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第16話 

修羅場2ではなかったね。ダメだタイトル思いつかねえ。


 神は言った 我は我の似姿に子らを造ったと 

 耳は風を聞き逃さぬように長く 

 髪の色はもっとも価値ある黄金で 

 瞳は美しく煌めく空の色 

 この世で最も美しくなるように造ったのだと

 神は言った 我が子らよ

 生めよ 増えよ 地に満ちよ 

 おお 汝ら 我が子らよ 

 世界に 争いなく 息災で この 楽園 約束された地で 平和に 息をするのだ

 誰もが 汝を 憎んではおらぬ 恨んではおらぬ 

 誰かを 汝は 妬んではいかぬ 僻んではいかぬ

 ゆえ 汝ら 我が子らよ 

 光あれ

 幸あれ

 あれかし



 ところで、楽しく修羅場を繰り広げていたのは彼の庭である。専属の庭師がいつも草花の世話をしていて、それも一人や二人ではないのだ。

 館はほとんど城で飾り気がなく、無骨なのに対し庭は豪華絢爛そのものだ。貴族の庭園に相応しい。

 茶会をしているのは館の裏側、城のすぐ近くでテーブルと椅子が数人分置いてある。元々、ここは夫婦でしか座らないので数はいらない。城の前の方の庭はというと、白い砂が敷かれている。たまに赤いのが混じっている。ハルトの私兵――剣闘士仲間の訓練場として機能している。赤いのはもちろん血だ。

「……とまあ、これはエルフに口伝で残ってきた一応神話、ですかね」

 珍しくというよりも初めてリリアナの挑発に乗ったユーリアであったがあれ以降は反応がなく仕方がないのでエルフ種族の講義となった。同盟を組もうとしているのだから知っていて当然だろうという判断だ。

 まずは種族の成り立ちとも言える神話から。

 エルフの血統自体はレドアスターの王族に流れている。だからまあ、エルフの奴隷はすぐに自由の身として扱われる。が、それは当然建前だ。人間社会の中で働けるわけがなく逃げることは人目につくのでまず不可能。となれば買われた主に仕えるしかない、というわけだ。

 いくら王族と同じ血を引いているからと言って大事大事にするわけがない。

 王族とエルフは全く違うのだから。人間と、エルフは違う。

「神話でしょうね、短いけれど。エルフの聖書の言葉?」

「いいえ、これで全部です。これで終わりです」

「口伝だから短くなった?」

「違うかと、寿命が長いので途中でどこか損なった可能性は低いでしょう」

 ではどうしてこんなにも神話が短いのか。

「それで足りたんです。人間は本になるくらいでやっとそこそこだ。彼らエルフは完璧だ。見た目は良い、争わず、決して不義理はない」

「でも弱い?」

「ですねえ、神話通りであればエルフの神は争わない。争いを知らない。神の似姿として造られがた故に争いを想定していないのかと――神々が本当におわすと仮定すればだが」

 彼は妻が用意した珈琲を一口飲んでパイを一切れ口に放り込んだ。何回か租借して、また飲んだ。

 ライラはいつになったら喋るんだと暇になりなんとなく目の前に置かれたカップの液体を口に含んだ。

「ッ!?」

「吹き出さないだけマシですかね――悪戯するんじゃない、リリィ」

 爪を研ぐ場所を間違えた子猫を叱るような調子だ。

「あら、ごめんなさい」

 くすくすと彼女は笑う。王女様はキッと睨むとパイを三切れ一気に口へと投げ込んだ。

 もぐもぐと可愛らしく口を動かすと。

「――苦い!」

「砂糖は入れましたよ?ミルクも」

 にこやかに、あくまで穏やかに奥方は反論を行った。

「そういう問題じゃないんだろうさ」

 ずずっとハルトは珈琲を啜る。かなり美味いのだ。戦場で作ったからといって水割りのような薄味か深煎りと称した苦み走ったインスタントよりも千倍は美味い。

「何これ!?」

 ちなみにライラ王女専属メイドのルシアは密かに珈琲が飲めることを勝ち誇っていた。砂糖とミルクマシマシでやっとこさ飲める程度でしかないが。

「珈琲知りません?」

「ああ、あれ?知ってる」

 最近流行り出したのだ。何故だか貴族の男がこぞって飲み出しているのでよく売れるから流通も多くなっている。

「苦さというか、独特の味がなかなか良い物でして――と、話を戻しましょう。争いなくエルフは生きていた。そこに人間が加わった。我らは傲慢で欲深い、人間だ。効率の良い殺し方を求めた人間にとっちゃエルフとの戦争なんてめちゃくちゃ簡単ですからね。弱すぎて話になりません。男が弱すぎて皆殺しにしたいくらい気概がない。タマなし共が……」

「そのエルフ嫌いなんとかならない?」

「なりません。同盟と言っても従えと一言だけ伝えるだけでにしましょうよ。従属関係で良いでしょうよ」

「ダメ。いつか本当に対等にするためにもね」

「じゃあ、男だけ下で」

「不平等すぎるでしょう……」

「……自分で同盟提案しといて何ですがエルフ本当むかつく殺すぞあいつら」

「何があったのよ、そもそも」

「んー、一度だけ領内に近いエルフの村から反乱がありまして、兄弟連れて20人くらいで事に当たりました。戦闘になった以上、男も女もないですから切り捨てようとしたんですが……前線に出てきたのが女しかいなかったんでこりゃおかしいと生け捕りにして話を聞きました」

「かなり話逸れちゃったけどそれで?」

「いやあ、女なら殺されないで最悪奴隷で済むだろうって……判断で、その案が男衆から出たってのが。それも女が受け入れるのがおかしい」

「受け入れる理由は?」

「前にも言った通り男女差がない。力に差がないですからね、なら生存する確率が高い女が良いと理屈は分かるんですけど。――頭に来て男の首は皆刎ねたんで凄い反感買ってると思いますよ」

「……――どうする気よ」

「兄弟全員連れて行けば首は横には振れないでしょう」

「――いやァ?耳長共が横も縦も嫌だとしたって、首をくるくる回すこたァできるだろうよ、兄弟。首を飛ばせばな! ハッ!」

 呂律が碌に回っていない舌をしている金髪碧眼の筋骨隆々とした男だった。髪は短くもなければ長くくもないが、髭はずいぶんと手が入っていないようであった。

「よお兄弟、戻ったか。で、どうだったんだ?賊の退治に出たとは聞いたが」

「数は五十の夜盗か、ありゃ」

「なるほど、こちらも百人ほど山賊が出た」

「はァん、あれだな俺の愛しい祖国様の仕業かなこりゃ」

 訛りがところどころにあるとライラは感じていた。ベルンハルト人だと根拠のない自信からそう考え、訛りが強いとも思った。

「ベルンハルトか?……そう考えると数の多さは納得行くか、輸送の方法は?」

「さぁなァ、大人数だとしても誰も目に留めない。なんだろうな?」

「少しは考えろよ。ああ、そうか。姫はどう思います?」

 突然どう思うと聞かれて、え?と聞き返してしまったことにライラは後悔してすぐに手のひらをハルトに向けて黙ってとジェスチャーを送った。

「んっと、あー、えー?あ!」

 目線を空へ向けたり地面に向けたり誰かを見たり、忙しなく瞳を動かして漸く答えに至ったようだ。

「奴隷商人?」

「正解。本来は違法ですが守られていない法がこの国には数多くある」

 奴隷商人、奴隷を売買する者達。レドアスター国内では違法ではあるが、誰も守っていないし取り締まられてもいない。例えると車のスピード違反であろうか、50キロが制限速度だとすると通常60キロ前後で走行している――本来は違反であるが当然警察は捕まえない。

 屋敷の裏口から泡食ったように一人のメイドが飛び出してきた。急いできたというよりも混乱しているような。

「だ、旦那様!奴隷商人の方が御用だとかで……」

「何?分かった。前庭の方だな?」

「はい。失礼します」

 一礼すると慌てて下がっていった。

「リリィは待っててくれ。ユーリア、ルシアはここにいろ。姫は来て下さい。アウグスト、お前も来い」

 靴音を立てながらやや早歩きで屋敷の中を最短距離で行く。ハルトの顔には強い不快感が浮かんでいた。

「やあや、貴方様がこの城の主で?」

「如何にも、ハルト・ギルデウスである」

 白い砂が眩しいまるで南の砂浜を彷彿とさせる場所であった。むさ苦しい男達が半裸であちらこちらに立っていなければ砂浜その物だったろう。男によっては屋敷の他にある宿舎のベランダから見下ろしている者もいた。用心棒に囲まれた奴隷商人はとにかく兄弟の注目を集めていた。

「私はノエリオン人のルキウス・ポエテリウスと申します」

 ゆったりとしたノエリオン式の服装に身を包んでいる男が軽く頭を下げた。

「それで?何の用だ」

「奴隷が入り用だとそこの友人から聞きましたゆえに」

 目線の先を見るとテオドールが話しかけてきた。

〈こいつ、君がよく知っている人物の兄弟だぞ。聞いてみろ〉

〈俺の?〉

 一体何のことだと思いを巡らせ、すぐに分かった。ノエリオンでよく知っている人物は少ないのだから。

「なるほど、確かにその友人は俺の友人でもあり全くその通り。必要だ」

 話を合わせる。いきなり逆上するという選択肢もあった。奴隷が必要かと言われればいますぐに解放したいくらいだ。

「ところで、兄弟にクラウディスという男はいるか?」

「は?ええ、いますが」

「奴隷商人だな?」

「はい」

「よし、ガイウス養成所に売ったノエリオンの王者、ハルティウスを知っているか?」

「……反逆者です」

 手をくるりと返し、手首を見せつける。Gという焼き印がくっきりと皮膚に浮かんでいた。それを見るとルキウスは青くなってついには白くなってしまった。

「俺がそうだ。お前の兄弟のお陰で俺は奴隷にされ、鞭打たれ、戦わせられた。兄弟の犯した罪を贖って貰おう」

「あ、ああっ――殺せ!早く!」

「兄弟!」

 一言ハルトが叫ぶとろくに武装もしていない兄弟達が瞬く間に用心棒をあの世へと送った。

「さて、殺す前に聞くことがある。お前がベルンハルトから俺の領土に賊を入れたのか?」


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