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優太の異世界のほほん滞在記〜特殊スキル『衣食住』で、DKトリオは今日も仲良く旅をする〜  作者: まるぽろ
第二章 辺境での冒険者生活〜農民よりも戦士が多い開拓村で一花咲かせます〜
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3/2誤字修正しました。

 草原を歩き始めて数十分後、僕たちが三人横並びで草原を歩いている中、徹が後ろをちらちらと後ろを気にしている。


「なあ、なんで付いてきてるんだ?」


「見送ってくれてるんじゃない?」


 すぐ後ろには、骨恐竜のネロアがのしのし歩いていた。僕が振り返るとネロアは呼ばれたと思ったのか小走りで近寄り、僕と徹の間に頭を伸ばしてくる。

 ネロアの頭を撫でるとひんやりとして気持ちいい。最初は怖かったけど、慣れたら可愛いものだ。……ただ、紫色の舌で顔中を舐めるのは止めてほしい。


「……こいつにも大分しごかれたなあ」


 僕がネロアの顔を押さえて距離を取っていると、徹がネロアの背骨をぺたぺたと触りながら、げんなりした表情と声色で呟いた。


「徹が一番齧られたよね」


「齧るのはともかく、頭を丸ごと咥えるとかありえないだろ」


 その場面を思い出すと今でも笑える。大空とネロアがかけっこを始めてどっかにいっちゃったから、徹が休憩しようぜって言って歩き始めて……いつのまにか戻ってきたネロアに後ろからがぶりとされたんだよね。ばたばたしてた足がぷらーんってなったのには焦っちゃったけど、気絶しただけだったしね。


「徹がサボってるからだろー。あとちょっとで追いつけそうだったのに、急に方向転換するんだもんなー」


 ちょっとむくれたような声の方に目を向けると、大空が頭の後ろで両手を組んで口を尖らせていた。


 ……恐竜にかけっこでついていけるってだけで十分じゃないかな?


 ここ数か月の修行の日々で起きたことを話しながら歩いていると、あっという間に時間が経っていた。振り返ってみても、アレックスさんとヴィンセントさんがたちがいる大木はもう見えない。僕は少しだけ熱くなった目頭を押さえて歩き続ける。横にいるネロアが紫色の舌でべろりと僕の頬を舐めてくれた。


 ネロア、ありがと。……でも、気持ちだけで十分です。

 

 それからも、僕たちはこの数か月のことを話しながら歩き続けた。夕方前にはクリスさんが僕の中から出て来て、一般的な野営の方法を教えてくれた。野営に適した場所、夜の見張りの仕方等々、武術や魔術の訓練に明け暮れていた僕たちが知らなかったことを一つ一つ丁寧に教えてくれた。


     ◆


 三日後の昼過ぎ、クリスさんの説明通りに僕たちは森の手前までたどり着いた。


「今日はここで野営にしよっか」


 このまま森に入ることも考えたけど、僕は一旦ここで休むことを提案する。


「ああ、そうしよう」


「腹減ったしな! 薪拾ってくる!」


 徹は腰を下ろしてストレッチを始め、大空は荷物を投げおいて駆けて行った。


 やっぱり徹は結構疲れてるみたい。レベルアップのおかげで僕はそこまで疲れてないけど、体力の伸びが悪い徹はきついと思ってたんだよ。まったく、意地っ張りなんだから。それと、大空はお昼食べてからまだ3時間くらいしか経ってないからね?


 僕がぷくりと頬を膨らましながら徹を見ていると、クリスさんがぬるりと僕の影から出てくる。


「ユータにしては良い判断。夜中の見張りは私がする。食事を取って早く寝る」


「交代でするんじゃないの?」


 今まではクリスさんと一緒に三人交代で見張りをしてたんだけど、良いのかな?


「森を歩くのはユータたちが思っている以上に気力と体力を消耗する。今日はしなくていい」


「そっか、クリスさんありがとう。よろしくお願いします」


 クリスさんって無表情だし、修行の時はすっごく厳しかったけど、やっぱり優しいよね。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな?

 

 僕がそんなことを考えながら下げていた頭を上げると、クリスさんは大空が走っていった方を見つめながら、小さなため息をついて呟く。


「この森には魔物がいる。ユータとトールがテントから離れるときは気をつけて」


 ……うちの大空が心配をかけてごめんなさい。



 僕はテントの中でウカテナ商店を召喚し、ウイスキーが入った大樽を購入する。ウカテナ様から持ち上げられるか心配されたけど、ぐっと腰に力を込めると意外なほどすんなりと持ち上がった。


 僕はよっこらよっこらテントの外に運び出し、ネロアの目の前にどすんと置く。


「ネロア、お見送りありがとね。これ受け取ってくれる?」


『エモノ、トッテ、クル』


 鼻息を荒くして立ち上がるネロア。僕は、ネロアの鼻先に触れて引き留める。


「獲物は良いよ。これは今までお世話になったお礼だから、受け取って?」


『オレイ?』


「うん。だからアレックスさんとヴィンセントさんにも見せて、三人で仲良く分けてくれないかな?」


『グル……ワカッタ。スコシ、マツ』


 ネロアはそう言って、僕の顔を舐めてから徹の頭を甘噛みした。樽を置いてどこかに駆けていったと思ったら大空を咥えて戻り、僕たち三人ととクリスさんに頭をこすりつける。


『マタ ネ』


 ネロアは大樽を咥えて軽々と持ち上げ、踵を返して走り始めた。なぜかクラウチングスタートの姿勢を取っていた大空が追いかけていったが、ぐんぐん加速していくネロアの姿はあっという間に小さくなり、すぐに見えなくなる。


 「次は負けないからなーーーー!」という大空の叫びが、だだっ広い平原に響いた。


     ◆


 次の日、僕たちは鬱蒼とした森に入った。


 起伏がないから歩きにくくはないけど、平原よりかなり暗くて視界が悪い。日本の森を三人で歩くのははあんなに楽しかったのに、この世界の森はどこか不気味で……怖い。


 森の入り口が遠ざかるにつれ、その恐怖は強くなっていた。

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