第6話「悪魔払い」
仮想敵と国境で事件を起こした場合、現場指揮官同士で情報を交換し穏便にすませるよう『士官外交』をすることは珍しくない。だがそれでも、戦時で、戦場でその外交がなされるのは稀だ。「母ちゃんも、こないだのゲリラに思うところがあったのかも」「人間じゃなくてバケモンだったからな」滑走路防衛隊とゲリラとの死闘から一夜明けて、一時休戦の使者が現れた。遺跡で何が起きているのか確認しようと、また封じ込めの為になんやかんやしようという交渉だ。昴にとっては、敵が憎くて飛んでいるわけではないので、特に感じるものはなかった。ただ、「珍しいね、未央ちゃん」程度だ。
「何読んでるの?」と昴が訊くと「コモンウエルスの人たちから貰った」と未央は答えた。昴は覗いたが、それは英文で「うへー!」と眉をしかめた。未央はそんな昴に苦笑しながら「バケモンが“何か”の報告、かな」未央が言うが昴の目には黒い塊にしか見えない。「コモンウエルスの連中は、遺跡の中核を見つけました。熱ドリルで掘って、縦坑を見つけて、中枢の動力炉らしきものを見つけました。研究は順調、でも三日前に突然機能停止していた動力炉が動いて、兵隊や研究者が怪物に変わりました。めでたしめでたし」「めでたくない……」つまりそれは、眠っていた遺跡が目覚めて悪い影響を出しているという話だ。「三日前か」と昴はふと、花を持つ妖精のミーティアに襲撃されてその後遺跡を撮影した日であることを思い出す。「遺跡について何も知らないんだよね」「学者様がたの話だと、異星文明の可能性があるそうだよ」「楽しい贈り物ってわけじゃなさそー」「置き土産の爆弾かもね」「笑えないっス、未央ちゃん」
「何はともあれ」と未央は遺跡の血が入る四式戦闘機に掌を添え「遺跡に意思があるなら、昴や私たちが侵入者になってる。侵入者は排斥しようとされるものだよね」遺跡は蜂の巣だ。昴はあちこちの発掘施設で暴動が発生している話を耳にしていた。昨夜の滑走路襲撃の件を考えたら、暴動、とは違うだろう。非常事態の手順はあった。全発掘施設から引き上げ、島から撤退後、艦砲射撃で遺跡の痕跡を跡形もなく消す。敵に渡らないことを優先すれば良いことになっていた。「艦砲は軽すぎるかも。コモンウエルスのレポートだと、遺跡は植物の根みたいに島に根差してる。島ごと破壊しないと遺跡はほぼ残りそう」「例の新型爆弾でも落とすっスか」「核兵器?さぁ、それもまだ威力不足かな」「無傷のまま島を捨てるのは許されないかもよ」未央はそこでニヤリと笑い「そこでコモンウエルスは共闘を持ち込んだんだろうね。遺跡の動力炉を破壊して島そのものを消滅させよう、て壮大な作戦の協力の為に」