クインシーンの姫
衛兵に追われる身となった二人は、リリィに助けを求めるべく街道を走っていた。
―街道―
ジーク「はぁはぁ・・・。ここまで来れば平気だろ」
レオン「そうも言ってられないようだ」
衛兵「むわぁああぁぁてぇぇえええい!!」
休憩する暇も無く、衛兵が追いかけてくる。
ジーク「ぬわああああ!!もうしつけーよ!!」
レオン「もうすぐクインシーンが見えてくるはずだ」
衛兵から全力で逃げる二人。
ジーク「ゼーハーゼーハー」
レオン「王子の警護ともあろうものがだらしないぞ」
ジーク「よ、鎧が重いんだよ!」
レオン「脱げよ」
ジーク「この鎧は騎士の魂なんだよ!」
レオン「そんな事知るか」
ジーク「おまえなー!薄情だなー!」
レオン「ジーク、見えてきたぞ」
ジーク「おっ?やっとか」
ようやくクインシーンの門前に到着すると、見張りの兵士に呼び止められる。
兵士「そこの二人、止まりなさい」
レオン「私はレオンハルト=シュタインだ。ここを通してもらえないか?」
兵士「これはレオン様!失礼致しました、どうぞお通りください」
レオン「すまないな。ついでに一つ頼みがある」
兵士「なんでしょうか?」
レオン「これからシュタイン城の兵士の格好をした奴らが来ると思うが」
レオン「奴らはただの盗賊だ、絶対に通してはならない」
兵士「ハッ!承知しました」
兵士にそう頼むと、二人は町に入っていく。
―クインシーン―
ジーク「はぁ~、やっと一息つける」
レオン「心の準備もあるし、城に行く前に少し休むか」
ジーク「へへへ、そうこなくっちゃな。あそこに飯屋があるぜ」
レオン「別に腹は減ってないが」
ジーク「いいからいいから」
ジークに連れられ、近くの店に入っていく。
店員「いらっしゃーせー」
ジーク「二人ね」
店員「あーい、二名様ごあんなーい」
テンションの高い店員に案内され、席に座る二人。
店員「注文が決まったら呼んでね」
ジーク「どれにしよっかな~」
レオン「俺は決まった」
ジーク「はえーなおい」
レオン「お前はテリヤキセットで良いだろ」
ジーク「嫌だ、絶対嫌だ」
レオン「わがままだな」
それから数分後。
レオン「そろそろ決めろ」
ジーク「う~ん」
レオン「もう店員呼ぶぞ」
ジーク「おいバカ!まだ決まってねぇよ」
テーブルに置いてあったベルを鳴らすと"リンリン"と音を出し、店員を呼び寄せた。
店員「決まった?」
レオン「ざるそば二人前」
店員「はーい、すぐもってくるね」
店員は厨房に注文を伝えに行く。
ジーク「二人前ってもしかして・・・」
レオン「お前が遅いのが悪い」
ジーク「ぐぬぬ」
3分も経たない内に料理が運ばれてくる。
店員「おまた~」
ジーク「はえーな!」
店員「ざるそば二人前です」
レオン「ご苦労」
店員「ごゆっくりどうぞ」
料理をテーブルに並べ終えると、店員はその場を去っていく。
二人「ずるるるるるるるるる!」
レオン「うまいな」
ジーク「うん、うまいな」
二人は黙々とそばを食べ進め、辺りにはそばをすする音だけが響き渡る。
そんな状態がしばらく続くと、唐突にジークが口を開く。
ジーク「ひひいにあうのあひはひふりははあ」
レオン「飲み込んでから喋れ」
ジーク「ゴクン」
ジーク「リリィに会うのは久しぶりだなぁ」
レオン「あまり会いたくはないがな」
ジーク「お前も罪な奴だよなー」
レオン「なにがだ?」
ジーク「リリィは曲り形にも姫だぜ?外見もかわいいっちゃかわいいし」
レオン「姫だとか外見だとか、そんなものに価値は無い」
ジーク「ならよ、何に価値があるんだ?」
レオン「心だ」
ジーク「ブーーーーッ!!」
レオンの率直なセリフに思わずソバを吹き出す。
レオン「汚いな」
ジーク「ハハハハハハ!!」
レオン「なにがおかしい?」
ジーク「よくもそんな恥ずかしいセリフが言えたもんだな」
レオン「思った事を言ったまでだ」
ジーク「それが恥ずかしいって言ってるんだよ」
レオン「そういうモノか・・・」
ジーク「まっ、気持ちはわかるけどな」
そんな話をしながら食事を終えると、ある事に気づく。
ジーク「ふぅ~、食った食った」
レオン「ところでジーク、金は持っているのか?」
ジーク「いんや~、いきなり城飛び出してきちゃったからな、サイフ持ってきてないぞ」
レオン「フハハハ!気が合うな俺もだ」
ジーク「ハハハハ、はぁ!?」
レオン「どうするかな」
ジーク「兵士から逃げ切ったのに、食い逃げして捕まるとかシャレにならんぞ」
レオン「ジーク・・・、ここはお前の鎧を担保にしてくれ」
ジーク「ダメだダメだダメだ!」
レオン「役に立たん奴だな」
ジーク「ぐぬぬ」
レオン「仕方ない、俺が交渉してくる」
レオンは店員に交渉しに向かう。
レオン「君、すこし話があるんだが」
店員「なに~?」
レオン「実はな・・・、ごにょごにょ」
店員「あぁ~、そういうことね。いいよ、立て替えといてあげる」
レオン「すまないな」
無事に交渉を成立させて、ジークのもとへ戻る。
ジーク「よぉ、どうだった?」
レオン「問題ない」
ジーク「さすがだな。なんて言ったんだ?」
レオン「ジークの鎧を担保にするから金を立て替えてくれ、ってな」
ジーク「・・・」
レオン「なにやってる、いくぞ」
ジーク「ばかやろー!!」
レオン「元はと言えば、お前が店に誘ったのが原因だぞ?」
ジーク「それとこれとは話が別だろ~」
レオン「お前も騎士なら潔く諦めろ」
ジーク「ぐぬぬ」
ジークは泣く泣く鎧を脱いで店員に預けると、二人は店の外に出る。
ジーク「はぁ・・・」
レオン「落ち込んでる暇はないぞ、早く金を作って取り戻さないとな」
ジーク「そうだな・・・、そうだよな!」
一瞬で立ち直ったジークと共にクインシーン城に向かうと、城の前にいた兵士が二人を呼び止める。
兵士「そこの二人、止まりなさい」
レオン「私はレオンハルト=シュタインだ。ロバート王にお会いしたい」
兵士「これはレオン様!失礼致しました」
兵士「しかし、いくらレオン様でも、予定の無いモノをいきなり会わせる訳には・・・」
レオン「確かにその通りだな。それならリリィを呼んで貰えないか?」
兵士「それくらいなら構いませんが」
レオン「頼む」
兵士「では、少々お待ちください」
兵士は城の中へリリィを呼びに行き、しばらくすると派手なドレスを着た少女を連れて戻ってくる。
リリィ「レオーン!」
金髪に青瞳を持ち。身長は155cm。体は細身で、髪は腰の辺りまで伸びている。
服装はというと、純白のドレスを身に纏い、手には何故かムチが握り締められていた。
ジーク「うひゃー、でたー」
リリィ「もう!レオンったら全然会いに来てくれないんですもの」
レオン「それはすまなかった」
ジーク「よぉ、久しぶり」
リリィ「なんだ、ジークもいらしたの」
ジーク「ひでぇー」
リリィ「それでぇ~、わたくしに会いに来てくれたの?」
レオン「いや、ロバート王に」
リリィ「お父様に?まぁいいですわ。参りましょう」
ジーク「ヒソヒソ・・・(ちょっとは女らしくなったんじゃないか?)」
レオン「ヒソヒソ・・・(それはどうかな)」
リリィ「二人共なにやってますの!早く行きましょう」
兵士「リリィ様!勝手な事をされては困ります」
リリィ「おだまり!」
容赦なく兵士をムチで打つ。
兵士「ヒィィィ!!」
リリィ「わたくしに意見するなど、許されませんことよ!」
兵士「ハハァ!申し訳ありません」
兵士は土下座して謝る。
リリィ「さぁ参りましょう♪」
レオン「あぁ、そうだな」
ジーク「(全然変わってなかった・・・)」
こうしてリリィの力添えにより、国王ロバートに謁見できる事となった。
―クインシーン城 王の間―
リリィ「お父様~、レオンがいらっしゃったわよ♪」
ジーク「俺もいるぞー」
ロバート「なぁにぃ~?」
レオン「お久しぶりでございます」
ロバート「おおー!二人ともよく来たな!」
レオン「突然の訪問、申し訳ありません」
ロバート「構わん構わん」
レオン「ロバート王にご相談したい事がありまして」
ロバート「うむ、申してみよ」
レオン「実はかくかくしかじかで」
レオンはバーレンシュタインで起きた事の一部始終を話した。
ロバート「ふーむ、話はわかった。マモノが世に解き放たれたとなれば一大事だな」
レオン「そこで、私が王家のモノとして、マモノを封じる旅に出ようと思うのです」
ロバート「良く言った!それでこそ俺の見込んだ男だ!」
レオン「旅をするにあたって、ロバート王にお願いがございます」
ロバート「申してみよ」
レオン「正門には我が城の兵士が待ち伏せていると思われるので、裏門を通らせて頂きたい」
ロバート「そんな事なら容易いぞ」
レオン「それと、町で異変が起きていないか調べて頂きたい」
ロバート「衛兵!」
衛兵「ハッ!」
ロバート「裏門を開けておいてやれ。それから、町に異変が起きていないか調べてくるように」
衛兵「了解しました!」
レオン「ありがとうございます!」
ロバート「うむうむ」
レオン「それでは我々はこれで・・・」
ロバート「まてまて、マモノ退治をするのなら教えておく事がある」
レオン「なんでしょうか?」
ロバート「心の鍵と心の剣についてだ」
レオン「なにかご存知なのですか?」
ロバート「うむ、心の鍵は元々は我が城の宝だからな」
レオン「そうでしたか」
ロバート「話というのは他でもない、使い方についてだ」
レオンは真剣な表情で話しに耳を傾ける。
ロバート「まずは鍵についてだが。心の鍵とは、人の精神世界に入る為の道具である」
レオン「精神世界?」
ロバート「うむ、人間誰もが心の中に自分の世界を持っている」
ジーク「おいおい、人の心に入れる道具なんてヤバいんじゃねえか?」
ロバート「もっともな意見だな。しかし、いきなり鍵を使っても入れる訳ではない」
ジーク「どういう事だ?」
ロバート「心の扉が出現していなければ、鍵は使用できない」
レオン「心の扉とは?」
ロバート「心の扉とは精神世界と現実世界を繋ぐ門。扉を出現させる方法は二つある」
ジーク「いよっ、待ってました」
ロバート「その1:相手を動揺させる その2:相手の信頼を得て心を開かせる」
レオン「ふむ・・・。おい、ジーク」
ジーク「ん?」
レオン「お前、小さい頃にリリィのパンツ盗んだよな」
ジーク「なななな、なにいってんだよ!!」
リリィ「ジーク!あなたって人は!」
ジーク「いやいやいやいや、盗んでない!盗んでない!」
ジークがわかりやすい動揺をしたその時、胸の辺りに白い光が表れた。
レオン「(これが心の扉か・・・)」
レオン「ジーク、ご苦労だった。ロバート王の言うとおり扉は表れた」
ジーク「てめぇー!俺を実験に使いやがったなー!」
レオン「フハハハ、すまんすまん」
リリィ「でも、わたくしには見えませんでしたわよ?」
ロバート「うむ、鍵の所有者にしか見えないのだ」
レオン「面白いな」
ジーク「俺をおもちゃにするなよ・・・」
レオン「(次は後者の方法を試してみるか)」
レオン「リリィ、俺に心を開いてくれないか?」
リリィ「喜んで♪」
レオン「(白く光っているな・・・)」
レオン「ありがとう。扉は確認できた」
ロバート「心の鍵について私が知っている事はこれくらいだが、まだ秘密があるかもしれん」
レオン「はい、旅の途中で色々調べてみます」
ロバート「次は心の剣についてだが、心の剣とはマモノを封印するための道具」
ロバート「マモノを再び封じるには、鍵を使って精神世界に入り、心の剣でマモノにトドメを刺すのだ」
レオン「なるほど」
ロボート「そして、心の剣を扱えるのは王家の血を引く心正しきモノだけである」
ジーク「やっぱ王家の人間だけなんだな」
ロバート「うむ、剣についてはこれくらいしかわからんが、まだ隠された能力はあるだろう」
レオン「心しておきます」
ロバート「以上で私の話は終わりだ。引き止めて悪かったな」
レオン「いえ、ありがとうございます」
リリィ「さてさて、話が終わった所で行きましょうか」
ジーク「ん?なにいってんだ?」
リリィ「わたくしもお供しますわよ」
レオン「・・・」
ジーク「おいまて、なに勝手に決めてんだよ」
リリィ「あら?なにか文句がおありかしら?」
ジーク「いやいや、ロバート王が許さないだろ」
ロバート「構わん構わん、行ってきなさい」
リリィ「これで決まりね」
ジーク「こんな危険な旅に姫を行かせていいのかよー」
ロバート「一国の王女たるもの、旅の一つや二つしなくてどうするか」
リリィ「お父様はわかってらっしゃいますわね」
ジーク「レオンもなんか言ってやれよ」
レオン「・・・」
ジーク「はぁ・・・、ダメだこりゃ」
マモノ退治の旅に無理矢理ついて来る事になったリリィ。
新たな仲間を加えた一行は、城の外に出る。
―クインシーン―
城の外に出てみると、調査を終えた衛兵が待っていた。
衛兵「ご報告致します。町人に聞き込みをした所、特に異変は確認できませんでした」
レオン「そうか、ご苦労だった」
衛兵「ハッ!それでは私はこれで」
リリィ「これでこの町に用はなくなりましたわね」
レオン「いや、まだ一つやり残した事があってな」
リリィ「なんですの?」
レオン「そば屋に金を返さないといけないんだ」
リリィ「お金?」
レオン「実はな、そばの代金が払えなかった為に、ジークの鎧を担保にして金を立て替えてもらってるんだ」
リリィ「なーるほど、だからジークが上半身裸なのね」
ジーク「てへっ☆」
レオン「だから、金を貸して貰えないか?」
リリィ「レオンの頼みなら喜んで♪」
リリィを連れてそば屋に向かい、店員に金を渡して無事に鎧を取り戻した。
ジーク「やっほー、俺の鎧~♪」
リリィ「ジーク、わたくしを一生崇め奉りなさい」
ジーク「やだねー、鎧が戻ればお前のムチも怖くないぜ」
リリィ「ムキー!」
レオン「リリィ、怒るとかわいい顔が台無しだぞ」
リリィ「まぁ!レオンったら・・・///」
ジーク「アホやってないで、次の町に行こうぜ」
レオン「裏門の先は確か海に繋がっていたな」
リリィ「ええ、サンシャインという町があって、そこには観光名所のサンビーチがありますわ」
ジーク「(水着ギャル・・・。デュフフフ)」
リリィ「ジーク、はしたないわよ」
ジーク「な、なんの事だよ」
リリィ「いやらしい事でも考えていたんでしょう?」
ジーク「フフフ、残念でした」
レオン「扉が表れているぞ」
ジーク「ぐぬぬ!」
こうして、マモノ退治をする事になった一行は、常夏の町サンシャインへ向かうのであった。
第二話 完
第二話は大まかな設定うんぬんに関する話です。