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戦闘が終わり、僕たちは息絶えたオークを遠巻きに眺めていた。太い首の断面からはだらだたと血が流れ出ている。
「えーと、これどうしよっか?」
「とりあえずテントに入れようぜ」
ここで解体するのは無理だし、徹の言う通りかな。あんまりテントの中に入れたくないんだけど仕方ないよね。
「じゃあ、運ぶか!」
大空は縄でオークの首をぎゅっと縛って止血し、両肩を掴んでずるずると引きずってきた。
「大空、僕も持つから! 【召喚】!」
僕はテントを召喚し、入り口部分をめくって入りやすいようにした。それから、オークの足を持って二人で抱える。
「はあ……じゃあ俺は頭持つわ」
徹は残っている頭部を若干嫌そうに抱えた。そこで僕はあることに気付く。
「徹、あ、あれもお願いね!」
「あれ……? 嫌だよ! クリス! お前が切り落としたんだからお前が持って来いよ!」
徹は大げさに首を振って全力で拒否する。
「私は警戒を続ける。血の匂いに他の魔物が集まってくる前にさっさとして」
クリスさんは切り落とされたイチモツの一部を拾い上げ、徹が持っているオークの頭の上に置いた。
「いいっ!! ってか、臭っ?!」
徹は、しかめっ面を大きくのけ反らせながら、よろよろしながらこちらにやってきた。僕たちはテントに入り、奥にある扉を開ける。扉の先は広い廊下になっており、一番手前の右側には広い冷凍庫がある。
僕のレベルが上がったことで『衣食住』も進化し、随分と様変わりしちゃったから未だに慣れない。ってか、テントの外見と中身が合ってないから違和感がすごい。僕たちの部屋もあるけど、テント部分で雑魚寝してるからほとんど使ってない。唯一、クリスさんは自分の部屋が嬉しかったようで、時々籠ることもあるけど。
冷凍庫の大きな扉を開くと、突き刺すような冷気があふれ出てくる。冷凍庫の中には、大兎、鹿、猪等、ネロアと交換した大量のエモノや大空が釣った魚が凍っている。燻製の仕方はアレックスさんの輜重隊にいた元料理人の幽霊おじさんから習ったけど、ネロアが持ってくるエモノの量が多すぎて結局処理が間に合っていなかった。
僕たちは速く冷やせるようにと、冷凍庫の奥にオークを置いて外に出た。
ああ……寒っ。はあ……早く解体しないとなあ……。
それから僕たちは先を目指したんだけど……とんでもなく大変だった。血が付いた服は燃やして地面に埋めて新しい服に着替えたのに、体にオークの匂いがこびりついているみたいで、匂いに釣られて狼はやってくるわ、熊が出るわ……。
そんなこんなでぼろぼろになりながらも、歩き続けること数日。
「水の匂いだ!」
大空が走り出し、僕たちも続いて走る。もう水浴びのことしか考えていなかった。水で湿らせた布で体を拭いてはいたけど、気持ちが悪くて仕方がなかった。水の匂いって何と思いながらも大空を追って走り続けるとせせらぎの音が聞こえ始め、深い森を抜けて急に視界が広くなる。僕たちの目に映ったのは、緩やかに水が流れる綺麗な河原だった。
「クリスさん、魔物は近くにいる!? 水浴びしていい!?」
僕は焦る気持ちを抑えながらクリスさんに尋ねた。もし尋ねることなく川に入ったとしたら、間違いなくめちゃくちゃ怒られることになるから。
「……魔物はいないから大丈夫。私は影に隠れてる【影潜り】」
クリスさんは晴れた空を見上げながら魔術を行使し、僕の影にぬるりと沈み込んだ。隠れるという言葉にほんの少しのひっかかりを感じつつも、さあ行こうと思ったら、徹から声がかかる。
「優太、着替えてくるからテント出してくれ」
「え~、【召喚】」
河原にぽつんと立っている木の傍にテントを召喚すると、徹がテントの中に入っていった。すると、大空が悪戯そうな顔で提案してくる。
「なあ、【送還】してみようぜ!」
「え? 今? 大丈夫かな?」
「前に釣った魚を桶ごとテントに入れて【送還】したら、生きてる魚だけ残ったじゃん。どうなるのか気になってたんだよ!」
「えー。じゃあ、大空が中に入りなよ」
「お! それもそうだな! じゃあ俺が入ったらよろしく!」
「へ!? ほんとにやるの!?」
「いいぞ!」
大空はテントに入り、頭だけ出してそう言うと頭を引っ込めて入り口を閉じた。
「えええ……ってか、まだ徹入ってるし。どうなってもしらないからね。【送還】」
僕は送還を発動した。テントが消えた後に残ったのは──
「「「ほえ?」」」
──素っ裸の徹と大空だった。
「てめえ、大空! 優太! ふざけんな!」
徹が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「「逃げろーーー!!」」
大空は素っ裸のままこちらにダッシュし、そのまま川に飛び込んだ。僕も装備を脱ぎ散らかしながら急いで川へと向かう。
「優太、テント出せって!! 着替えもタオルもねえんだよ!」
徹が何やら叫んでいたが、ちょうど川に入ったところだったからよく聞こえなかった。まあ言いたいことはわかっていたからテントを召喚しようと口を開きかけたそのとき、徹のさらに向こう側から、若い女性のような甲高い声が響いた。




