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04.野党討伐1

 近くの街を目指し歩いていた僕らの前に、犬型の魔物が立ちはだかっていた。


「ふむ。この辺りは魔物が多いな。」

 ルシルさんは持っていた黒剣を地面に突き刺し、億劫そうにしている。

「ルシル、また来ましたよ。前から犬っころが三匹。」

「またかい……。試し切りはもう十分だというのに」

 黒剣を地面から引き抜き。前方より疾走してくる魔物の群れに剣先を向ける。

 ワイルドドッグ。地域によって個体差があり、名前がそれぞれ違うらしい。

 この地域のワイルドドッグは基本的には大人しいのだが、仲間意識が強く、仲間の血の臭いを嗅ぎ付けて集まり、襲い掛かってくる仲間思いの奴らしい。

 さっきソフィが言ってた。受け売りです。


「せっかくだ。アレで試し切りしてみないか?少年」

 全ての元凶であるこの台詞を言い放ったルシルさんの嬉しそうな顔とソフィの呆れた顔が凄い印象的だった。


 そんな事を思い出しているうちに、ワイルドドッグが目前まで迫っていた。

 三匹のワイルドドッグのうち、二匹が左右へと展開した。こちらを挟み込もうとしているのだろうか。。

「甘いな」

 手に持つ黒剣を構え、直進してくる一匹に目標を定め、大地を蹴り、駆け出す。

 こちらの動きに応て犬歯を剥き出しにし、大口を開けて飛び掛ってきたワイルドドッグの突進を横に避け、すれ違い様に剣を水平に薙ぐ。

 ワイルドドッグの開いた口を黒剣が襲う。黒剣を持つ手の重量感が増し、それ押し退けるように黒剣を振り切った。「まず1匹」生臭い血の臭いが辺りに漂う。

「右から来てますよー」

 ソフィの気の抜けた声が聞こえる。

「来るっ!」

 左側からの気配を感じ、後ろに飛び退き、同時に地面を踏みしばって、先程、自分の居た空間目掛け、切り上げた。

 絶妙のタイミングで飛び掛ってきたワイルドドッグに黒剣が当たり、体を二分する。「二匹目」

 三匹目は……と。辺りを見回すと。ソフィの横で三枚におろされたワイルドドッグが目に入った。


「どうやらこれで終わりみたいだな。少年。ご苦労様」

 ルシルさんは体にかかった返り血を気にする事もなく、持っている黒剣を地面に突き刺し。黒剣に向かって語りかけた。

「もう戻っていいぞ。少年」


 いくつか気付いた事がある。

 僕が魔剣になっている時には所持者と感覚や意識が共有されるらしい。

 あたかも僕がルシルさんになって戦っているような感覚。僕の意思では動けないんだけどね。

 ルシルさんが言うには、魔装との信頼度とかで思考の共有もできるらしい。

 熟練の魔装使いの人は魔装から火とか風とか出して戦ったりもするんだけど、どうやらあれは、

 魔装使いの人が『今だ!』って思った事を魔装が読み取り、魔装が魔装の意思で火や風やらを出してるとかなんとか。

 僕とルシルさんはそこまで行ってないらしく「焦る事はないさ」と、言われた。

 僕もそのうち何か出すようになるのだろうかと思い聞いてみるが「ふふっ。努力次第ってとこだね」とルシルさんは嘲るように答えるだけだった。

 はぐらかされたのだろうか。「ふっ」横で聞いていたソフィに鼻で笑われたのがちょっと腹立たしい。


 先ほどの三匹以降、ワイルドドッグは現れず。僕達は順調に旅路を進めていた。

「で、結局こいつの使い勝手どうだったんですか?」

 腕を頭の後ろで組んで体を後ろに反らしながら歩いているソフィがルシルさんに問いかけた。

「漆黒の両刃の剣、分類で言うとグラディウスの派生かな。切れ味良好。多少重いのがたまに傷ってところか。

 威力特化だね。魔装は死ぬ直前の思いが性能に強く関ってくる。きっと家族を守れなかった事に対する自責が力を欲したのだろう。

 考えが安易と言えばそうかもしれないが、それが少年なのだろうな。」

 安易……か。俯きながら歩いていると横から視線を感じた。

 視線を感じる方向。ソフィのいる方向に視線を移すと

「ふっ」

 また鼻で笑われた。わざわざ目が合うのを待ってから……。こいつ!


「そういえば……」

僕はひとつの疑問を思い出す。

「火の国って……」


 少しの沈黙があった。

「滅んださ……。たしか2年前くらい前だったかな、奴隷狩りだよ。火の民は普通の人より力が強いからね。優秀なんだとさ、奴隷としてね」

 ルシルさんは淡々と続ける。

「彼女は火の国の皇女だよ。」

「よけいな事、言わないで下さい。」

 ソフィの消え入りそうな声が聞こえる。

 ルシルさんは目を細め、僕を見据えていた……。

 僕の意思を読み取るように。まるで「君なんてまだまだ幸せな部類ではないかい?」とでも言っているかのように。


 僕はソフィを見ることが出来なかった――。

  ――見るのが怖かったから?

  ――かける言葉が思いつかないから?

 今の僕はどんな表情をしているのだろう――。

   僕は――。僕は――。



 不甲斐無い……。どうしようもないくらいに。そんな自分に腹が立つ。

 僕は……。強くなりたい――。

 何にも負けないくらい。何にも屈しないくらい。強く……なりたい――。




 前を歩いているルシルさんの足が止まった。顔だけをこちらに向け前方を指差す。

「少年。君にとって喜ばしいものを見つけたよ」

 僕は指差す先を見た。ひらけた場所にいくつかのテントと馬車、まだ火が付いていない焚き火が見える。

 目を凝らすといくつかの人影も見えた。

「野営地……?」

「ああ、旅人か野党か、どちらにせよ、近付けばわかるさ。野党なら脅してでも情報を得るし、旅人なら普通に聞けばいい。どちらにしろ情報は手に入るってことだね」

 ルシルさんは片目をつぶって軽くウィンクをする。

「またですか……。」

 ソフィが呆れ顔で返事を返す。この様子だといつもの事って感じなのだろうか。


 野営地に近付くにつれ、人影がはっきりとわかるようになり、喋り声も聞こえるようになってきた。

 どうやら、この野営地を張ったのは旅人ではなく、野党みたいだ。

 願わくば、あの盗賊団であってほしい。少なくとも、あの盗賊団と関係があってほしい。僕は切に願った。


 二人の後を追うように歩いているとルシルさんが話しかけてきた。

「少年。君は先程の戦いで疲れているだろう。今回は少し休んでおきなさい」手荒な事になるだろうしね……と。

 ソフィはこちらを向き、「ふふんっ」と鼻を鳴らし、かなり上機嫌な様子だ。


「まあ、悪いようにはしないさ。安心したまえ、少年」


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