2-10
「俺はヒロ! 天稟は武辺者で、得意武術は剣と槍! 魔術は風と雷が少し! 技能……技能ってなんだ!?」
大空のあほ……。ギフトやスキルを言わなかったのは偉い……いや、偉くない、多分。これ忘れてるか面倒だっただけだよね。はあ……。
僕は心の中でため息をついたのとほぼ同時に、マルクスさんも深いため息を吐く。
「はあああ……ヒロお前、天稟言うなって言っただろうがよ。それに、わかんねえなら先に聞けよ。ったく、技能や特技ってのは、武術や魔術以外の技術のことだ。大まかにいえば戦闘に関係することは技能、戦闘には直接関与しないが旅などで役に立つことは特技だな」
大空はうんうんと頷きながらマルクスさんの話を聞き、再びシュタッと手を上げる。
「んじゃ、気配察知と釣り!」
「ふむふむ、了解ニャ。天稟まで教えてくれてヒロはいい子だニャ~♪ 次は──」
「──俺はトール。武術は杖と短剣。魔術は理、火、水。技能は魔力探知。特技は計算」
バステさんがご機嫌そうにメモを取っていると、徹が食い気味に質問事項に答えた。
「……トールはケチんぼだニャ。ちょっとくらいなら耳を触ってもいいニャよ?」
「うっ……いや、いい」
バステさんは口を尖らせて文句を言ったものの、すぐに表情を変え、上目遣いで頭の上についている猫耳を徹の方に差し出した。徹は面食らったようだったが、なんとか堪えた様子でそっぽを向く。
……もふもふしてるし、ちょっと触ってみたいかも。
「まったくつれないニャ~。どうせマルクスも良い人ぶってるだけで知りたいって思ってるニャ。恩人には優しくした方がいいニャ」
「……じゃあ、おっさんに聞かれたら教えるとするよ」
バステさんの説得に、徹はそっぽを向いたまま答えた。
「俺はまだおっさんじゃねえ! ほらユータ、お前の番だぞ!」
顔をぴくぴくさせながら言うマルクスさんの言葉に、僕はぴしっと背筋を伸ばして答える。
「はい! 僕はユータです。武術は小剣と短弓。魔術は土と精霊術。技能は特にありません! 特技は家事全般です!」
「やっぱり精霊術師だったのニャ~。その頭の上にいる可愛い妖霊種は契約精霊かニャ?」
「はい、そうです。クズハと言います」
僕が頭の方に手をやると、クズハは尻尾を振りながら僕の手に頭をこすりつけた。指先に魔力を集めれば、クズハは嬉しそうに吸い込んでいく。バステさんは、その様子をだらしないほど表情を緩めて見つめていた。
「かああい~ニャ~。クズハは、何ができるのニャ?」
「料理のときに火をつけてくれたり、ちょっとした傷だったら治してくれたり、すばしっこいので偵察とかもしてくれますよ! クズハ、あとは何かできることってある?」
「キューッ」『占いと呪いもできるようになったよっ』
僕が尋ねると、クズハはキューと鳴いて答えてくれる。音はそのまま聞こえるのに、意味が分かるのは未だに不思議。ってか、呪いって……?
「……占いと呪いもできるそうです。えっと、それって、どんなことができるの?」
「キュー──」『ちょっとだけ未来が視えることも──』
「──ちょっと待て。ユータ、お前何してるんだ?」
クズハに詳しく聞こうとしていると、クズハの鳴き声の途中でマルクスさんが割り込んできた。
「へ? 何って、クズハに何ができるのか聞いてますけど」
「お前、人語を喋れない精霊種とも話せるのか!?」
「え、ええ、まあ」
「たまげたニャ。それは書かないでおくニャ」
マルクスさんもバステさんもびっくりしてるし、言っちゃまずかったのかな?
「契約精霊は一体だけなのかニャ?」
「えっと、もう一人一緒にいるんですけど、出て来てくれるかな? クリスさーん」
僕は足先でとんとんと床をノックしてから声をかけた。数秒後、クリスさんが僕の影からぬるりと現れる。
「私はクリス。武術は格闘、小剣、弓。魔術は理、闇。技能は斥候術。以上」
「死霊種のリビングデッド!? ……ユータ、お前、まさかとは思うが、【死者の平原】にいる死神だったりしないよな?」
クリスさんを見るなり、マルクスさんが若干顔を白くさせながら問いかけてきた。
【死者の平原】の死神ってアレックスさんのこと? 師匠だし、仲間でもあるんだけど、正直に言う訳にもいかないよね?
「……ち、違いますよ」
「おい、なんでどもった。……ちょっと手出せ」
マルクスさんは目をすぅーっと細くし、僕の手をぎゅっとつかんだ。
「え、マルクスさん? 目が怖いんですが……ええ!?」
僕が気付かない間に、マルクスさんは空いている手でナイフを抜き打っていた。薄皮一枚、ほんの数ミリの傷からはうっすらと血が滲む。
「キュッ!?」『ご主人!?』
クズハが僕の頭から駆け下り、指先をぺろりと舐めた。それだけで傷はふさがり、跡すらなくなる。マルクスさんはその様子をじっと見つめた後、肩の力を抜く。
「はあああ、ちゃんと生きてたな。びびったぜ──」
「──死にたい?」
マルクスさんが僕の手を解放したその瞬間、マルクスさんの首元にはクリスさんのナイフが突きつけられていた。
『こいつっ!』
さらに、クズハから禍々しい色をしたきらきらが放たれ、マルクスさんの体に入っていった。
えっと……クズハ? まさかとは思うんだけど……?
「……すまん。この村には死霊種にトラウマを持ってるやつも大勢いるから、過敏に反応しちまった」
ナイフを突きつけられているマルクスさんは、クズハがしたことには気付いていないのか、微動だにすることなく理由を説明した。クリスさんは僕の方に視線を向ける。僕が頷くと、クリスさんナイフをゆっくり引いてマルクスさんの背後に立った。
「……痛みもなかったですし、大丈夫です。それより、何かあったんですか?」
マルクスさんは後ろにいるクリスさんをちらちらと気にしながら、重々しい口調で話し始めた。
「南の森で訓練することが多いんだが、あの森の南側で野営をしてると……夜中に出るらしいんだよ」
「出るって、幽霊おじさんがですか?」
「幽霊おじさんって誰だよ。出るのはスケルトン、しかも漆黒のだ」
「……」
僕は無言で視線をクリスさんに向ける。
「さらには、地竜のスケルトンまで出ることもあるらしい」
「……」
目に力を込めてじーっと見つめ続けていると、クリスさんは無表情のまま視線をほんの僅かにそらした。
はあ……。クリスさんもネロアも何やってんのさ……。まあ、訓練なんだろうけど。
「そいつらは執拗に追い回してくる。後ろから、横から、時には先回りして待ち伏せている。冷たい何かで頬を撫でられたり、脅かされることはあっても、相手からは攻撃はしてこない。一晩中追い回されて空が白みだし、精魂が付きかけたころに、カタカタと骨を鳴らして去っていく」
「……」
……マルクスさん、僕たちの仲間がごめんなさい。でも、僕たちも同じようなことされましたから、どうか許してください。
部屋の中が静寂に包まれていたそのとき、ノックもなく背後の扉が開いた。「失礼しまーす」という声とともに入ってくる女性。ビクッと驚いて椅子から立ち上がり、振り向くマルクスさん。マルクスさんの反応に驚く女性。その手にあったお盆とカップが宙を舞い──
「熱っちい!?」
──カップの中身がマルクスさんにかかった。マルクスさんの背後にいたはずのクリスさんをそれとなく探すと、手を振りながら僕の足元の影に沈み込んでいるところだった。
「マルクス様!? す、す、す、すみません!」
「あ、いや、大丈夫だ! こちらこそ驚かせてすまん!」
「ニャはははははっ! マルクス、びっくりしすぎニャ! じゃあ次は、今言ったことがどれくらいできるか確かめに訓練場に行くニャ!」
バステさんは慌てる女性とマルクスさんを見ながら爆笑し、涙を拭きながら勢いよく立ちあがった。マルクスさんは女性に布を借りて体を拭き、僕たちは散らばったカップを拾い集めていると、クズハが僕の耳元で小さく鳴く。
「キュキュッ」『ご主人、やりました!』
……クズハ? あ、呪いってそんな感じなんだね。
どなたかは分からないのですが、誤字報告ありがとうございます!<(_ _*)>




