カルテID#002 帆ノ風ヒロさま(5)
«術後1日目»
「帆ノ風さま、おはようございます」
「おはようございます」
朝の看護師回診で病室でのこと。
「帆ノ風さま、食事は朝食からでお粥から開始しますね」
「お粥ですか」
「全身麻酔で手術してますからね。明日の朝から元のお食事になります」
「わかりました」
「少し予定をお伝えしても良いですか?」
「お願いします」
「明日までは抗生物質の点滴を行いますね。今日は、血液検査とレントゲン検査を行いますね。離床前に血栓確認のため下肢エコーしますね。痛みが強いときにはお薬を使いますね。トイレは管が入っていますのでベッド安静でお願いします。午後から、理学療法士よりリハビリについて説明があります」
「ねぇねぇ、この管っていつまで?」
「明日には外れますよ。離床と車椅子移動できるようになりますから」
「そうですか。意外にスパルタなんですね」
「昔は数日はベッドで安静に。が基本だったみたいですけどね」
そんな会話をしていたら、食事の配膳が始まっていて帆ノ風さまの朝食が運ばれてきた。
「帆ノ風さま、朝食です」
トレイを受け取り帆ノ風さまの前のサイドテーブルに乗せてセットする。
「ゆっくり召し上がってくださいね」
ふたを開けて中を見た帆ノ風さま。
「わっ、本当にお粥ですね」
「冗談なんて言いませんよ」
「朝からお粥かぁ」
「お昼もですけどね」
「マジでかぁ」
「帆ノ風さま」
「いいお知らせですか?」
「残念ながら……」
「まさか」
「はい。夜もお粥です」
「やっぱり」
「明日の朝から普通食の予定です」
「予定なの?」
「胃がお粥を受け付けなかったり、腹痛を起こしたりしたら普通食は延期です」
「えぇ~~」
お粥の話題で盛り上がっていた。帆ノ風さまの様子を見る限りでは点滴に混ぜてある痛み止めが効いているようで痛みはないようである事がわかる。
大石ドクターの回診も異常なく順調にいっているとのことだった。
「帆ノ風さん、順調ですね。このあと血液検査をして午後からレントゲン撮影をします」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
大石ドクターが病室をあとにする。
「それでは採血の準備してきますね」
「ねぇ、よつ葉ちゃん」
「はい?」
「採血経験は?」
「昨日、指導看護師さんの腕で試験があって合格したので患者様に行える許可出ました」
「って言うことは?」
「帆ノ風さまが記念すべき第一号患者様です」
「マジかぁ!」
採血の準備を整えて島指導看護師と共に病室に向かい採血を行う。
「帆ノ風さま、採血をさせていただきますね」
「痛くしないでくださいね」
「頑張ります」
「いやいや、頑張って痛みは無くせるの?」
そんな会話を聞いて島指導看護師が一言呟く
「注射の手技は得意不得意がありますからね」
その言葉に帆ノ風さまが反応する。
「よつ葉ちゃんは得意なのかなぁ?」
「注射されるのは好きじゃないですけど、注射するのは好きですよ!」
「って、ドSかぁ~~」
そんな会話をしている間に準備を終える。
リストバンドと検体ラベルをスキャンし間違いがないか照合する。必要事項を帆ノ風さまに確認をする。採血ホルダーに採血針を取り付ける。
「始めますね」
「痛くしないでくださいね」
「頑張ります」
駆血帯を腕に巻いて、帆ノ風さまに親指を中にして握ってもらい血管を怒張させて穿刺する血管を目立たせる。穿刺部分を消毒用アルコール綿で消毒し乾燥させる。採血針のキャップを外し切り口を上に向けて20度以下の角度で血管の走行に沿って刺入する。血液が逆流してきたら針を進め固定する。痺れが無いか確認をする。駆血帯を外し必要量の採血後、アルコール綿花で押さえて針を抜き圧迫止血する。抜針部位に保護テープを貼って圧迫止血を5分程度行うよう伝える。
「終わりました。お疲れ様でした」
「もっと痛いかと思ったけど大丈夫だった」
「ありがとうございます」
島指導看護師が、一言付け加えると帆ノ風さまが思っていることを話していた。
「この子、針を刺すときに迷いなく刺すから」
「確かにモタモタされてたら腕を引っ込めたくなりますから」
「ですよね」
「よつ葉ちゃんは、ドSかぁ~~」
帆ノ風さまと島指導看護師と何やら、よつ葉に聞こえるよう話をしているような気さえしてくる。ドSじゃないもん。痛いのが嫌なだけだもん。心の中で言い返す。
帆ノ風さまで、よつ葉は採血デビューを果たせた。
第6話(最終話)に続きます。




