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09.盗賊団3

『ソフィ』

 高ぶる気持ちを抑えるように、ゆっくり、静かに話しかけた。

 一寸の間を挟み、ソフィは何かを悟ったように、何も語らず、そっと|剣(僕)を床に突き刺した。

 静寂が支配した大部屋に、石の割れる冷たい音が微かに響く――

 僕は人の姿となると、ゆっくりと顔を上げ、目前の二人をしっかりと見据えた。

「あのガキは……」

 大男が片手を顎に添え、方眉を顰めながら呟いた。

「ヒッヒッヒ。どうやらあのガキは魔剣だったみたいですねぇ。しかし、なぜ魔剣が生身で戦ってたんでしょうかねぇ?」

「使い手がいなかったのか、それとも、あの時点ではまだ人であったのか。まあ……どちらでもいい」何れにせよ、やる事は同じだ……と。

「ヒッヒッヒ。魔装の中でも高値で売れる人型の魔剣が自分から転がり込んでくるなんて、運がいいですねぇ。これで、お頭にも顔向けできるってもんですねぇ」蛇のような目を細めながら、気味悪い笑いを浮かべ、しゃべり続ける。

「ヒッヒッヒ。わざわざお越し下さった君達に敬意を表して良い事を教えてあげましょう」口の両端が釣りあがり、不気味な笑顔を作り上げる。

「君達の探し人は今しがた、お頭が売りに行ったところなんですよ。それも相手は悪趣味な連中でねぇ。売られたあとどうなるか考えたら……。あっしらも涙が出てしょうがないんですよねぇ……。ヒッヒッヒ」いっそうと目を細め、言葉とは裏腹にニタニタと笑うその顔は、気味悪さを通り越し、ある種の恐ろしさをかもし出していた。

「クズが……」ソフィの顔が不快を顕にする。小柄の男がソフィが発するその声とその顔を見つめ、またニタニタと笑う。

「リルトス、いい加減にしておけ」

 大男が小柄な男に視線だけを向け、怒りの篭った声で言い放った。

 リルトスと呼ばれた小柄な男の体が一瞬ビクリと動き、「ヒッヒッヒ。すいません、トロルロフ兄貴ぃ」と頭を掻きながら嘲るように呟いた。

 トロルロフと呼ばれた大男の視線がこちらに移り、その眼差しが鋭くなる。強烈な重圧感が押し寄せ体から汗がにじみ出る。喉元に刃物を当てられているような重く、寒気のする感覚が僕を支配する。

「ソフィ。お願い」

 僕は押し寄せる重圧感を払いのけるように言葉を発した。

 ソフィは一瞬、眉を顰め、怪訝な顔を顕にしたが、すぐさま、ふぅ……。と、ため息を付き「しょうがないな~」と、表情を緩めた。

 ソフィの体が淡い光に包まれ、その姿を刀へと変える。

 それを見たトロルロフとリルトスの表情が固まり、驚きの表情へと変わる。

「おいおいおいおい。なんだそりゃ!魔剣のコンビなんて聞いた事ねぇぞ」

 トロルロフの顔が驚きの表情から愉悦の表情へと移り変わる

「ヒッヒッヒ。女の魔剣ったぁ本当にツイてますねぇ。決して老いない。永遠に美を保つ魔剣……。ヒッヒッヒ。いくらで売れるか楽しみですねぇ」

 対象に、リルトスの表情は醜い笑みへと変貌する。


 手に取った刀から、ソフィの意思が……。怒りの感情が流れ込む……。


 刀を握り、両足に力を込める。

 目標は……トロルロフ。動きの鈍そうなあいつを初めに、叩く!


 一気に距離を詰めようと両足に溜め込んだ力を解放し、地面を蹴る。

 その瞬間、突如天井より巨大な黒い塊が現れ、僕とトロルロフの間に降り落ちる。重い衝撃音が辺りに轟き床全体が激しく揺れ、その衝撃で体勢が崩れる。

 揺れが収まると同時に体勢を立て直し、落下物を確認するように視線を移した。僕よりも大きいそれは、ツヤのある黒い体毛に覆われ、巨木のように太い胴と二本の腕を持っており、対照的にやや細い足が、その太い腕をさらに強調していた。そしてその顔は、そこはかとなく人に似ている。

「さ……猿?」

 巨大は猿は、静かに佇み、こちらを凝視している――

「おい、こっちに来い」トロルロフが大きな声で叫ぶ。

 巨大な猿はこちらを凝視しつつ体を反転させた後、顔だけこちらに向けたまま、のっそのっそとトロルロフに向かって歩いていく。

 そして、トロルロフの目の前までたどり着くと同時に、巨大な猿の体が淡い光に包まれ、その巨体が黒い大斧へと次第に変貌していった。


 その様子を僕は見ている事しかできなかった。体が……凍りついたように、時が止まったかのように、ただ、見ている事しかできなかった。


「まさか、自分達だけが魔装を持っている……とでも?」

 トロルロフが豪快な笑みを浮かべ、言い放つ。


 冷や汗が止まらない……。

 心臓を鷲掴みにされているような、猛獣の口の中にいるような、絶望的な重圧感。

『クルト!後ろっ!』

 突如、頭に響いたソフィの声により、我に返る。

 ――後ろに……何かいる!?

 後ろからの気配を避けるように前方に飛び込み、身体を捻って後ろを振り向く。リルトスが短刀を構え、こちらを伺っていた。蛇が獲物を狩るような冷たき視線で……。

 突如、後ろから押しつぶされるような大きな重圧感を感じ、僕は横に飛びのいた。

 直後に大きな風圧が巻き起こり、その発生源がトロルロフの大斧が振り下ろされたものだと理解したと同時に、地面が割れるような巨大な衝撃音が轟き、立ってるのも困難な程の地響きが砦全体を支配した。

「やはり、動きだけは早いな」トロルロフが静かに囁く。誰に向けたわけでもなく。誰に向けるわけでもなく。ただ、うるさい蝿を疎ましく思うように。

 地響きが鳴り止み、刀を構えようとした瞬間。

『右に飛んで!』

 ソフィより発せられる声に従い、咄嗟に右に飛びのくと、左より暗闇から這い出るように現れ、恐ろしく滑らかな動作で斬りかかって来たリルトスの短刀が空を切った。「ちっ」と舌打ちをする音が聞こえる『クルト!前!』

 声に応じるように前を見ると――。トロルロフが投擲したであろう大斧が目の前まで迫っていた――

 咄嗟に剣を盾にして大斧を受け止める。受けると同時に鉄球でもぶつかったかのような激しい衝撃が体を襲う。受け止めた身体が浮き、大斧と共に壁まで吹き飛び、激突した。体が砕けたかのような痛みが全身を襲い、視界がぼやける。首を左右に振り、意識を戻し、前を見る。

 ――次に僕の目に飛び込んできたもの。それは、巨大な猿が腕を振り上げ、今、その拳を振り下ろそうとしているところだった。

 全力で身体をひねり、拳を躱す。壁が砕ける音と共に先程までいた場所に大きな風穴が開く。崩れた体制を強引に戻し、すぐさま刀を水平に構え、巨大な猿目がけ突き出した。

 刀が空を切る。巨大な猿はその巨体さからは想像できない程の俊敏さで突きを躱し、小さく飛び跳ねながらトロルロフの下へと帰り、再びその姿を大斧へと変える。


 強い……。圧倒的に……僕よりも……。どうする……?どうする!?

 激しい痛みと焦燥感が押し寄せる中、必死に考えを巡らせる。

 どうする……。どうする……!?


『……トっ! クルトっ!』

「ソ……ソフィ!」


『一旦引いて!そこの穴から!』


 ソフィが示す先には、巨大な猿が開けていった穴があった。


 ――僕はなりふり構わず。その穴めがけ走っていた。


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