良い嘘と悪い嘘
ナンバを出発した一行は獣人の町ニャンプーへと向かう為、街道を歩いていた。
―街道―
ジーク「このまま街道を歩けばニャンプーか?」
ミラ「ちゃうちゃう、あっちや」
そう言って指差した先には森が広がっていた。
レオン「森の中に村があるのか?」
ミラ「せや、人間を怖がって隠れとんねん」
ジーク「ふぇ~、行こうぜ」
街道を外れて薄暗い森の中へと入っていく。
―動物の森―
ジーク「こんな森が残ってるとはな~」
ミラ「ここは動物の森ゆうて、住む場所を失った動物が最後に訪れる森や」
レオン「こういった場所は守っていかなければいけないな」
ミラ「ええことゆうやんか~」
ジーク「ほとんどの森は戦争で焼けちまったしな」
数分後。
ジーク「町はまだなのか?」
ミラ「もうすぐやで」
マリン「ねーねー」
レオン「どうした?」
マリン「さっきから誰かついて来てるよ~」
一同が耳を澄ませてみると、確かに近くの茂みの中からカサカサと音がしている。
ジーク「クマじゃねぇの?」
レオン「油断するなよ」
ミラ「この臭い・・・、タタルやな!」
ミラがそう言い放った途端、茂みの中から一本のナイフが飛び出し、すぐさま反応したレオンがリリィ庇う。すると~ドスッ~という鈍い音と共にバランスを崩して膝をつく。
レオン「ぐっ・・・!」
リリィ「レオン!」
ジーク「おい!大丈夫かよ!?」
レオン「急所には入っていない・・・、平気だ」
ナイフは左肩甲骨の辺りに刺さっており、幸いにも致命傷は間逃れる事ができたが、早く治療しなければならない状況に変わりはなかった。
リリィ「レオン・・・、ごめんなさい」
レオン「フッ、お前が気にする必要はない」
ジーク「そんな状態で格好つけんなよ」
ミラ「せやで、はよ町で治療せんと」
思わぬ怪我を負ってしまうが、自力で立ち上がるとふらふらとした足取りで歩き始める。
―ニャンプー―
森の中を数十分歩いてようやく町に到着すると、真っ先にミラが大声で助けを呼ぶ。
ミラ「おーい!仲間が怪我しとんねや、誰か先生呼んでくれへんか!?」
その声に反応した獣人達が集まってくる。
獣人A「ミラじゃないか、仲間って人間か?」
ミラ「せや、治療したってーな」
獣人B「う~む、どうしたものか」
ミラ「人の命がかかってんねんで!」
獣人A「しかし村長になんて言われるか」
あまりにもぐだぐだと女々しい事を言う男達に、ミラ姐さんの怒りが爆発する。
ミラ「じゃかわしやボケが!!はよ呼べゆうとんねん、しばくぞワレ!!」
あまりの迫力にその場にいた全員が言葉を失っていると、怒鳴り声を聞いた村長が慌ててやってくる。
村長「ミラか、何事かと思ったぞい」
ミラ「仲間が怪我しとんねん」
村長「それは大変じゃな、わしの家に運びなさい」
獣人A「村長!人間を町に入れていいんですか!?」
村長「かまわん。お前は先生を呼んできない」
獣人A「・・・わかりました、すぐに呼んできます」
治療をする為に村長の家へと向かった。
―村長の家―
村長「座りなされ」
家に着くとレオンは倒れるようにして椅子に寄りかかる。
レオン「ふぅ・・・」
リリィ「顔色が悪くなってきていますわ」
ジーク「早く血を止めねぇと」
村長「一体何があったんじゃ?」
ミラ「刺さってるナイフをよう見てみぃ」
村長「んん~?これはタタルのナイフか!?」
ミラ「せや、臭いも確認したし、本人で間違い無いわ」
村長「お前から話は聞いていたが、ここまで深刻な事態になるとはのう」
ミラ「うちはタタルを探しに行くさかい、後の事は村長に任せるで」
ミラが家を出るのと入れ替わりに、一人の白衣を着たネコが入ってくる、
白衣猫「ここに患者がいるらしいにゃ?」
村長「猫三郎先生、お忙しい所どうもですじゃ。怪我人はそこの金髪の青年ですぞ」
どうやら白衣を着たネコは【猫三郎】と言う医師の様で、レオンに近づいて怪我の様子をじっくり観察すると徐にナイフを引き抜く。
すぐさま持っていた箱から薬を取り出し、傷口に塗って出血を止めると、その上から葉っぱの様なモノを"ペタリ"と貼り付けて治療を終えた。
猫三郎「治療は完璧だにゃ」
ジーク「えらく簡単だな」
猫三郎「貴重な薬草を使ってあげたから感謝するのにゃ」
レオン「ありがとう」
猫三郎「素直でよろしいのにゃ。しばらくは彼に無理させたらダメにゃ」
リリィ「先生、ありがとうございました」
猫三郎「それではボクは失礼するのにゃ」
完璧な治療を施した猫三郎先生は家を出て行く。
ジーク「一時はどうなる事かと思ったぜ」
レオン「大丈夫だ、すぐにでも動ける」
ジーク「そんな真っ青な顔して言われてもな」
リリィ「しばらくは安静にしてなければダメですわ!」
レオン「こうしている間にもマモノは活性化しているんだ、休んでいる訳にはいかない」
そう言って立ち上がろうとするが、ジークに両肩を押さえられ椅子に体を固定される。
ジーク「大人しくしろぉーい」
レオン「ぬぅ・・・」
リリィ「わたくしが責任を持って介抱して差し上げます」
レオン「そんなに重症じゃないんだが」
そんな事をしていると、家の外から子供が駄々をこねている様な声が聞こえてくる。
少年「放せよー」
ミラ「ええからはよこいや」
少年「やーだー」
そんな声が家の玄関前に到達するやいなや、ドアが蹴り破られてミラと引きずられた少年が入ってくる。
ミラ「タタルを連れてきたで」
目の前に引っ張り出されたタタルと呼ばれる少年は狼の様な風貌をしており、いかにも悪ガキといった顔をしていた。
ミラ「タタル、レオンにあやまりや」
タタル「やだね」
ミラ「ほな、いっぺん地獄みせたろか」
タタルの生意気な態度にまたもやお怒りになられたミラ姐さん。
頭めがけて怒りの鉄鎚が下されると、部屋中に"ゴツッ"という鈍い音が響き渡りその痛さを物語る。
タタル「いってえぇぇぇぇ!!!!」
ミラ「ちゃんとあやまりや」
タタル「わかったよ・・・、ごめんなさい」
レオン「よし、許す」
ミラ「許してもろうた所で、剣も返しや」
タタル「剣なんて知らない」
ミラ「嘘じゃないやろうな?」
タタル「本当だって!」
レオン「そうか、なら仕方ないな(奥の手を使うか)」
何かを思いついたレオンは笑顔で尋問を始める。
レオン「タタル、俺の質問に正直に答えてほしい」
タタル「なんだよ」
レオン「剣を盗んだのはお前か?」
タタル「違う」
レオン「それじゃあ剣は家にあるのか?」
タタル「な、なんでそうなるんだよ!?」
レオン「無駄口を叩くな。ハイかイイエで答えろ」
先程の笑顔とは一変、冷たく表情のない顔から放たれる言葉は、普段のレオンからは想像できない程の威圧感を持っており、その迫力に圧倒されたタタルは素直に質問に答える事しかできなかった。
タタル「・・・いいえ」
レオン「そうか、家の中か」
その言葉に明らかな動揺を見せる。
タタル「・・・」
レオン「続いて問う、剣は高い所に置いてあるのか?」
タタル「はい」
レオン「ならば低い所か?」
タタル「いいえ」
レオン「そうか、低い所だな」
タタル「さっきからなんなんだよ!」
レオン「誰が無駄口を叩いて良いと言った?」
タタル「うぅ・・・」
レオン「質問を続けるぞ、剣は収納してあるのか?」
タタル「・・・いいえ」
レオン「狭い所にあるな?」
タタル「はい」
レオン「では最後の質問だ。剣は寝室にあるな?」
タタル「はい・・・」
レオン「ご苦労だった」
ミラ「今のでわかったんか?」
レオン「タタルの家の寝室を調べてきてくれ。特にベットの下の様な狭い場所を入念にな」
ミラ「まかせとき」
剣の在処を伝えるとミラはタタルの家へと向かい、仲間達はしょんぼりとしたタタルを尻目にヒソヒソ話を始める。
ジーク「ヒソヒソ・・・(おいレオン、なにしたんだよ?)」
レオン「ヒソヒソ・・・(心の鍵の能力を使ったまでだ)」
ジーク「ヒソヒソ・・・(どう言う事だ?)」
レオン「ヒソヒソ・・・(質問に対して心の扉が表れるかどうかで真偽を確認していた)」
ジーク「ヒソヒソ・・・(なーるほど)」
マリン「ヒソヒソ・・・(レオンこわかったよー)」
レオン「ヒソヒソ・・・(すまないな、あれは演技だ)」
リリィ「ヒソヒソ・・・(随分とお上手でしたわね)」
レオン「ヒソヒソ・・・(他国との外交の際にナメられてしまうとマズいのでな、ひっそりと練習していたんだ)」
そんな会話をして時間を潰していると、家宅捜査からミラが戻り、その手にはしっかりと心の剣が握り締められていた。
ミラ「あったで~」
レオン「助かった、ありがとう」
タタル「なんでバレたんだよー!」
レオン「良い事を教えてやろう、俺には嘘を見抜く力がある」
タタル「そんなのズルいぞ」
ジーク「隠れてナイフ投げてきた奴よりはマシだがな」
タタル「ぐぅ・・・」
リリィ「その辺にしてあげないと、泣いてしまいますわよ」
レオン「フハハハ、そうだな」
タタル「くそ~!もう用は無いだろ、俺は帰るぞ」
レオン「それはダメだ、ジーク取り押さえろ」
ジーク「あいよ」
逃げられ無い様に羽交い絞めにする。
タタル「放せよー」
レオン「そう慌てるな話を聞け」
タタル「なんだよ」
レオン「お前の心にはマモノが巣食っている」
タタル「はぁ?うそつけ」
レオン「マモノを放っておけば、直にお前は死ぬぞ」
タタル「えぇ!?ど、どうしよう・・・」
この時点で既に心の扉は表れていた・・・が、面白いのでもうちょっとからかう事にするレオン。
レオン「一つだけ救う方法があるんだが・・・、知りたいか?」
タタル「知りたい!」
レオン「フハハハ、教えてやろう。俺に心を開け」
タタル「どういう事だよ」
レオン「説明すると長くなる。良いから信用しろ」
ミラ「はよせんと、ほんまに死んでしまうで?」
タタル「わ、わかったよ」
十分楽しんだ所で扉に鍵を差し込むと、辺りは光に包まれ精神世界へと侵入する。
―精神世界―
心の扉を抜けた先には辺り一面が焼け野原となり、獣人と人間の死体が転がる戦場を彷彿とさせる光景が広がっていた。
ジーク「なんつう場所だよ」
リリィ「惨いですわね・・・」
ミラ「これがタタルの心の中なんか」
レオン「マリン、あまり見るなよ」
マリン「うん・・・」
ジーク「ここにいても気分が悪くなるだけだ、さっさとマモノをぶちのめしに行こうぜ!」
一行がマモノを探して歩いていると、遠くから男達の叫ぶような声が聞こえてくる。
???「やめてくれぇー!」
???「うわぁぁあー!」
ジーク「ん?なんか声がするぞ?」
レオン「俺達以外にも人間がいるのか?」
リリィ「行ってみましょう!」
声のする方向に向かってみると、先程の声の主と思われる二人の兵士が男女の獣人に命乞いをしていた。
兵士A「おたすけ~」
男獣人「グルルゥウウウ!!」
女獣人「ウホッウホッ!!」
男獣人は皮の防具を身に纏った、いわゆる戦士風の姿をした狼男で、武器は持っていない。
女獣人の方は布の服を着たゴリラのような姿をしていて、ヘソから黒い紐の様なモノが伸びており、その先には幅50cm程の黒い球が繋がっていた。
兵士B「頼む!助けてくれ!」
???「獣人が同じ事を言っても人間は助けてくれなかったよね?」
兵士達は誰かと話をしている様で、相手の声は感じからして少年だと思われるが、そんな子供の姿は何処にも見当たらなかった。
兵士A「し、仕方なかったんだ!」
???「それなら君達をヤルのも仕方ないよね!?ママ、やっちゃって!」
その声を聞いたママ(女獣人)が黒い紐を掴むと、黒球をブンブンと振り回して兵士めがけて投げつける。
しかし、あまりにも予備動作が長かった所為で、兵士の前には既に盾を構えたジークがおり、振り下ろされた黒球を軽く受け流す。
ジーク「おまえら!さっさと逃げな!」
兵士B「恩に着るよ!」
兵士達が急いでその場を離れると、仲間達がジークのもとへと駆け寄る。
レオン「よくやったぞジーク」
ジーク「あんなメスゴリラ相手じゃないぜ」
???「なんで、邪魔するんだよ!?」
怒ったような口調でそう問いかけると、ジーク節が炸裂する。
ジーク「知りたいか?ならばお前の名を名乗れぇーい!」
???「いいだろう、教えてやるよ。ぼくは【憎悪】だ」
ジーク「ただのわがまま小僧じゃねーか」
憎悪「うるさいな!パパ、そいつをやって!」
その言葉を聞いた、パパ(男獣人)がジークに狙いを定め襲い掛かる。
パパ「グルルゥアアア!」
ジーク「レオンは女の方頼む!」
レオン「任せろ。リリィはマリンを護り、マリンは敵の弱点を探れ!」
マリン&リリィ「はい!」
ミラ「うちはどないしょう」
ジーク「ミラはレオンの援護を頼む!」
ミラ「よっしゃ、まかせとき!」
レオン「各自行動開始だ!」
こうして3チームに分かれての戦いが始まり、まずは弱点を探す為に唄い始めるマリン。
リリィ「安心して歌に集中してね」
マリン「うん!それじゃあ唄うね。ラララ~♪」
ママの元に向かった二人は前後を挟むように陣形を組む。
ミラ「うちが敵を翻弄したるさかい、レオンは攻撃に徹しや!」
レオン「任せたぞ」
ママは黒球を振り回して応戦するが、素早い猫獣人のミラには当たらず、隙が出来てはレオンに切られ、かといって今度はレオンを狙ってみれば、ミラに切られるという、負のスパイラルにハマっていた。
レオン「随分と弱いな」
憎悪「くそう!なめやがってー!パパはなにやってるの!?」
その頃パパはジークとのタイマンの最中であり、殴る蹴るの体術を駆使して攻撃するが、大盾を使って防御に徹するジークの前では完全に無力であった。
こうして2チームがそれぞれの相手に時間を稼いでいると、ようやくマリンが唄い終える。
マリン「ラララ~・・・。レオーン!弱点は黒い球の中にあるよー」
レオン「ミラ、聞いての通りだ。黒球を叩く!」
ミラ「了解や」
弱点を特定した二人が黒球に集中的に攻撃を加えてみるも、球は圧倒的に硬くて削る事すらできず、むしろ攻撃を避けながら戦闘している二人の体力の方が削られていた。
レオン「はぁはぁ・・・、壊れないな・・・」
ミラ「そろそろキッツいで・・・」
憎悪「そんな攻撃で壊れる訳ないだろ。それにしてもあの人魚邪魔だな・・・。ふたりとも、先にあいつからやって!」
マリンの歌を脅威と感じて目標を変更するが、パパはジークのいやらしい戦法にハマり、ママも二人相手に身動きが取れない状態だった。
憎悪「ふたりとも役に立たないな!もういいよ!僕がやる」
そう言い放つと"オギャー"と大声で泣き始め、一同はその声のデカさに思わず耳を塞ぐ。
ジーク「うるせえええーー!!!」
ミラ「頭が割れそうや!」
憎悪「ふたりともチャンスだよ!」
一同に隙ができたので獣人夫婦がすぐさまマリンめがけて走り出す・・・が、ママは足が遅かったのでアッサリと捕まってしまった。
ジーク「リリィー!狼がそっち行ったぞ!」
その声はリリィの耳には届かなかったが、向かってくる敵の姿で状況を把握する事ができ、ムチを構えて間合いに入ってきた所を強く打つ。
リリィ「やぁっ!!」
限界まで撓わせたムチは恐ろしく速く、避けるのは難しいと踏んだパパは手で掴もうと試みる。
その様子を見たリリィが"ニヤリ"と笑うと、ムチが蛇の様に体に巻きつき、キツく締め上げる。
パパ「グルルゥ!?」
驚いたパパは急いでムチを振り解こうとするが、動けば動くほどキツく締め付けられてしまい、その数分後には完全に束縛されていた。
マリン「リリィー、すごーい!」
憎悪「くそう!なんだよそのムチ!」
リリィ「このムチは【八蛇鞭】と言って、クインシー家に伝わる家宝ですのよ」
憎悪「おまえらずるいぞ!ママ、早く倒してよ!」
その頃、ママと戦っていたレオン達は相変わらず黒球を破壊できずに苦戦していた。
レオン「この泣き声さえ無ければ剣技を使えるのだが・・・」
剣技は精神を集中させる事が前提となっていた為、この騒音の中では気が散って使えないのである。
ミラ「ほんなら、うちが何とかしてみよか」
レオン「何か策があるのか?」
ミラ「策っちゅう程でもないけどな、試しにやってみるわ。しばらく時間稼いでおいてな」
そう言って少し離れた場所に向かうミラ、それと入れ替わりにジークがやってくる。
ジーク「レオーン、狼男の方は無力化したぜ」
レオン「良くやったぞ。後はこのメスゴリラだけだ」
言われた通りにママの気を引き時間を稼ぎ始める二人。
その頃ミラは何かの舞を舞い続け、ひたすらに同じ場所を行ったり来たりとしていると、いつの間にか地面には巨大な魔法陣の様なモノが描かれていた。
ミラ「できたでー!でてこいやぁー!」
その言葉と同時に魔法陣からは光が溢れ、中からは黒いスーツにメガネ、右手にはカバンを持ち、七三分けをビシっと決めた大人しそうなサラリーマンが現れた。
サラリーマン「どうもー、お呼びでしょうか?」
ミラ「ようきてくれたな。所で自分だれや?」
サラリーマン「これは申し送れました。私、こういうモノです」
一枚の名刺差し出すと、そこには【音無 静男】と名前が書かれていた。
ミラ「自分、けったいな名前やね」
音無「よく言われます」
ミラ「まぁええわ。いきなりで悪いんやけどな、あの騒音消してくれる?」
音無「お任せ下さい」
そう言ってスーツのポケットから機械を取り出し操作すると、誰かと会話をし始める。
音無「あー、もしもし。私だ、例の装置作動して、うん、そう、今すぐにね。はい、またね」
ミラ「何しとんの?」
音無「会社の方に連絡しましたので、そろそろ泣き声が止みますよ」
その言葉通りに憎悪の泣き声はすぐに止んだが、同時にある違和感を覚える。
ミラ「(なんやこれ、音が聞こえへんやん!って声もでてへんやん!!)」
音無「(やべ、やりすぎちゃった)」
やりすぎちゃった音無さんは足早に魔法陣の中へと消えていく。
ミラ「(まてやコラ!説明せんかい!!)」
ジーク「(うおー!声がでねぇー!?)」
憎悪「(なんだよこれー!?)」
ママ「($%&$&$&$!!?)」
レオン「(メスゴリラが混乱しているぞ・・・、これはチャンスかもしれない)」
憎悪の声が聞こえなくなった事でママが挙動不審になり、その隙に集気を使用して極限まで力を溜める。
しばらくすると剣は直視できない程の輝きを放ち、その事を確認したレオンは黒球めがけて走っていく。
憎悪「(うわぁぁああ!こっちにくるなー!)」
そんな想いとは裏腹に容赦なく叩きつけられた一撃は、憎悪を護っていた黒い球を真っ二つにすると同時に中のコアまでも粉砕した。
すると、憎悪と獣人夫婦は黒いモノとなって剣に吸い込まれていき、精神世界は崩れ始める。
レオン「早く逃げるぞ!」
ジーク「おっ?喋れるようになったな」
いつの間にか音が戻っていたが、今更どうでも良かったので、さっさと心の扉から現実世界へと戻るのであった。
―ニャンプー 村長の家―
タタル「な、なんだよ今の光!?」
レオン「今の光でマモノは滅びた。気分が良いだろう?」
タタル「言われてみればそんな気も」
ミラ「よかったなぁ、もう死ぬ事はないで」
タタル「やったー!」
嘘にすっかり騙されてしまったタタルであったが、本人はとても嬉しそうな顔をしていたので真実は話さないでおく事にした。
ジーク「てか声が出なくなったけど、あれはなんだったんだ?」
ミラ「すまんなー、音無のアホが失敗しよったんや」
ジーク「音無?誰だそりゃ?」
ミラ「あー、自分らは見とらんかったな。うちが舞で呼び出したスケットや」
レオン「召還という奴か、面白いな」
ミラ「けどな、何が出てくるかはうちにもわからんねん」
ジーク「それでも良いじゃんか~、俺も必殺技欲しいよ~」
しばらく会話していると、"コンコン"と何か硬いモノを叩く様な音が聞こえてくる。
一同が気になって辺りを見回してみると、玄関前に一人の青年が立っていた。
青年「どうも。扉が無かったので何処をノックすればいいか迷いましたよ」
困惑した表情でそう話す青年。
外見の方はというと、身長は170cm強、色黒で帽子を被り、背中に大きなリュックを背負った、いわゆる旅人の様な格好をしている。
村長「おぬしは誰だ?」
旅人「僕は【ジム】世界中を旅している最中です」
村長「それはいいとして、どうやって村に入った?」
ジム「猫っぽい人に魚をあげたら通してくれましたよ」
村長「そ、そうなのか。まぁよい、座りなさい」
ジム「お邪魔します」
そう言って家の中に足を踏み入れると、先に座っていたレオンに話しかける。
ジム「隣いいかな?」
レオン「どうぞ」
青年は"どっこいしょ"と言いながら席に座ると、村に訪ねてきた理由を語り始める。
ジム「僕がこの村に来た理由は一つ・・・、道に迷いました」
村長「何処に向かおうとしていたんじゃ?」
ジム「確か・・・、【ミュジカ】って言ったかな?面白い事件が起きているみたいなんですよ」
村長「ほうほう、それならこの村とは正反対ですぞ」
ジム「あちゃ~」
事件という言葉を聞いたレオンは、すぐさまジムに事情を尋ねてる。
レオン「よろしければ、その事件について詳しく教えて頂けませんか?」
ジム「ん?事件と言うのはだね【ゲレン・デスキー】という音楽家がスランプになっているらしいんだ」
レオン「それは最近の事ですか?」
ジム「あぁ、その通りだ。噂じゃ悪霊にとり憑かれたって話だよ」
レオン「なるほど・・・。ありがとうございます」
ミラ「どう聞いてもマモノの仕業やんな?」
レオン「間違いないだろうな」
ジーク「よし、次の目的地が決まったな!」
レオン「確か村の正反対と言っていたか・・・、行くか」
ミュジカに出発しようと席を立った瞬間、レオンがバランスを崩してその場に倒れる。
ガシャーン!
ジーク「おい!どうしたんだよ!?
レオン「はぁ・・・はぁ・・・」
リリィ「すごい熱ですわ!」
ミラ「うちが先生呼んでくるわ!」
タタル「あっ、やべ」
何か重大な事を思い出した様子のタタル、仲間達は嫌な予感がしたが尋ねてみた。
マリン「どうしたの?」
タタル「ナイフに毒塗ってあったんだ」
ミラ「はぁ!?なんでもっと早くいわんのや!」
タタル「いやー、忘れてて」
ジーク「てめぇえええーー!!」
その言葉に思わずカッとなり、顔面にストレートを決めると、
"メキメキ"と音を立てながら体ごと吹き飛ばされ、更には勢い余って壁を突き破る。
ジーク「ふざけやがって・・・」
その怒りは憤怒すら上回る勢いで、壊れた壁から外に出ると、トドメを刺そうとゆっくり近寄る・・・。
タタル「ご、ごめんなさい!」
ジークが放つ殺気を本能で感じたのか頭を下げて素直に謝るが、そんな事で怒りが収まる筈も無く、じわじわと距離を詰めていく・・・。
ジーク「・・・じゃあな」
タタルめがけて突き刺される槍。
もうダメかと諦めて目を瞑るタタル。
タタル「……」
しかし、しばらくたっても槍が体に刺さる様子は無く、不思議に思ったタタルが恐る恐る目を開けてみると、
目先数cmの所で槍が止まり、その先にはジークの喉元にナイフを当てるジムの姿があった。
ジーク「なんの真似だ?」
ジム「その辺にしといてやんなよ」
ジーク「先に仕掛けてきたのは小僧だ」
ジム「この子の命を奪っても彼は元気にならないよ」
ジーク「ケジメはつけなきゃなんないだろうが?」
ジム「やれやれ・・・、仕方ないか・・・」
一触即発の二人、毒に苦しむレオン、壁を壊されて涙目の村長。
この続きは次回のお話で。
第八話 完