騎士の魂
一行は、海賊の本拠地ラウミー島を出発して、人魚の町アクマクアへと向かっていた。
―潜水艇―
潜水艇に乗り込んだ四人は、窓から海中の景色を楽しんでいた。
マリン「みてみてー、おさかな~」
ジーク「お前も魚じゃーん」
マリン「人魚だよ!」
ジーク「似たようなモノだろうが」
マリン「ちがうもん!」
レオン「あまりマリンをイジめるなよ、泣いてしまうぞ」
マリン「泣かないよ!」
マイコ「そろそろ夜光虫の洞窟に着くっすよ~」
ジーク「なんだそりゃ?」
マイコ「人魚の町に続く洞窟っす」
ジーク「ふぇ~」
しばらく海中を進むと、ぽっかりと口を開けた洞窟が見えてくる。
ジーク「洞窟って、あれか~?」
マイコ「そうっす」
マリン「おねえちゃん、心配してるだろうなー」
ジーク「なにっ!お姉さんがいるのか!?」
マリン「うん」
ジーク「是非紹介をだな」
マリン「いいよー」
ジーク「やったぜ」
マイコ「洞窟に入るっす」
洞窟の中に入ると、淡い緑色の光に包まれた美しい光景が広がっていた。
ジーク「うおー!なんだこりゃー!?」
マイコ「夜光虫、ってのが壁一面に張り付いてて、緑色の光を放ってるっす」
マリン「あの虫まずいよー」
ジーク「お前、虫食ったのかよ・・・」
マリン「えへへ」
レオン「・・・(次のマモノは一体どんな奴なのか・・・)」
リリィ「レオン?どうかなさったの?」
レオン「いやな、景色が綺麗だと思ってな」
リリィ「そうですわね」
マイコ「そろそろ浮上するっすよ」
潜水艇が浮上すると、そこは町の中心と思われる場所だった。
―アクマクア―
マイコ「みなさーん、到着したっす。外には空気があるっすから出て平気っすよ」
レオン「町は海の中にあるんじゃなかったのか?」
マイコ「正確には、海の中からしか行けないって事っすよ」
レオン「なるほどな」
マリン「レオン、はやくー」
ジーク「はやくー」
レオン「わかったわかった」
マイコ「うちはここで待ってるっす。用事が済んだら戻ってきて欲しいっす」
レオン「あぁ、できるだけ早く終わらせる」
四人がハッチを開けて外に出てみると、そこには驚いた人魚達が集まってきていて、
マリンは彼らを安心させる為に、無事に帰ってきた事を伝える。
マリン「みんなー!かえってきたよー」
人魚A「あれはマリンじゃないか!?」
人魚B「無事だったのね」
マリン「レオン達がねー、助けてくれたの」
人魚A「そうかそうか。皆さん仲間を助けてくれてありがとう」
レオン「礼には及ばん」
マリン「みんなー、あたしの家にいこうー」
ジーク「お姉さんを安心させてやらないとな」
マリンに連れられて、家へと向かった。
―アクマクア マリン家―
マリン「おねえちゃーん!かえってきたよー!」
人魚姉「あらあら~?マリンちゃん、どこに遊びに行ってたの~?」
マリン「遊んでたんじゃないよー!」
ジーク「ワーオ!実にお美しいお姉さんだ!」
人魚姉「あら~?そちらの方達はどなたかしら~?」
マリン「あたしを助けてくれ人達だよ」
人魚姉「あらあら、そうなの~?」
レオン「レオンハルトと申します」
リリィ「リリィと申しますわ」
ジーク「俺はジークニール!お姉さんのお名前は?」
人魚姉「私はアクアよ~。皆、マリンちゃんを助けてくれてありがとう~」
ジーク「フフフ、それじゃあ私とデートしましょう」
アクア「あらあら~?私でいいの~?」
ジーク「もちろんです!!」
レオン「そんな事してる場合じゃないだろう。人魚の姫に会わなければ」
アクア「あら~?ディーネちゃんに会いたいの~?」
レオン「ディーネちゃんとは?」
マリン「お姫さまの名前だよ」
レオン「なるほど。ここに来た理由は、ディーネ姫にマモノがとり憑いていないか調べる為です」
アクア「マモノ~?」
レオン「実はかくかくしかじかで」
例の如く事情を説明する。
アクア「あらあら、まぁまぁ、それは大変ね~」
ジーク「そうなんだよ~」
レオン「仲間を船で待たせているので、早い所確認したいのだが」
アクア「それじゃ~、私が会わせてあげるわよ~」
レオン「それは願っても無い、是非お願いします」
アクア「でもその前に、海王様にご挨拶しないとね~」
レオン「海王様とは?」
マリン「海王様はねー、ディーネちゃんのお父さんでねー、海で一番偉い人なんだよ!」
レオン「確かに、ご挨拶するのが礼儀ですね」
アクア「それじゃあ行きましょうか~」
アクアに案内されてアクマクア王宮へと向かうと、
入り口に二人の兵士が立っていて、一行を呼び止める。
人魚兵A「まてまてぇーい!怪しい奴らめぇーい!」
アクア「あらあら~、私よ~」
人魚兵A「おぉーう!アクアさんじゃありませぇーんか!」
アクア「この子達は私のお友達なのよ~、通してあげてくれないかしら~?」
人魚兵A「うむむ~ん、どうするべきか・・・」
アクア「お願いきいてくれたら~、うれしいな~♪」
人魚兵A「でへへ~。しょうがないな~ん、特別だぞ~ん」
人魚兵B「おいおい、いいのかよ?」
人魚兵A「大丈夫大丈夫、へーきへーき」
アクアの色仕掛けのおかげで通してもらえる事となり、王宮内に入っていく。
―アクマクア王宮―
王宮に入った一行は、会話をしながら王の間へと向かっていた。
レオン「アクアは王宮に仕えているのか?」
アクア「そうよ~」
ジーク「だから品が良いんだな、うん」
レオン「お前も城に仕えているはずなのに、こうも違うものか」
ジーク「それはだってあれだよ、男のあれだよ」
レオン「何だそれは」
アクア「海王さまの部屋が見えてきたわよ~」
王の間の前にはやはり兵士が立っていた。
人魚兵E「おや?アクアさんじゃないですか」
アクア「警備、ご苦労様~」
人魚兵E「いえいえ、これも仕事ですから」
ジーク「ご苦労様でーす」
人魚兵D「こらこら、勝手に入っちゃいかん」
自然に中に入ろうとするが止められてしまう。
ジーク「惜しかったな」
アクア「その子達を通してあげてくれないかしら?」
人魚兵D「色々と手続きがあってですね」
人魚兵E「別にいいんじゃないか?」
人魚兵D「お前なぁ、そんな簡単に決めれないだろう」
人魚兵E「お前は硬いんだよな、そんなんじゃ彼女できないぞ?」
人魚兵D「それとこれとは関係ないだろうがー!」
アクア「みんな~、入っていいわよ~」
レオン「行こうか」
マリン「はーい」
人魚兵がモメ始めたので、そっと王の間へと入る。
―アクマクア王宮 王の間―
王の間に入ると、そこには腕が六本、足が二本ある、巨大なハゲたおっさんが玉座に座っていた。
アクア「海王様~、お客様を連れてきましたぁ~」
海王「ヌ~ン?」
ジーク「でっけー、おっさんだな」
レオン「海王様、お初にお目にかかります。私の名はレオンハルト=シュタインと申します」
海王「シュタイン・・・?おー、シュタイン家のモノか」
レオン「ご存知なのですか?」
海王「100年前にも、シュタインと名乗るモノが訪ねてきたからな」
レオン「(もしかして、お爺様か・・・?)」
海王「シュタイン家のモノが来たと言う事は、マモノが復活してしまったのか?」
レオン「封印を守りきれず、申し訳ありません」
海王「なーに、また封印すりゃ良いだけの事だ」
レオン「恐れ入ります。それで用事と言うのは、ディーネ姫にマモノがとり憑いているかもしれません」
海王「やはりそうか」
レオン「やはりというと?」
海王「最近ディーネの奴がな、一緒に風呂に入ってくれんのだ」
ジーク「なんだよそれ・・・」
海王「それだけではない、気にいらない事があると急に怒り出したりなぁ」
レオン「間違いなさそうですね」
海王「早いところ封印してくれると助かるぞ」
レオン「それでは、ディーネ姫に会わせて頂けるでしょうか?」
海王「うむ。部屋にいるだろうから行ってくるといい」
レオン「ありがとうございます」
海王の許可を得たので、姫の部屋に向かう事にし、しばらく廊下を歩いて部屋の前に着くと、アクアがドアをノックする。
トントントン!
アクア「ディーネちゃん~、入るわよ~」
すると、中から返事が返ってくる。
ディーネ「アクアか?入ってよいぞ」
アクアを先頭に順番に部屋へと入る。
―アクマクア王宮 姫の部屋―
アクア「ディーネちゃ~ん、お客様を連れてきたわよ~」
ディーネ「むむ、だれじゃ?」
レオン「ディーネ姫、お初にお目にかかります」
ディーネ「おぬしら人間か!」
ジーク「おう!人間だ」
ディーネ「人間はきらいじゃ!でていけー!」
ジーク「えぇー!?もうちょっと話そうぜ」
ディーネ「いやじゃ!いやじゃ!人間は悪い奴じゃ!」
マリン「ディーネちゃん!みんないい人達だよ!」
ディーネ「なんじゃマリン、最近姿が見えなかったではないか?」
マリン「えっと~、漁師の人に捕まっちゃってて」
ディーネ「ほれみろ、やっぱり人間は悪いやつじゃ!」
マリン「あう~」
レオン「ディーネ姫、なぜそこまで人間を嫌っておられるのですか?」
ディーネ「人間には教えぬ!」
マリン「それじゃあ、あたしに教えてよ~」
ディーネ「おぬしなら、まぁいいじゃろ、耳を貸すのじゃ」
マリンにコッソリと理由を教える。
ディーネ「喋ってはならぬぞ」
マリン「はーい」
リリィ「私達にも教えてくださらない?」
ディーネ「いやじゃ」
ジーク「まぁまぁ、これでも食べてリラックスしようぜ」
一本のバナナを差し出す。
ディーネ「なんじゃこれは?」
マリン「バナナって言って、すっごーい甘くておいしいの」
ディーネ「むぅ・・・。どうしてもと言うのなら、受け取ってやらんでもないぞ」
ジーク「どうぞどうぞ~」
ディーネ「うむ。それじゃあ頂くとするかの」
嬉しそうにバナナを食べ始める。
ディーネ「もぐもぐ。こ、これは!とってもおいしいのう~♪」
バナナを食べて幸せ気分になるディーネ。
すると、胸の辺りに黒い光が表れ、レオンはそれを見逃さなかった。
レオン「ヒソヒソ・・・(心の扉が表れたぞ)」
ジーク「ヒソヒソ・・・(バナナ作戦大成功だな!)」
リリィ「ヒソヒソ・・・(勝手に入ってよろしいのかしら?)」
レオン「ヒソヒソ・・・(海王様には許可を頂いているんだ、問題ないだろう)」
リリィ「ヒソヒソ・・・(そうですわね)」
レオン「ディーネ姫、動かないで下さいね」
ディーネがバナナを食べている隙に、扉に鍵を差し込むと、辺りは光に包まれていく。
ディーネ「な、なんじゃー!?」
―精神世界―
精神世界に侵入した四人の目に映ったのは、溶岩が流れる灼熱の火山地帯だった。
レオン「ここは火山か?」
ジーク「あっちー!」
マリン「焼き魚になっちゃうよ~」
リリィ「あら?マリンまで連れてきてしまいましたわね」
マリン「ここどこー?」
レオン「マモノが作った世界だ」
マリン「心の中なの?すごーい」
到着して間もなく、辺りに爆音が響き渡る。
ドッカーン!
ジーク「なななんだ!?」
リリィ「火山が噴火したようですわ!」
レオン「このままだと溶岩に巻き込まれるな」
マリン「みんなー、あっちに洞窟があるよー」
マリンが遠くに洞窟を発見する。
レオン「行くぞ!」
四人が慌てて洞窟に駆け込むと、入り口が赤黒い溶岩で覆い尽くされて塞がれてしまう。
ジーク「セーフ」
レオン「しかし、戻れなくなったな」
リリィ「洞窟が奥の方に続いてますわ」
レオン「進むしかないか」
しばらく薄暗い洞窟を進むと、出口が見えてくる。
ジーク「おー、外だ」
レオン「ここは・・・、火山の火口付近のようだな」
マリン「みんなー、あれみてー」
マリンが指差した先には、カメの胴体にゾウの脚と鼻を足したような、奇妙なマモノがいた。
レオン「奴がここのマモノか」
ジーク「ありゃ、怠惰よりでかいぜ」
リリィ「まだこちらには気づいてないようですわね」
レオン「まずは俺とジークで奴の動きを探る。二人は後方で観察してくれ」
リリィ「わかりましたわ」
マリン「はーい」
ジーク「噴火したすぐ後に戦うのかよ~」
レオン「落石は避ければ問題ない」
ジーク「無茶言いやがって」
レオン「俺は奴の後ろに回りこむから、お前は正面から注意を引き付けてくれ」
ジーク「オッケー」
作戦会議を済ませると、四人は行動を開始する。
まずはジークがマモノの注意を引き付ける。
ジーク「おーいカメちゃん、遊ぼうぜ」
???「パォーン?ナンダオマエハ?」
ジーク「俺かぁ?俺の名はジークニール!人呼んで俊足のラストナイトだぁ!」
ジーク「お前も名を名乗れぇーい」
???「ワガナハ【フンド】・・・。パォオオオオオン!」
自己紹介が終わると、唐突に鼻から溶岩を噴射してくる。
ジーク「おわっ!?」
とっさに盾を構えて防ぐ。
ジーク「このやろー!いきなり攻撃するなんて卑怯だぞ!」
憤怒「ウルサイゾオォォォォン!」
憤怒は容赦なく溶岩を噴き出し続け、ジークは防ぐので手一杯であった。
ジーク「くっそー、うごけねぇ・・・。ん?あれはレオンか?」
憤怒がジーク相手に夢中になっていると、いつの間にかレオンが憤怒の甲羅の上に乗っていた。
ジーク「(こいつ・・・、弱点が見当たらないぞ・・・?)」
憤怒「ヌヌヌ!?ダレダ!セナカニノッテイルノハ!」
ジーク「気づかれたか!」
憤怒「パォォォオオオオオン!!」
背中に乗っている事がバレると、憤怒は激しく暴れだす。
レオン「(マズい、掴まる場所がない!)」
憤怒「パォオオオオオン!」
甲羅の上はツルツルしていて掴まる場所など無く、レオンは吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
ザザザザァァァー!
レオン「ぐはぁ!」
憤怒「トドメダゾォォオオオン!!」
倒れているレオンを踏み潰そうと、足を大きく上げる。
ジーク「させるかあぁぁ!!」
とっさに走り出すと、勢いよく下ろされる足を盾で受け止める。
憤怒「パオパオパオ、ヨクトメラレタナ」
ジーク「ぬおおおお!!」
レオン「げほっ!げほっ!、ジークすまんな・・・」
ジーク「レオン、今の内にここを離れろ!」
レオン「お前を置いて逃げれるわけないだろう」
レオンは立ち上がると、憤怒の懐に潜り込み、下から剣を突き刺す。
レオン「ハァッ!」
ザシュ!
憤怒「イタイゾォオオオウ!!」
あまりの痛みに、足を再び大きく上げる。
レオン「今だ!逃げるぞ!」
ジーク「うぇーい」
憤怒が足を下ろす前に、二人はその場から離れる。
ジーク「ヒュー、助かったぜ」
レオン「それはこちらのセリフだ」
憤怒「オマエラ!ユルサンゾォオオオオウ!」
憤怒の怒りは激しさを増し、噴き出す溶岩の量が更に増えていた。
弱点も見つからず、防戦一方の二人、その頃、後方で観察していたリリィとマリンは・・・。
リリィ「このままでは二人が危ないですわ」
マリン「どうしよー」
リリィ「わたくしも加勢するべきかしら・・・」
マリン「あぶないよー」
リリィ「でも・・・」
マリン「う~ん、あたしが歌ってみる!」
リリィ「歌?」
マリン「うん、人魚の歌にはね~、不思議な力があるの」
そう言うと、マリンが唄い始める。
マリン「ラララ~♪」
ジーク「ん?なんだこの歌?」
レオン「わからん・・・が、なにか不思議な力を感じる」
憤怒「パオーン?」
憤怒も怒りを忘れ、思わず耳を傾ける。
マリン「ラララ~・・・。わかったー!」
唄い終えたマリンが何かに気づき、レオン達に大声で伝える。
マリン「レオーン!その亀さんの弱点は頭だよ~!」
ジーク「なにぃー!?」
レオン「頭・・・。そうか、甲羅の中か!」
ジーク「なるほどな、弱点さえわかればこんな奴相手じゃないぜ!」
憤怒「パオパオパオ!バショガワカッタトコロデ、コウゲキデキマイ」
レオン「ジーク耳を貸せ・・・。ごにょごにょ」
ジーク「おっけー」
レオン「リリィー!ジークにムチを投げろ!」
リリィ「えぇ!?」
ジーク「いそげー!」
リリィ「わかりましたわ!」
思い切りムチを投げると、ジークが受け取り装備する。
レオン「行くぞ!」
レオンとジークは左右に分かれ、的を散らした事により、憤怒はどちらを攻撃するか迷う。
憤怒「コザカシイマネヲ・・・」
ジーク「ヘイヘーイ!こっちに攻撃しな!」
憤怒「ソノテニハノランゾ!」
先程の経験を踏まえて、レオンに狙いを定めて溶岩を噴射する。
レオン「フッ」
ジーク「かかったなー!」
ジークが横から回り込むと、憤怒の鼻にムチを絡めて頭を引きずり出そうと試みる。
ジーク「ぐぉおおおおお!!でてこいやぁぁあ!!」
憤怒「コザカシイゾォオウ!!」
憤怒はムチを振り解こうと必死に暴れるが、切れる様子も解ける様子もなかった。
憤怒「ナンダコレハ!」
ジーク「このムチはスペシャルなんだぜ!!」
憤怒「クソゥ!」
解くのを諦めた憤怒は、ジークめがけて突進を始める。
憤怒「コレデヒッパルコトハデキナイゾウ!」
ジーク「バカバカ!やめろって」
逃げ回るだけで引っ張る事ができず、作戦は失敗かと思われた。
レオン「(どうなるかわからないが、脱力を使ってみるか)」
意識を集中し、憤怒めがけて脱力を放つが、まるで効いている様子はなかった。
レオン「(マモノには通用しないとなると。他にいい手はないものか・・・)」
脱力も通じず途方に暮れるレオン。すると、逃げ回っていたジークがアイデアを閃く。
ジーク「レオーン!俺に考えがあるぜ!」
そう言うと、火口に向かって走っていく。
憤怒「ナニヲスルキダ!」
レオン「まさか!?」
ジーク「レオーン、後は任せたぞー!」
火口に到着したジークは、躊躇無く飛び降りる。
憤怒「ヤメロォォォォン!」
しばらくしてムチがピンと張った状態になると、
甲羅から頭がグイグイと引っ張り出され、コアが露出する。
レオン「ジーク!お前の死は無駄にはしないぞ!」
ジーク「おーい!死んでないぞー!」
ジークが命をかけて作り出した隙を無駄にしない為にも、レオンはコアめがけて全力で走り出す。
一方、憤怒はその場で踏ん張っているのが精一杯で、近づいてくるレオンに成す術も無かった。
憤怒「マテヤメロ!ハナセバワカル!」
レオン「問答無用!!」
ズシュ!、パキパキパキパキパキッ!パリーン!
憤怒「パオォォォオオオン!!」
剣を突き立てると、コアは粉々に砕け散り、憤怒の体は黒いモノとなって剣に吸い込まれていくが、
それと同時に鼻を縛っていたムチが解けてしまう。
レオン「マズい!ムチが!」
とっさに掴もうとするが、あと少しの所で掴む事ができず、もうダメかと思われた、その時。
マリン「うぅーん!重いよー!」
リリィ「レオーン!早く手伝ってー!」
岩場に隠れていたはずの二人が、いつの間にかムチを掴んでいた。
レオン「二人共、よくやったぞ!」
急いで二人のもとへ向かい、ムチを手に巻きつけると、力一杯引き上げ始める。
レオン「ジーク!大丈夫かー!?」
ジーク「なんとかな~」
リリィ「無茶しすぎですわよ」
ジーク「へっへっへ」
レオン「それにしてもお前、重過ぎるぞ」
ジーク「この重さのおかげで倒せたようなもんだぜ」
リリィ「そうですわね」
一同がある事を忘れていると、それは突然やってきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
マリン「わわわ!」
レオン「いかん!精神世界が崩れ始めた」
ジーク「早く引き上げてくれぇ~」
レオン「全力でやっている」
ジーク「おい!やばいぞ!火山が噴火しそうだ!」
マリン「えー!?本当に焼き魚になっちゃうよー」
レオン「ジーク!鎧を捨てろ!」
ジーク「いやいや、これは騎士の魂だから」
リリィ「そんな事言っている場合ではありません!」
マリン「そうだよー、このままだとみんな死んじゃうよー」
ジーク「でもなー」
レオン「ジーク、お前のしたかった事はなんだ・・・?」
ジーク「えーっと」
レオン「大切なモノを護る為に騎士なったんだろう・・・?」
ジーク「そうだった」
レオン「鎧なんて無くとも、お前の心の中に騎士の魂はあるはずだろ・・・!?」
ジーク「おっ、そうか」
ジークはレオンとの問答の末に、ラストナイトの境地に辿り着き、思い切って鎧を脱ぎ捨てた。
レオン「よく決断したな・・・」
ジーク「おうよ!」
リリィ「大分軽くなりましたわね」
マリン「これならいけそうだよー!」
三人は精一杯ムチを引っ張り、ようやくジークを引き上げる事に成功する。
ジーク「はぁ~、助かった~」
レオン「はぁはぁ・・・、早く逃げないとな」
ジーク「マリーン!俺が抱っこしてやるぜぇ」
マリン「うん」
レオン「よし、行くぞ!」
四人は休む間もなく、心の扉を目指して走り出すが、洞窟の出口は相変わらず塞がれていた。
ジーク「そいや、溶岩で塞がれてたんだっけか」
リリィ「どうしますの?」
レオン「新たな力を試してみる」
ジーク「おっ?おっ?」
レオンが意識を集中すると、心の剣が輝き始める。
ジーク「なんだなんだ?」
レオン「ハァッ!!」
輝きを纏った剣の一撃は、固まった溶岩の壁を跡形もなく打ち砕いた。
ドッカーン!
ジーク「ヒュー」
レオン「さぁ行くぞ!」
洞窟を抜ける事ができた四人は、無事に現実世界へと帰還する。
―アクマクア王宮 姫の部屋―
レオン「ふぅ・・・、戻れたか」
ディーネ「おまえたち!なにをしたのじゃ!」
レオン「ディーネ姫、今のは心を癒す魔法ですよ」
ディーネ「魔法?」
レオン「はい、ご気分が良くなったのではありませんか?」
ディーネ「う~む。言われてみれば、なんだか清々しい気分なのじゃ♪」
ジーク「ヒソヒソ・・・(姫様は俺たちが消えた事に気がついてないのか?)」
レオン「ヒソヒソ・・・(恐らくだが、精神世界にいる間は時間が進まないのだろう)」
ジーク「ヒソヒソ・・・(だから怠惰の時もおっさんが目を瞑ってたのか)」
レオン「ヒソヒソ・・・(そういう事だ)」
ディーネ「なにをヒソヒソ言っておるのじゃ?」
ジーク「いや、そろそろ帰ろうかと」
レオン「マイコが待っているしな」
ディーナ「そうか、またな。バナナおいしかったぞ」
ジーク「またバナナ持ってきてやるよー」
レオン「アクアさん、帰りもお願いします」
アクア「は~い」
五人はディーネと別れて部屋を出る。
―アクマクア王宮―
しばらく廊下を歩いていると、唐突にレオンが口を開く。
レオン「マリン、さっき姫から教えてもらった理由を聞かせてくれないか?」
マリン「いいよー。えっとねー、人間が海を汚したり、人魚にひどい事するのが許せないんだってー」
レオン「そうか・・・。みんな、先に王の間に行っていてくれ」
そう言うと、姫の部屋に引き返し、部屋の前に到着するとドアをノックする。
トントントン!
レオン「姫様、入ってもよろしいですか?」
すると、中から返事が返ってくる。
ディーネ「ダメじゃ」
レオン「それならば、ここで話しますので聞いていてください」
部屋からは何も反応が返ってこない。
レオン「姫様がなぜ人間を嫌っているのか、その理由を先程知りました」
レオン「人間が犯した罪は決して許される事ではないでしょう・・・。ですが、一度だけ私にチャンスを下さい」
レオン「今している旅を終わらせた暁には、人魚と美しい海を守る為に尽力する事を誓います・・・」
やはり何も反応は無い。
レオン「私からの話は以上です。失礼しました」
その場を離れようとすると、ドアがゆっくりと開いてディーネが少し顔を出すと、小さな声で喋りかける。
ギィー・・・
ディーネ「人間は嫌いじゃ。嫌いじゃが、お前を少しだけ信用してやる」
ディーネ「わらわが女王になるまでに、人間達の行いが改善されぬようなら・・・、その時は覚悟しておれよ?」
その言葉を聞いたレオンは、そっと振り返り一言だけ述べる。
レオン「ありがとう」
そう言うと、仲間達が待つ王の間へと向かう。
―アクマクア王宮 王の間―
レオン「みんな、待たせたな」
リリィ「何をしてらしたの?」
レオン「秘密だ」
海王「封印の方はどうであった?」
レオン「無事に憤怒を封印する事ができました」
海王「ハッハッハ!よくやった。この調子で他のマモノも頼んだぞ」
レオン「はい!」
アクア「それじゃあ、そろそろ失礼しましょうか」
ジーク「マイコが待ちくたびれてそうだぜ」
レオン「それでは海王様、お世話になりました」
海王「うむ。困った事があれば相談しにきなさい」
海王に挨拶を済ませ、マイコの待つ潜水艇へと向かう。
―潜水艇―
レオン「マイコ、待たせたな」
マイコ「用事が終わったっすか?」
ジーク「おう、バッチリ」
マイコ「それじゃ発進するっすよ」
レオン「アクアさん、お世話になりました」
アクア「みんな~、また遊びにきてねぇ~」
マリン「あたしも行きたいよ~」
レオン「お前は子供だからダメだ」
マリン「けちー!」
ジーク「アクアさん!次こそはデートしましょうね!」
アクア「うふふ、そうね」
ジーク「あぁ、別れたくない・・・」
リリィ「それじゃ閉めますわよ」
マリンとアクアに別れを告げ、ハッチを閉めて潜水を開始する。
マイコ「それでぇ~、次はどこに向かうっすか?」
レオン「そういえば次の行き先を決めてなかったな」
マイコ「特に行き先がないなら~、ナンバなんてどうっすか?」
レオン「ナンバ?」
マイコ「芸人の町で~、ここからかなり近い所にあるっす」
レオン「では、お願いしよう」
ジーク「これで行き先は決まったな」
マイコ「そんじゃ向かうっすね」
こうしてアクマクアで憤怒を倒した一行は芸人の町、ナンバに向かうのであった
第六話 完