた。
一方、先程よりも艶々しているように見えるヴィンセントさんとアレックスさんが、僕たち三人に告げる。
『まずは新兵と同じ基礎訓練からだ!』
『体力、魔力量を鍛える訓練だよ。具体的に言えば、長距離走と魔力循環だね』
『それでは走れ! 遅れるとネロアから噛みつかれるぞ!』
ヴィンセントさんの言葉で、ネロアと呼ばれた骨恐竜が起き上がり、後ろ足で地面を掻き始めた。鼻息が荒く、長い舌をしゅるると出すその姿に、僕たちは後ずさりし──
──後ろを向いて全力で走りだした。
「「「うわあああああ!」」」
一番足が遅い徹に合わせつつも、全力で走る僕たちだったが、ネロアは余裕で追い付き並走してくる。そして、少しでも力を抜くと長い舌で僕たちの頬をぺろりと舐めた。
約30分ごとにネロアとの追いかけっこと、魔力循環という自分の体の中でひたすら魔力を動かす訓練を繰り返した僕らは、ようやく休憩を与えられた。
僕は調理をする元気も無く、そのままで食べられるものをテントの中から持ちだすのが精一杯だった。僕は三人分に分けることもせずに、まとめてお盆に盛り、僕たちの中心に置いて座り込む。
「ふう、ご馳走様でした」
「ごっそーさん!」
「優太、すまん。ごちそう……さま……」
僕らは食事をとり一息つく。体力の限界だった徹はフルーツをいくつか摘まむと、すぐに横になってしまい、仰向けに寝転がったまま話している。
僕は食器や残った食べ物を片づけると、大空を誘って徹の両隣りに寝転がる。元々寝不足だったこともあり、瞼を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまっていた。
『ユータ、ヒロ、トール、起きな』
僕たちがすやすやと昼寝をしていると、アレックスさんとヴィンセントさんがやってきて、無情にも休憩の終わりを告げ、僕たちを起こした。
『午後からは個別の訓練だよ。ヒロはヴィンセントと武術、トールは私と魔術の訓練だ』
「えーと、僕は何を?」
アレックスさんは大木の裏手を指差しながら、僕の問いに答える。
『ユータには、あちらにいるものたちを天に還してさせてもらいたい』
僕はアレックスさんに連れられて大木の裏に回る。そこには、たくさんの半透明のおじさんたちが整然と列をなしていた。
僕だけまた給仕なの!? 食べさせるのは魔力だけどさ!