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プロローグ

こんにちは。

「ああ、くそ。……最後の一本だってのに」

 ひゅんと銃弾が飛んできて最後――最期の煙草を奪っていった。半分ほどの長さになった煙草を吐き出し、ついでに血も吐き出してしまった。

 撃ってきた敵に撃ち返して撃ち殺す。

「人生で一番厄介だな。まあ、多分……」

 終わったな、と独りごちた。

 ここはどこかの小国。聞いたことさえないような国。そんな異国の地で、日本人の彼は死の覚悟を固めていた。

 この地区で小競り合いがあった。彼もその渦中にいた。渦中、というか彼が中心か。

 壁の向こう側から怒鳴り声とうるさい銃声が聞こえた。

「そんじゃまあ、皆で仲良く死のうかね」

 彼がいる場所はこの国にしては高い方の建物の中。もうすでに包囲されており、すぐそこには敵。階下にも敵。外にも敵。

 ――とまあ、詰んだ状況だ。

 だが、これが狙いだった。敵の過半数がこの建物内におり、皆殺しにできれば戦争は勝ったも同然。元々敵の数自体が少ないのだから。

 人数としては百人程度。この程度なら、普段の彼ならなんとか切り抜けることができた。

 腹に数発食らっている状況では、とてもではないが無理だ。彼は常に最悪の状況を想定する。だから一階に大量のC4を仕掛けていて、自らを囮にして敵部隊をおびき寄せることは簡単だった。

 後は、彼の手に握られているスイッチを押せば爆発する。その前に一服と洒落込もうとしたところにあの銃撃だ。

 もう全身に力が入らず、壁にもたれかかって休んでいたところにあの一発だ。

「あー、もう最悪だ。これだから神様は信じてないんだ。末期の酒ならぬ末期の煙草くれー吸わせてくれよ」

 本当は酒でも良いんだけどさ、と呟いて。

 ゆっくりと、親指に力を入れた。



 

 彼が最期に見たのは、ほこりだらけ部屋から見えた暖かな太陽だった。

 




 ――彼の意識は、最初に沈んだり浮かんだりを繰り返した。

 もちろん縦軸と横軸が明確に存在しているわけではない。ただ、なんとなく彼はそう思っただけだ。


 何か(・・)を通り抜けた。

 何か(・・)と混ざった。

 何か(・・)に成った。


 そして――彼は微睡みから目が覚める。

「………………」

 周りを見回してみるとどこかの部屋だ。見覚えがないと思ったら、すぐにあったことを思い出す。

 デジャブ、これが一番近い表現だろう。

「……はぁ。なんで人生をコンティニューせにゃならんのだ」

 といって、ため息一つ。

 前世での死に様はなかなか気に入っていたのでまだ生を繰り返すと言うことに少しうんざりした。

「にしても、ガキくせえ声してんなぁ。――というか。なんで、前世の記憶なんてたいそうなもん突然思い出したんだよ。あれか、脳的な問題か」

 その通りである。

 赤子の時代から前世の記憶を思い出すのは脳構造的にあり得ない。何故なら、幼児と成人の脳の重さ、大きさは違うからだ。

 ようやっと脳が思い出せる年齢に達したのだろう。そういう問題でないことは彼も理解してはいたが、全て異世界だからと考えないことにした。

 そして、それを理解すると彼はこう思った。

 ああ、人生やり直しか。さて、とりあえずハッピーエンド目指すかな。


 ――よし、女囲おう。ハーレム良いよなぁ。


 ハッピーエンド=ハーレムなのは彼が、馬鹿だからだ。


「さて、誰かを愛して愛されてみますかね、と」



 彼の前世の人生は、どこかで狂ったのだ。彼のせいではないかもしれない。ごく普通の家庭に生まれ育った。両親は普通に健在。

 間違えた時期を選ぶとすれば思春期。

 ゲームを好きだったりアニメや漫画が好きで、少しだけオタクが入った普通の少年だった。だからこそのハーレムで、主人公にたくさんのヒロイン。彼が好きなジャンルだった。気分だけは主人公だ。

 テレビゲームをやっていて、少年ならばほぼ誰でも思うこと。

 戦争ゲームのFPSをやれば、これをやってみたい。アウトローのゲームをやれば、これをやってみたい。

 実際に道を間違えても多くが一人か二人を殺して捕まるだけ。 

 戦争に参加もせず、アウトローとしても生きていない意気地なし共。単なる犯罪者の愚か者。

 彼にはチャンスがあった。なければ、普通に生きて、死んだだろう。

 そのチャンスを活かし、中学生の頃、家を飛び出しある国の特殊すぎる特殊部隊員となった。

 特別な部隊であるからにして、入隊するにあったっての条件は実を言うといろいろあった。

 イカれていること。身体能力や何かしらの才能がずば抜けていること――殺人に関してなど。

 本来であれば彼はまだまだ長生きしたはずだ。戦場で戦死するのも体が衰える頃になってやっと死ぬはずだった。

 特別戦闘部隊の一員になるためには頭のおかしい試験がある。

 単騎で一個中隊を潰すこと――手段は問わず。なのでそんなに部隊員は多くはなかった。

 彼は、強かった。

 ずっとずっと人を殺してきた。

 さらに、悪人だった。

 人を殺して金を貰うという、最悪な職業に就いていたのだから。

 彼は戦争が好きだった。悲鳴、怒号、銃声、爆音の音で頭がおかしくなっても戦争が好きだった。

 人を殺して快感を得るサイコパスタイプではない。純粋に戦争が好きだ。人を殺すことが好きなのではない。戦争とは人を殺すことだからやっているだけ。

 もしも、戦争が別のものであればそちらでも良かった。

 ただ、戦争とは人を殺すことなのだ。

 

 今回の人生はどうするのだろうか。

 また、呆気なく死ぬのか。それとも最高の人生を送るのか。

 前回と違うのは、女性(ヒロイン)を意識したこと。

 

 どんな物語であろうと、鍵を握るのはいつも女性だ。


 ヒーローにはヒロインを。

 お姫様には王子様を。

 囚われの姫には勇敢なる騎士を。


 そもそも単なる悪人が、英雄(ヒーロー)になれるのか。

 そこが問題。

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