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「マルクス副支部長! 指示を!」
近くにいた兵士さんが焦ったように声を張る。話している間にも、オークの声が近づいてきていた。
ってか、マルクスさん鎮守府軍の副支部長だったんだ。
「くっ、作戦を練り直す時間はないか……。守備隊と戦奴隊は門を守れ! 冒険者にはユーリ教官の指揮で遊撃を頼むと伝えろ!」
「はっ!」
「ドーラ支部隊、出るぞ!」
「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
マルクスさんの短い指示に応え、揃いの装備に身を包んだ兵士さんたちは気勢を上げ、一斉に剣を、槍を、弓を掲げた。マルクスさんを先頭に、一糸乱れぬ足並みで兵士さんたちが外に向かって走っていく。
僕たちもユーリ教官を探さないと、でもその前に……。
「徹、さっきのって本当? 戦争が起きるの?」
「最悪ならな。魔刹がどこまで考えてるなんて知らねえよ。まあ、今回に関してはあっちに義があるだろ」
「義って?」
「オークの住む森を荒らしたのは人だろ? 元々狂ってはいるんだろうが、さらにブチ切れて戦争を吹っ掛けられてもしゃあねえよ。まあ、旅に出る俺らにとっては関係のない話だ」
「そんな……。戦争があるかもしれないのに放っておくの?」
「当然だ。いつ起きるかも分からない戦争全てに関わるつもりなんてない」
徹は肩をすくめ、ひどく冷静な様子でそう言った。僕は、困惑しながら視線を徹から大空に移す。
「大空は? 大空はどう思う?」
「俺らが魔刹を倒せば解決するんじゃん?」
頭の後ろで両手を組んでいた大空はそれがなんでもないことように口を開けて笑った。徹は驚いたように少しだけ目を見開いて、大空をじっと見つめる。
「敵の本丸を落とす作戦はあるのか?」
「突撃して羅刹の首を落とす!」
そんなことだろうと思ったよ!
「はあ……お前に聞いた俺が悪かったよ。それを考えるのは俺らの仕事だな」
「えっ、徹?」
「なんだよ?」
「一緒に考えてくれるの?」
「はあ? 何言ってんだ?」
「協力するのに反対なのかと思ってたけど、違うの?」
「俺は戦争漬けになるのが嫌なだけだ。大体この国に来てから殺伐としすぎなんだよ。師匠たちとの修行から始まって、切った張ったの生活はもう食傷気味なんだよ。だけど、恩もあるし今回の戦いには協力するに決まってんだろ。さっさと片付けて、気分よく旅に出たいんだよ」
なんだ。やっぱり徹は優しいじゃん。言い方が悪いんだよ、まったくもう。
「てめえ、何にやにやしてんだよ」
「いふぁいいふぁい」
「ただいま。……何をやっているの?」
照れた徹から頬を抓られていると、偵察に行ってくれていたクリスさんが影からぬるりと現れ、呆れ顔になっていた。
「クリスさん、おふぁえりなふぁい。ふぉうふぁっふぁ!?」
「かなり分が悪い。私が将なら籠城一択」
「……いたたた。魔刹は?」
「それらしい姿はなかった。でも、高ランクが固まった集団がいたし、そのうちの一つはおそらく上位種。あれ以上近付いたら気付かれそうだったから戻ってきた」
「豚は鼻が利くから、深追いしないのは正解だな」
徹はそう言ってクリスさんの頭をぽんと優しく叩く。お、徹もやっぱり心配してたのかな?
「クリスさん、何か案はない?」
余計なことを考えていて何も思いつかなかった僕がそう尋ねると、クリスさんは目を閉じ、やがてゆっくりと開く。
「……河を下って後ろから襲撃する。でも、私たちだけじゃ手が足りない。数の暴力に擦りつぶされて終わる」
「では、私たちが協力しましょう」
「ユーリ教官!?」
クリスさんの案にいち早く同意したのは、冒険者ギルドのユーリ教官だった。その後ろには、100人以上の冒険者さんたちがずらりと並んでいる。
「冒険者は遊撃を任されましたからね。すべては連れていけませんが、半分の六十名ほどを残して行けば、守備と撤退への手助けくらいはできるでしょう」
「ユーリ教官、ありがとうございます!」
「ブライアンを助けていただいたと聞きました。感謝しているのはこちらですよ」
もう話が伝わってたんだ。でも、逃がしちゃったし、助けたことになるのかな?
「川下へ人を運ぶあてはあるのか?」
「トール君、久しぶりですね。市場に行けば、物資を運ぶための筏がありますよ。商人たちに提供してもらいましょう」
ユーリ教官は冒険者さんたちを選抜し始めたため、僕たちは先に市場へと向かった。市場では商人さんたちが慌ただしく荷造りをしており、その中にはマルコさんの姿もあった。
「マルコさん! 無事でよかったです!」
「おお! お前らも無事だったか! こんなとこにどうしたんだ? 活躍しているお前らなら、前線に出されてるもんだと思ってたんだが?」
マルコさんは両手を大きく広げ、突然駆け寄った僕たちをちょっと大げさに迎えてくれた。
徹は……息が荒いし、ちょっと厳しいかな。
「筏をお借りしたくて来たんですけど、持っていませんか?」
「筏? 何に使うんだ?」
「ぜえ、ぜえ……冒険者五十人でオーク共の背後に回る」
「ほお、それは良いな。俺みたいな行商人は持っていないが、商会の連中は持ってるはずだぞ。ちょっと、一緒に来てくれ!」
息を荒げながら端的に告げた徹の言葉に、マルコさんは納得し、返事も待たずに駆けだした。
「おーい! サンドラ! ちょっと良いか?」
そんなに広くない市場のためすぐに到着し、マルコさんは荷造りをしていたひょろ長い男の人に声をかけた。
「マルコ、こんなときにどうしたんだ? お前と後ろの子たちも筏に乗りたいのか? 同郷のよしみだ、安くしとくぞ」
「そうじゃねえよ。冒険者たちがオークの背後に回るのに筏が必要らしいんだ。お前、用意できないか?」
なんか、二人とも仲良しみたいなんだけど、ちょっとサンドラさんの表情が曇ってるような気が……。
「ふむ……難しいな。荷物を載せる分が足りなくなる」
やっぱり……。でも、そう簡単に諦める訳にもいかないよね。
「あの、どうしても無理ですか?」
「私たちは商人だからね。取引をするには対価が必要だ。例えば、君がにミレイ様に渡した商品の出所……とかね」
「──っ!?」
数枚渡しただけなのに、なんで知ってるの!?
僕が狼狽えて、何も答えられずにいると、徹がすっと前に出てくれた。
「出所って、あれは村から持ってきたものだが?」
「それはないね。あれの素材は、この辺りで取れるものではなかった。あれは、ここよりもずっと北方でしか取れない植物のものなんだよ」
「へえ。そういえば、あれは山の高いところにある植物が材料だと聞いたことがあるな。涼しいから似たような植物があるんじゃないか?」
徹ってば、よくそんな出まかせがすらすら口から出てくるよね。
「……ふむ、そういうことですか。良いでしょう、筏を準備するのでしばしお待ちを」
荷物を筏の上からどけるように指示を出し始めたサンドラさんだったが、僕たちの近くにやってきて、徹の耳元でぼそりと呟く。
「あれは、北方は北方でも火山の火口に自生しているんですよ」
「……てめえ」
「以後、ボーリ商会をよろしくお願いしますね」
睨みつける徹に怯むそぶりも見せず、サンドラさんはにこりと笑っていた。
申し訳ありません。色々と忙しくて遅くなってしまいましたが、投稿を再開いたします。
また、新作の聖女ものも投稿しておりますので、そちらもお楽しみいただけると幸いです。




