カルテID#001 小林汐希さま(3)
「採血の検査次第で退院を考えましょうか」
今朝の回診のときに藍沢医師が伝えた言葉。
「ありがとうございます」
「お大事に」
藍沢医師が病室を後にする。
(……採血かぁ) 心の中で呟く。
「良かったですね」
「皆さんのおかげです」
「いえ、小林様が頑張られたんですよ」
「採血、菜須さんがしてくれるのかな?」
「えっ?」
「だから採血してくれるんでしょ?」
「……も…もちろん……否、どうでしょう?」
不思議そうな顔をして見てくる小林様の視線に気づかないふりをして
「採血の準備してきますね」
そう伝えて逃げるようにして病室を後にしてナースステーションに戻った。そして島指導看護師に小林様の採血を依頼する。
「そろそろ採血デビューしなくちゃね」
「えっ?」
トレイの中には採血に使うキットが全て揃っていてそれをよつ葉に渡しながら
「私で採血して合格点取れたら、小林様の採血を任せるわ」
そう言いながら腕を出してきた島指導看護師。
この、なろう大学附属病院の新人看護師は指導看護師に直接採血をしての実技試験を受ける。そして合格した者だけが患者様に処置が施せる。
深呼吸をして気合いを入れる。
「菜須さん、そんなに緊張しないでよ~」
「あらっ、島さん? 採血怖いのかしら?」
話に加わってきた病棟看護師長。
「いえっ、大丈夫ですけど」
島指導看護師の言葉に
「だ、そうよ。菜須さん。思いっきりやってごらんなさい」
病棟看護師長の言葉に肩の力が抜けて行くのがわかった。採血しやすいように必要物品を配置する
島指導看護師の状態を確認し穿刺する静脈を決める 。血管の走行を観察し、できるだけまっすぐな血管を選び触診し、血管の弾力、血管が逃げるかなど感触を確認する 。
ナースステーションにいる看護師全員が、よつ葉の採血を息を殺しながら見ている。
穿刺部位から7~10㎝程度中枢側を駆血する。
長時間駆血することによるうっ血で、検査結果に影響がでる危険があるので1分以内にするよう心がける。親指を中にして軽く握ってもらう 。
「親指を中にして握ってくださいね」
「わかってるわよ」
「島さん、そこは【はい】でしょう?」
病棟看護師長がツッコミを入れるけど、それを相手している余裕はない。アルコール過敏症の有無を確認し、アルコール過敏症の患者には他の消毒を使う 。
アルコール綿等で穿刺部を中心から円を描くように消毒する 。静脈を固定するために、穿刺時に下側の皮膚を少し手前に引いて静脈の走行に沿って、30度以下の角度で穿刺する 。
「痺れたり気分が悪いなど無いですか?」
「無いわよ」
針先が動かないようにしっかりと固定する 。静脈内に穿刺し、検査に必要な採血量を確保する 。
駆血帯を外して握っていた手を開いてもらい力を抜いて楽にしてもらう 。
「手をひらいて楽にしてくださいね」
「はい」
抜針し、穿刺部位を圧迫する 。抜針後は5分程度圧迫止血 。島指導看護師に止血用テープを貼り、使用した針はリキャップせず、廃棄物処理容器に入れて採血の試験を終えた。
「うん、合格。小林様の採血は任せるわ」
「はい。ありがとうございます」
「さぁ、準備をして行きましょうか」
「はい」
採血に必要な物をトレイにのせて島指導看護師とふたりで小林様の病室に向かった。
「失礼します」
「はい、どうぞ」
「小林様、採血させてもらっても良いですか?」
「お願いします」
島指導看護師に見守られ、小林様の採血の準備を進めていく。島指導看護師の時と変わらず、スムーズに進めていく。
「アレルギーとかありませんか?」
「無いですよ」
アルコール綿で穿刺部を中心から円を描くように消毒する 。静脈の走行に沿って、30度以下の角度で穿刺する 。
「痺れたり気分が悪いなど無いですか?」
「大丈夫です」
針先が動かないようにしっかりと固定して検査に必要な採血量を確保する 。駆血帯を外して握っていた手を開いてもらい力を抜いて楽にしてもらう 。
「手をひらいて楽にしてくださいね」
「はい」
抜針し、穿刺部位を圧迫する 。止血用テープ貼って5分程度圧迫止血してもらうよう伝える。
「お疲れさまでした。5分程度押さえててくださいね」
「はい。ありがとう」
無事に採血をすることができてホッとしているのを顔に出さず処置を終えたよつ葉の後ろで島指導看護師が笑いを堪えているのに気づかずよつ葉はナースステーションへ戻る。
◇◆◇◆◇
検査結果は良好で退院が決まり藍沢医師から小林様に伝えられた。
「退院おめでとうございます」
「ありがとうございました」
「拙い看護で申し訳ありませんでした」
「一生懸命してくださいましたよ」
「退院されて直ぐは無理をしないようにしてくださいね」
「はい、気をつけます」
外来通院から入院となった小林様ですが、無事に退院までお世話することができました。色々自信をつけさせてもらえた経験でした。
退院おめでとうございます。
患者役を快諾していただき本当にありがとうございました。




