2-11
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「わあ、ヒロ、生き生きしてる」
ギルド裏にある訓練場に来た僕は、大空とギルドの教官であるブライアンさんとの仕合いを見ていた。人とは思えないほどの速度で縦横無尽に動き回るヒロに対し、教官はどっしりと構えてヒロが繰り出す斬撃を捌いている。
「なかなかやるニャ~」
「おいおい、ブライアンはギルドの教官だぞ? なんで笑いながら打ち合えてるんだよ」
目をまん丸くさせたバステさんが感嘆の声を漏らし、マルクスさんは信じられないといった表情で二人の試合を見ていた。
「マルクスさんは手合わせしたから、ヒロの実力は知ってたんじゃないですか?」
「強いとは思ったが、あんときはお互い様子見だったからな」
「どっちが勝ったんです?」
「俺だ。と言っても、あいつが尖った石を踏んだ隙をつけただけだがな」
ああ、大空ブーツ履いてなかったもんね……。
そんなことをマルクスさんと話していると、大空を品定めするかのように、最小限しか動いていなかったブライアン教官が大空に向かって叫ぶように問う。
「お主、その剣術はどこで習った!」
「里で師匠にだよ!」
「面白い! 古流の帝国騎士流を研ぎ澄ませたかのような剣術だな! こちらかも行くぞ!」
「そんなの知らねえって! 来いっ!」
教官が動き出したことで、二人の戦いは一気に加速した。剣戟を交しながら言葉も交える二人の動きを追うだけで精一杯だ。
十数合打ち合った後、二人の距離が開く。
「ふははははは! いつかお主の師匠とも手合わせ願いたいものだ!」
ブライアン教官が笑いながら大空へ突っ込み、大空もそれに応じて弾け飛ぶように走り出す。
「今、目の前にいるのは俺だ! るああああああ!」
「ぬうううううん!」
ほぼ同時にされた二人の踏み込みが、地響きとなって伝わる。振り切られた二人の木剣のうち大空のものだけがへし折れ、ブライアン教官の木剣は大空の首筋に当てられていた。
「ちぇっ、俺の負けか」
悔しそうだけど、全力を出せていた大空はどこか晴れやかな顔をしていた。そんな大空に、ブライアン教官は剣を下ろして声をかける。
「惜しかったな」
「やるな、おっさん!」
「小僧もな。次は槍だ」
「負けねえぞっ!」
二人は武器を持ち換えて再度仕合い始めた。僕は派手な戦いを繰り広げている徹の方へと視線を向ける。そこでは、尖った長い耳をもつユーリという教官と徹による色とりどりの精霊が舞い踊る魔術戦が繰り広げられていた。
「【火精霊ヨ、幾多集マリ猛キ炎トナリテ焼キ尽クセ。豪炎】」
「強烈な火力ですが、当たらなければどうということもありませんよ。【風精霊よ、吹き飛ばせ。風爆】」
徹の掌から真っすぐに伸びていく大きな火柱を、ユーリ教官は軽やかな動きで躱した。ユーリ教官の手には薄緑色の風精霊が集まっていて、短い詠唱で透明な何かが放たれる。
「短縮詠唱かよ! 【シールド】」
徹が一瞬で創り出した理術盾で魔術を防ぐと、風が吹き荒れた。僕の目には徹が風魔術に気を取られているうちに、青色の精霊が徹を遠目に囲んでいるのが見えていて、ユーリ教官は涼やかに微笑む。
「理術の発動速度は素晴らしい。では、これはどうしますか? 【氷精霊よ、数多の鋭い針となりて敵を穿て。氷針葬】」
「ちっ! 【ドーム】!」
何百本にもなる氷の針が全方位から徹を襲う。徹は淡い虹色に光る理術盾をドーム状に創り出して受けて立った。理力盾にぶつかった氷の針は砕け散り、太陽の光を反射してきらきらと輝く。
「これは珍しい。共鳴防壁ですか。魔力量に自信がおありのようですが、バランスが悪く共鳴が不十分です。【土精霊ヨ、寄リテ固マリ石トナリ、尚尚集マリ岩トナリ、巨大ナ槌トナリテ圧シ潰セ。巨岩槌】」
「ぬあああああ!?」
ユーリ教官は氷の針で徹を抑え込みつつ、巨大な岩の塊を生み出した。それは徹へ向けて加速しながら落下していく。徹が必死の形相で張った防壁も徐々にひび割れ、ガラス片のように破砕される。巨大な岩が徹を押し潰すかのように見えたその瞬間、岩は細かな砂となって徹に降り注いだ。
砂から這い出た徹がペッと口に入ってしまった砂を吐き出していると、ユーリ教官が透き通った声で告げる。
「想像以上でした。理、火はC、水はDをあげましょう」
「ドームを割られて、想像以上もくそもないだろ」
「魔力消費量の多い共鳴防壁をあれだけ維持するだけでも素晴らしいですよ。それに、限界を見せないために最後はわざと割られましたね? そのまま潰されるとは思わなかったのですか?」
「……ちっ。耐えている間に後ろに下がってたからな。そのまま躱すつもりが、いきなり砂になったから避けそこなったんだよ」
考えを見通されていたらしい徹は、顔を険しくさせながらもちゃんと答えていた。ユーリ教官は何度か頷いてから言葉を重ねる。
「なるほど。良い師に鍛えてもらったようですね。基礎はしっかりしていますから、あとは実践あるのみです。無詠唱は使えるのですか?」
「使えないこともないが、まだ早いと師匠から言われている。少しでも良いから常に纏わせているようにとは言われているけどな」
「本当に良い師に巡り合えたのですね。精霊は全にして一、一にして全。常にともにあり、魔術を行使するときは魔言を使って意思を伝え、精霊との絆をしっかりと深めなさい。冒険者は無詠唱をしたがりますが、絆もないうちの無詠唱など成長を妨げる要因にしかならない」
ユーリ教官はそう言いながら徹の服についていた砂を払ってくれていた。徹はしかめっ面だった表情を戻し、ユーリ教官に尋ねる。
「なあ、聞いてもいいか?」
「なんなりと」
「あんたや、大空とやりあってる筋肉ダルマはどれくらい強いんだ?」
「ブライアンも私もギルドの教官になる前はAランクの冒険者でした。ランクで言うと上から二番目ですね」
「あんたの目から見て、俺らはどれくらいだと思う?」
徹はユーリ教官の目をまっすぐに見て尋ねた。ユーリ教官は、徹、大空、僕の方を順番に見てからゆっくりと答える。
「そうですね。個人ではまだ穴だらけですが、魔術のトール君、武術のヒロ君、私はお会いしていませんがユータ君の契約精霊で優れた斥候のクリスさん、回復等補助に優れたクズハさん。ユータ君が上手くまとめることができれば、Cランク上位からBランク下位の力は発揮できるでしょう」
徹はユーリ教官の言葉に頷き、頭を下げた。ユーリ教官は徹の肩をぽんぽんと優しく叩き、僕の方を向く。
「では、次はユータ君の番ですよ」
え、僕もやるの? 僕、生活魔術くらいしか練習してないよ?
「黒髪小僧はこっちだ!」
さらに、いきなり現れたブライアン教官がすぐそばで叫んだ。徹は、顔を引きつらせて抵抗を試みる。
「……まじかよ。俺は魔術師だぞ。あんたみたいなのを相手にできる訳ないだろ」
「手加減はしてやる! 後で栗毛の坊主もやるからな! がっはっはっは!」
ブライアン教官は、嫌がる徹のマントを掴んで引きずっていった。その先では息を荒くした大空が仰向けに転がっているのが見える。ユーリ教官をちらりと見ると、諦めなさいとでも言うかのような笑顔で首を振っていた。
──この後、僕たちは滅茶苦茶叩きのめされた。
一日だけではありますが、異世界ファンタジー日間ランキングの隅っこに載っていました。ありがとうございます!
今後もお楽しみいただけると幸いです。




